誰もが知っている絵本やおとぎ話は、「そして二人は末永く幸せに暮らしました」というようにうれしい気持ちで終わるものもあれば、一部のグリム童話など残酷で恐ろしいオチのものもあります。これらの真逆な性質を持つストーリーは共通して「円を結ぶ」特徴があり、この特徴が物語を傑作にしている作劇のコツであると、ベストセラー作家のジュリア・フィリップス氏が解説しています。

Julia Phillips on the Writing Lessons of Fairy Tales ‹ Literary Hub

https://lithub.com/julia-phillips-on-the-writing-lessons-of-fairy-tales/



絵本や童話は親が幼い子どもに読み聞かせることが多いため、わくわくしたりはらはらしたりするストーリー展開の最後は、「めでたしめでたし」と終わるロマンチックかつ健全なものが望まれる傾向にあります。一方で、昔話やグリム童話では「全員、悪行の代償として処刑された」「二面性がバレた結果、森に放り込まれ野生動物に食べられてしまった」「こうしてハンスは花嫁を失った」など、「因果応報」なオチのストーリーもあります。

また、「シンデレラ」のように「つらい生活から王子に見初められて王妃となる」という幸せなストーリーでも、「シンデレラにひどいことをしていた家族は報いで大きなけがを負った」という描写がオチになっていることもあります。このような暴力的で懲罰的な物語は、道徳的な教訓を与えてくれるものであると同時に、物語を作る上で何が肝心なのかを教えてくれるとフィリップス氏は述べています。



絵本や童話などの物語の多くは、冒頭で主人公および主人公の成功を邪魔する敵、主人公が陥っている窮地などが描かれます。そしてそれらの敵や窮地は物語が終わる頃にはすべて解決され、主人公は勝利して悪役は罰せられます。この「最初に紹介されたことはすべて、最終的に解決される」という点が重要だとフィリップス氏は指摘しています。

作家兼美術学の教師でもあるクリスティン・シュット氏も、「物語の筋が途切れないこと」の重要性を説いています。シュット氏は2014年頃に開催したワークショップで、「物語は円です」と述べました。シュット氏によると、イメージやフレーズ、人間関係、設定やアイデアなどについて、物語がなんらかの形で展開し、どこかで最初に展開したものと同じものを組み込んだ場所にたどり着くと、読者は達成感を味わうことができるとのこと。



フィリップス氏は「物語を考える上で重要な関心事は、『登場人物が幸福になるか』ではなく、『読者が楽しめるか』です」と述べています。残酷な結末を迎えるおとぎ話はつらいものと感じるかもしれませんが、物語の始まりで展開した円を閉じるために必要な要素であるため、楽しいものとして読むことができます。たとえ登場人物が苦しんでしまうストーリーでも残酷な結末を書く場合でも、「円を閉じる」ことを意識すると、読者は幸せな読後感を感じることができ、優れた作品だったと読者の記憶に残ることができるとフィリップス氏は語りました。