「成人脊柱変形症」の初期症状はご存じですか? 原因や治療法も医師が解説!

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腰背部の痛みをはじめとする、様々な症状を引き起こす「成人脊柱変形症」。特に近年では高齢化に伴い、「腰曲がり」の患者数が急増しています。症状を重症化させないためには早期発見が非常に重要とのことです。一体、どのような症状に注意すべきかについて、「品川志匠会病院」の光山先生に解説していただきました。

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監修医師:
光山 哲滝(品川志匠会病院)

日本医科大学卒業。その後、東京女子医科大学脳神経外科に入局。国際医療福祉大学三田病院脊椎脊髄センター、亀田総合病院脊椎脊髄外科、テュービンゲン大学脳神経外科などを経て、2016年より東京都品川区に位置する「品川志匠会病院」で勤務。2022年、院長に就任。医学博士。日本脊髄外科学会技術指導医、日本専門医機構認定脳神経外科専門医、日本専門医機構認定脊椎脊髄外科専門医、日本脊椎・脊髄神経手術手技学会学術評議員。

成人脊柱変形症とは?

編集部

まず、成人脊柱変形症について教えてください。

光山先生

脊柱が本来の生理的な形から、大きく曲がった形になることを「脊柱変形」と言います。脊柱変形には、先天的なものや学童期に発症するもの、感染や椎体骨折後、脊椎手術後(固定術後)に生じるもの、加齢に伴う変化が積み重なって変形をきたすものなどがあります。そのなかで、成人期に発症した脊柱変形を成人脊柱変形症と言います。現在、日本では高齢化に伴い、加齢による脊柱変形が増加しています。

編集部

「脊柱が変形する」とはどういうことですか?

光山先生

脊柱とはいわゆる背骨のことで、頭側から頚椎・胸椎・腰椎・仙椎という脊椎骨がクッションの役割をする椎間板を間に挟んで、積み重なって構成されています。正常な脊柱は、前後方向に生理的に弯曲することで、少ないエネルギーで立位の姿勢を維持することができます。そして、頚椎と腰椎は前方に、胸椎は後方に弯曲しています。しかし、なんらかの原因により、この弯曲のバランスが崩れ脊柱が大きく曲がってしまう、つまり「脊柱が変形する」ことがあります。

編集部

どのように曲がることが多いのですか?

光山先生

弯曲は、左右方向へ曲がる「側弯」と、前後方向へ曲がる「後弯」とがあります。特に最近は、高齢者の後弯や後側弯が増えています。高齢者の後弯は、腰曲がりとしても知られ、変形が進むと日常生活に様々な支障を引き起こすことがあります。

編集部

たしかに、腰が曲がっている高齢者を多く見かけます。

光山先生

なかには「年のせいだから仕方がない」と、諦めている人も少なくありません。しかし、腰曲がりが進行すると、腰の強い痛みなどにより立位や歩行を維持できなくなり、日常生活に支障が生じます。

脊柱変形はなぜ起きるのか?

編集部

なぜ、脊柱が変形するのですか?

光山先生

成人脊柱変形が起きる一番の原因は加齢です。人間の背骨は脊椎骨が連なって構成されていますが、その間には椎間板という組織が挟まっています。この椎間板は、衝撃を吸収するクッションの役割を果たしていますが、加齢とともに椎間板が変性し、弾力を失っていきます。その結果として、上下の脊椎骨にすべりや傾きが生じることがあり、それらが積み重なることで背骨が変形し、腰が曲がってしまうのです。

編集部

背骨の加齢が原因なのですね。

光山先生

そのほかにも、加齢とともに筋力が低下したり、骨粗しょう症が原因となって背骨に骨折が起きたりすることでも、背骨の変形が促されます。

編集部

腰曲がりなどの成人脊柱変形症は、どのような人に多くみられるのですか?

光山先生

中高年以上の人に多く発症し、特に女性にみられることがわかっています。なぜ男性と比べて女性に多く発症するのかというと、女性の方が骨粗しょう症の発症が多いことが原因として考えられています。

編集部

なぜ、女性の方が骨粗しょう症を多く発症するのですか?

光山先生

女性ホルモンの1つである「エストロゲン」が関わっています。エストロゲンには骨の強度を保つ働きがあるのですが、閉経後の女性ではエストロゲンの分泌量が減少し、骨粗しょう症を発症することが多いですね。また、エストロゲンの減少により、椎間板の変性が進みやすいとの報告もあります。

編集部

どのような初期症状がみられますか?

