マレーシアのAHTVプロジェクトには中国政府も関心を寄せている。写真は現地を視察した金壮龍・工業情報化相(中央左側の人物、プロトンのウェブサイトより)

中国の民営自動車大手の吉利控股集団(ジーリー)が、マレーシアに大規模な自動車工業団地を建設している。同社がマレーシアの複合企業、DRBハイコムと共同で進める「自動車ハイテクバレー(AHTV)」プロジェクトだ。

AHTVの建設地は、マレーシア・ペラ州のタンジュン・マリム地区にある。中国政府の金壮龍・工業情報化相は、マレーシアを訪問中の6月18日に現地を視察し、吉利からプロジェクトの説明を受けた。

それによれば、2035年までにAHTVに年産50万台規模の完成車工場を建設し、そのうち50%を輸出する。さらに、年間100万台相当の自動車部品の生産能力も構築し、同じく半分を世界各地に供給する計画だ。

プロトンに出資して再建

吉利とDRBハイコムは2017年から協業関係にある。同年5月、吉利はDRBハイコムの100%子会社だったマレーシア自動車大手、プロトンの株式の49.9%を買い取り、東南アジア進出の橋頭堡を確保した。

プロトンはマレーシアの国民車メーカーとして1983年に設立されたが、2000年代に入ってから経営が徐々に傾き、吉利が資本参加する前は赤字続きだった。

そんなプロトンを立て直したのが、同社のCEO(最高経営責任者)として辣腕を振るう李春栄氏だ。中国出身で国有自動車大手の東風汽車集団の幹部だった李氏を、吉利は2017年にスカウトしてプロトンに送り込んだ。

「わが社の経営は2019年に黒字化した。販売台数も最悪期の年間6400台から、2023年には15万4000台に拡大した」。李氏は最近、メディアのインタビューに応じた際にそう胸を張った。

プロトンの再建に成功した吉利は、DRBハイコムとの協業をさらに拡大しようとしている。その中核がAHTVプロジェクトにほかならない。両社は2023年12月、AHTVの建設を担う合弁会社の設立計画に合意。ただし、吉利は合弁会社に対する出資比率を明らかにしていない。


吉利はプロトンを右ハンドル市場への輸出拠点として活用するもくろみだ。写真はプロトンのタンジュン・マリム工場(同社ウェブサイトより)

吉利の説明によれば、同社はプロトンの既存事業をベースに生産能力を増強することで、AHTVの建設と運営を担っていく。一方、DRBハイコムは主に開発用地の確保やインフラ整備を担当するという。

将来はAHTVの生産能力を活用し、海外の(タイ、インドネシア、オーストラリアなどの)右ハンドル市場にプロトン車を輸出する。また、吉利の傘下にある複数ブランドの車種をAHTVで生産することも検討中だ。

「AHTVでは日本メーカーや韓国メーカーの(海外進出の)経験に学び、研究開発の現地化に取り組むとともに、部品から完成車に至るサプライチェーンを作り上げたい」。プロトンの李CEOはそう意気込む。

奇瑞もマレーシアに進出

ここ数年、中国の自動車輸出が急拡大したことに伴い、(輸出先の国・地域との)貿易摩擦が過熱している。中国メーカーが海外市場でシェアを伸ばすためには、輸出から現地生産への転換を急がなければならない。

その点、東南アジアは自動車市場の成長余地が大きく、中国企業の進出に対して(欧米諸国よりも)開放的だ。こうした投資環境を好感し、多数の中国メーカーが最初の海外工場の建設地に東南アジアを選んでいる。


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例えば、国有中堅メーカーの奇瑞汽車(チェリー)はマレーシアのシャー・アラムに工場を建設。6月18日に開催したラインオフ式典には、前出の金壮龍・工業情報化相が出席した。

奇瑞汽車の新工場は、貨物取扱量が東南アジアで(シンガポールに次ぐ)第2位のケラン港に近い。同社はこの地の利を活かし、ASEAN(東南アジア諸国連合)地域への輸出拠点に育てる計画だ。

(財新記者:安麗敏)
※原文の配信は6月19日

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