子どもの基礎学力アップに読書をさせたいのに読んでくれない。子どもに読ませたい本と子どもが読みたい本がなかなか合わない。子どもの読書にまつわる悩みは多いものですが、元中学受験塾講師の天海ハルカさんは自身の小学6年生の娘さんの読書には一切口を出さないと言います。「本人が読みたくなければ読まなくてもいい」と語る天海さんに、中学受験と読書について伺いました。

読書が読解力に与えるよい影響3つ

子どもの読書は心を豊かにするもの。子どもにとってさまざまなメリットがありますが、その中でも勉強面に現れるよい影響は大きく3つ挙げられます。

●1:漢字や語彙が身につく

本を読むと、自然と漢字や語彙が身につきます。生活で使う漢字や語彙と、物語で使われるものとは少し違うんですよね。辞書を引いて覚えた言葉より、文脈と合わせて何度も見た言葉のほうが記憶に残りやすいようにも感じます。私自身も読書をしていたからこそ知っている言葉というのは多く、普段はあまり触れない漢字や語彙に触れられる良い機会と言えます。

●2:長い文を読むことに慣れる

文を読むのにも慣れというものがあります。長い文を読み慣れていれば、長い文に圧倒されなくなるというのも見逃せないメリットです。中学受験の国語では平均すると1万字ほどの文章を読みますが、これは文庫本だと15ページを超えます。たくさんの文を抵抗なく読めるということは、とても大きな力なのです。

●3:展開パターンがストックできる

世の中にはさまざまな物語がありますが、その展開にはある程度のパターンがあります。たとえば「部活には入らないと豪語していた子がじつは部活で挫折した子だった」「忙しくて運動会には来られないと言っていた親がとこっそり見に来てくれていた」というような展開は、細部に違いこそあれさまざまな物語で見られるでしょう。

話のパターンをたくさん知っていると、読んでいる途中にある程度予測がつくため、文章を理解しやすくなることも。直接点数には結びつかないかもしれませんが、読解問題においてはアドバンテージになりますね。

「読書」と「読解」は違う!

読書によるよい影響は多いですが、重要なのは読書と読解はそもそも読み方が違うということです。子どもが読書をするときは気持ちが乗らなければななめ読みをしたり、難しい漢字や語彙を飛ばしたりします。だれかに感情移入をし、ときには最後まで読みきれないこともあるでしょう。これらは読解問題を解くうえで、よい読み方とは言えません。

漢字や言葉を読み飛ばせばそれらの知識は身につきませんし、そもそも易しい語彙で書かれた本を読んでいたら吸収するものは少ないですよね。文の量でも同じことが言えます。かといって中学受験に出題されるような物語を普段から好んで読みきれる子は少なく、無理に読まされても集中しては読めません。

読書は正確性を抜きにして、好きなように読み、本の内容を楽しむものです。しかし読解問題では、書かれていることを正確に読み取る力が求められるもの。文章すべてにきっちり目を通し、感情ではなく論理的に読み取っていきます。つまり、読書と読解は読み方が違うので、無理に読書をさせても読解力につながるメリットを得られるとは限らないのです。これが、私が子どもの読書に口を出さない理由です。

読解力を上げたいなら、読解問題を解かせたほうが効率的

子どもに読書をさせたい理由の多くは、読解力を身につけさせたいからだと思います。それならば読書と読解は分けて考え、読解問題を解かせたほうが効率的です。授業で扱わなかったテキストの文章などもどんどん読ませたいですね。

漢字は書いて覚え、語彙は普段の生活で分からないものに出会ったらすぐに調べたり聞いたりする。漢字や語彙の知識も文章を理解する読解力も、読書でなく勉強で身につけていけばよいのです。

読書による勉強効果はあくまで副産物です。読書が好きな子は読めばいいし、好きではない子は読解の勉強をした方が有意義だと考えます。それでも読ませたいなら、読書を趣味としての自由時間ではなく勉強時間としてカウントしてあげたいですね。

読めと圧をかけたら、活字嫌いになる可能性も

本は「読め」と言われると読みたくなくなる気がします。個人的には、圧をかけて活字嫌いにさせてしまうのは避けたいんですよね。もちろん子ども自身が読みたいというときはぜひ読ませたいと思っていますが、そうでなければ本人の好きにさせたいなと。

わが家の娘は読書好きですが、好んで読むのは中学受験で出題されるような本ではありません。同じ作家の同じシリーズを楽しんでいるので、勉強としての効果は薄いですが、趣味としてそのまま読んでほしいですね。

読書が好きな子なら、出題回数の多い作家やテーマの本を選んであげると入試にも役立つでしょう。わが家のように本人がそこまで読書に興味を示さない場合は、本人が活字嫌いにならないよう適度な働きかけにとどめ、本人が興味を示したときには全力でサポートしてあげるとよいのではないかと思っています。