光山先生

長い時間歩いたり、立ったりしたときに生じる腰背部の痛みです。腰曲がりの状態になると、腰や背中に大きな負担がかかるようになることが原因です。座ると痛みが軽減し、ふたたび歩いたり立ったりすることができます。このような「疲労性腰痛」による立位歩行障害が、成人脊柱変形症の特徴的な症状です。

編集部

そのほかには?

光山先生

背骨には脊髄や神経根という、神経の保護組織(通り道)という役割もあります。脊柱が弯曲することで、その神経の通り道が狭く(脊柱管狭窄症)なり神経に障害が生じると、足に痛みやしびれ、ときに麻痺などが出現します。そして、腰や足の痛みで長く歩けない状態が続くと、足腰の筋力が衰えてきます。また、弯曲によりお腹が圧迫されることで、食後に胸焼けや胃もたれなど逆流性食道炎のような症状を自覚したり、食欲が低下したりすることもあります。

受診から診断までの流れ

編集部

医療機関では、どのような検査がおこなわれますか?

光山先生

まずは立位での全脊椎のレントゲン検査をおこない、背骨の全体的なバランスを確認します。その際には、正面と側面の2方向から背骨の配列を確かめ、弯曲の程度を調べます。そのほか、痺れや麻痺などの神経症状が出現している場合にはMRI検査をおこない、神経の圧迫の有無を調べます。

編集部

様々な検査をおこなうのですね。

光山先生

さらに、CT検査で骨の形状や椎間板の変性と横になった状態で、脊柱変形がどの程度改善されるかを確認します。骨粗しょう症を伴うことが多いので、骨密度検査も実施します。

編集部

脊柱変形と診断された場合には、どのような治療をおこなうのですか?

光山先生

症状が軽度であれば、痛みを軽減するための薬物療法や筋力を維持するための理学療法をおこないます。腹筋や背筋など体幹の深筋群の運動療法で症状が軽減することがあります。そのほか、姿勢を意識しての散歩や水中での歩行なども効果があるようです。

編集部

そのほかにも治療方法があれば教えてください。

光山先生

痛みが強い場合には、ブロック注射をおこなうこともあります。ただし、腰や足の痛みを軽減することが目的であり、脊柱変形そのものを治すことはできません。

編集部

それらの治療をしても症状が進行したり、日常生活に支障があったりする場合はどうするのですか?

光山先生

全身状態を考慮した上で、手術治療を検討します。手術は、様々な固定手術を組み合わせ、ときに背椎骨の一部を削除し、生理的な背骨の弯曲に近い形状にする矯正固定術となります。

編集部

手術をすると腰が真っすぐになるのですか?

光山先生

はい。手術後には腰曲がりの状態が改善し背中が伸ばせるようになります。長時間歩いても腰の痛みが出なくなり、歩行障害も解消されます。そして、「真っすぐ立てるようになった」「長く歩けることで外出や旅行ができるようになった」「足の痛みがなくなった」など、日常生活動作が改善します。

編集部

反対に、手術のデメリットはありますか?

光山先生

動きのある背骨を矯正固定するので、その範囲での背骨の動きが失われます。それによって、下着を履くなどのかがむ動作がしにくくなることがあります。また、ほかの背骨の手術と比べて、手術時間が長く出血量が多いなど侵襲が大きい手術です。しかし、「年のせい」と諦めていた腰曲がりによって制限されていた歩行など日常生活動作が、手術によって改善することが期待できます。ただし、受診したら必ず手術というわけではないので、気になる症状があれば、まずは専門医にご相談ください。

編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

光山先生

ここ10年くらいの間で、成人脊柱変形の病態解明が一段と進み、術式もより侵襲の少ない方法へと改善されています。そのため、腰曲がりなどで悩んでいる場合は「年のせいだから仕方ない」と諦める前に、脊椎の専門医にお気軽にご相談ください。ただし、足の麻痺などの重度の症状がある場合には、早めに受診してください。

編集部まとめ

現在は、人生100年時代と言われています。健康で長く暮らすためには、健全な背骨が重要です。全身状態にもよりますが、高齢者でも安心して手術を受けることができるとのことだったので、もし脊柱変形に悩んでいる場合は専門医に相談してみてはいかがでしょうか。

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