災害の備えとして、常識となりつつある「非常用持ち出し袋(ゴーバッグ)」。しかしその中身は、住んでいる場所や生活スタイル、想定される災害に合うようにそれぞれがカスタマイズする必要があります。今回は、自衛隊危機管理教官・川口拓さんのゴーバッグとその中身をご紹介します。

「ゴーバッグ」には72時間生き抜くために必要なものを入れる

「ゴーバッグ」とは、避難するときに持ち出す荷物のことで、“非常用持ち出し袋”を指します。

『災害からテロ、ミサイル攻撃までまさか!?の非常事態で「死なない技術」』(扶桑社ムック)の著者で、自衛隊危機管理教官・川口拓さんによると、持ち運べる量は限られるので、できるだけコンパクトで多用途に使える道具を選ぶようにすることが大切だそう。自宅はもちろん、勤め先にも置いておきましょう。ゴーバッグの中身は、基本的に72時間生き抜くために必要なものを入れておくと考えればOK。

いちばん上の写真は、川口さんがゴーバッグにしているザックです。「体温を守る」「水・空気を得る」「火の道具」「救助を呼ぶ道具」「食」というようにカテゴリーごとにまとめて収納しています。このバッグは写真右のようにパカッと開くので、中が見やすく取り出しやすい。

大切なことは「今すぐつくる」こと

市販されているものでも役立つものがたくさんありますが、できれば自分の被災時のストーリーをつくり、それに合う内容のものを自ら選びたいもの。

ゴーバッグは、「自分になにが起こりうるのか、だれとどこにどう逃げるのか」を想定したうえで、自分で中身を選べば、そのバッグはより実践的で役立つものになります。

ただし、「あまり凝りすぎないほうがいい」と、川口さん。完璧なものをつくろうと思うと高価なものが増えてしまい、つくるのが面倒になってつい先延ばしになってしまうものだからなのだそう。

それよりも大切なことは、100円ショップで買ったものでいいので「すぐにつくること」。この「今すぐつくる」ということが大切だと、川口さんは言います。

ここからは、川口さんのゴーバッグの中身を、その用途ごとに紹介していきます。

体温を守る道具

人は体温を確保できないと3時間で死にます。だからこそ、最優先したいのが体温確保の道具です。

<エマージェンシービビィ>

薄手だが暖かい緊急用の寝袋。下のエマージェンシーシートと似ているが、袋状なので空気が逃げず、より暖かい。

<エマージェンシーシート>

防犯上など、身動きが取りにくい袋状の寝袋に入るのが好ましくないときは、上に掛けるだけのシートを使う。

<パラコード>

シェルターづくりに欠かせないパラコード。いろいろな長さのものをカラビナでまとめている。 

<ニット帽>

頭から多く放熱するので、小さくても帽子は体温保持に非常に有効。綿よりニットやフリース製のほうが暖かい。

<ウールの下着上下>

かさばる上着などはバッグに入らなくても、これなら収まる。ウールは濡れても保温がきく。

<レインコート>

雨風を防ぐのはもちろん、中に新聞紙を入れて防寒具としても使う。

<ブルーシート>

シェルターづくりに使用したり、地面に敷いたりして使える頑丈なシート。タープでもいい。

<ミニマット>

地面からの冷えを防ぐためにお尻に敷くもの。アウトドア用のものは小さく畳むことができる。

<新聞紙>

くしゃくしゃに丸めてビニール袋に入れれば立派な保温材に。焚きつけなど、ほかにもいろいろ使える。

<ビニール袋>

新聞紙を丸めて入れ、保温材に。同様の方法で座布団もつくれる。ほかにもいろいろ使える多用途な道具。

水・空気を得る道具

空気がないと3分、水がないと72時間で人は死に至ります。救助のタイムリミットが72時間とされているのはこのため。つまり、飲料水を確保できれば避難所などの安全な場所に行くまでのタイムリミットを延ばすことができ、より余裕を持った避難が可能に。

<ボトル>

アウトドア用の水筒も携行。2リットルの容量があるが、くるくると丸めてコンパクトに持ち運べる。

<飲料水>

500mlを1、2本、可能であれば持てるだけ持つ。飲料水は、ありすぎて困るということはけっしてない。

<マスク>

普通のマスクではなく粉塵用。ビルなどが倒壊したあとの粉塵は、のちのちの健康にも影響を及ぼす。

<浄水器>

ゴーバッグの水が尽きた際にはこれを用いる。ボトル型なので、水筒として普段から持ち歩くとよい。

食料

食品も、飲料水と同様。確保できれば避難所などの安全な場所に行くまでのタイムリミットを延ばすことができ、より余裕を持って避難できる。

<日持ちする食料>

3日間生き残るためだけなら食料は必要ないが、食べ物は心のエネルギーにもなるので持っていく。日持ちするものをチョイスしましょう。

火の道具

火は72時間生き残るのに絶対必要なものではありません。しかし、持っていれば、暖を取ったり暖かい食事をとることで、生きるためのエネルギーが湧いてきます。

<バーナーとガス缶>

どこでも湯を沸かしたり、料理したりできるアウトドア用のガスバーナー。便利なのでぜひ持っておきたい。

<コッヘル>

料理をするのにも、そのまま食器としても使えるアウトドア用のコッヘル。中にバーナーを収納できる。

<マッチとライター>

着火するための道具を2種類。どちらも水や湿気から守るため、小さなファスナー袋に入れている。

救助を呼ぶ道具

万一、建物に閉じ込められたり危険な場所に孤立したりした場合、発見され救助されるかどうかが生死を分けることに。そのための道具もゴーバッグに備えておくべきです。

<伝達用メモとペンとヒモ>

家族と離れ離れになったときなどに書き置きしておくためのメモ帳とペン、結びつけるためのヒモもまとめて入れておきましょう。

<ミラーとホイッスル>

光で自分の存在を教えるミラーと、音で知らせるホイッスル。セットになっているものを所持。

<ヘッドライト>

両手が自由になるヘッドライトは、作業をするときや移動をするときに便利。光で救助を呼ぶシグナリングにも使える。

<ランタン>

周囲全体を明るく照らすランタンは、夜の闇の中で全方位に自分の存在を知らせることができる。

<まとめ袋>

シグナリング(救助を呼ぶ)の道具は、小さなスタッフサックにまとめて収納。すぐに取り出せるようにしている。

<ケミカルライト>

折ると化学反応で光るライト。電池が必要なく、熱や炎を発することもないので、都市災害でも安心して使える。

<ハンマー>

釘を打つためではなく、音を出すために小さなハンマーを持っている。鉄柱などを叩くとかなり大きな音が出る。

<発炎筒>

煙と光で存在を知らせる発炎筒。自動車用のものは安価なので何本か持っておいてもよし。 

<ソーラー充電器>

極めて優れたシグナリングの道具である携帯電話に充電できる、ソーラーパネル。充電ぎれがなくなる。

以上が、川口さんのゴーバッグの中身。これを基準に、不要なものを外し、不足したものを加えると考えやすいかもしれません。ゴーバッグは家族全員分、ひとりにひとつずつあるのが理想。想定していた脱出路が確保できないことも考え、玄関だけでなく枕元や勝手口など、複数の場所に置いておきたいものです。