(左から)上川周作、井之脇海、窪塚愛流、篠原悠伸

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2024年9月に東京・スパイラルホールにて、モチロンプロデュース『ボクの穴、彼の穴。W』が上演される(その後、大阪公演あり)。

本作は、松尾スズキが翻訳した絵本『ボクの穴、彼の穴。』(千倉書房)が原作の二人芝居で、戦場に残された敵対する二人の兵士の様子をユーモアを交えながら描いた作品となっている。これまでPARCOプロデュースで2016年、2020年と上演されてきた。

過去2回の上演に引き続きノゾエ征爾が翻案・脚本・演出を務め、キャストは<井之脇海・上川周作ペア><窪塚愛流・篠原悠伸ペア>の2チームで上演される。

本作に挑む気持ちを、出演者の井之脇海、上川周作、窪塚愛流、篠原悠伸に聞いた。

『モチロンプロデュース「ボクの穴、彼の穴。W」』2024年9月上演! <SPOT>

ノゾエさんの作品は最初と最後で見え方が変わる

ーー本作は二人芝居でダブルキャストという企画ですが、このお話が来たときにまずどう思ったのか、そして出演を決めた一番のポイントはどこだったのか教えてください。

上川:僕は大人計画所属なのですが、まだ松尾さんとお仕事でご一緒したことがないんです。本作は松尾さんが翻訳をされているので、そういった関わりを持てることが嬉しいな、という思いが強くありました。二人芝居をやらせていただくということは、役者としては本当にありがたいお話ですし、こちらから手を挙げてでもやりたいぐらいに思っていたので、お話を聞いたときは食い気味で「やります!」とすぐに返事をしました。

井之脇:舞台は、一昨年に『エレファント・ソング』で3人の芝居、昨年『カモメよ、そこから銀座は見えるか?』で6人の芝居と、少人数の芝居は役者の技量が試されるなと感じたんです。もっと少人数の舞台をやってみたいなと思っていたら、まさに二人芝居のお話をいただいて、お話をいただけたことに縁を感じて、ぜひやりたいとお返事しました。何でもいいから二人芝居がやりたいわけではなくて、本作を読んだときに、現代を生きる人たちに響くことがたくさんあるような戯曲だなと思いましたし、役者のやりようによって、いい意味で全然違うものになる可能性があると思ったので、ダブルキャストでの上演ということで、ある意味ライバルですが、お互いに様々な形を見せることができそうだなと思って、挑戦してみたいと思いました。

窪塚:僕は正直、3回悩んだんです。初めてお話をいただいたとき、初舞台で二人芝居をやるのはちょっとやばいなと思って(苦笑)。自分では担えないんじゃないか、と思ったので「ごめんなさい」とお断りしました。そうしたら「もう1回考えてほしい」と言われて、それでマネージャーさんともう一度話して、でもやっぱり「怖い」という気持ちが強くて、失敗することばかり考えてしまって、やる前からすごくびびってしまったんです。それでまたお断りしたのですが、最後にノゾエさんを含めて喫茶店でお会いしてお話しをしまして、舞台の稽古のことから、自分の信条のことまで同じ目線ですごく寄り添ってくださったので、それで決意しました。あと、やはり本が面白かったというのが大きかったです。自分は戦争についてこういう視点で考えたことがなかったですし、セリフにも現代的な要素が詰め込まれているので、身近に感じてグッと話にのめり込めました。

篠原:このお話をもらって本を読んでみたら、めちゃくちゃ面白くて、だから僕は断るとかは全然考えてなかったです(笑)。こんな面白い本で、僕が参加させていただいていいんでしょうか、みたいな気持ちでした。本の面白さとして、なんだか「声に出して読みたい日本語」みたいな感じがあるんですよね。あと、ダブルキャストなので、同じ料理なのに違う味がするものが出来上がる、というのは面白そうだなと思って、ぜひやりたいです、とお受けしました。

ーー演出のノゾエさんの印象はいかがでしょうか。

上川:ノゾエさんの作品は、最初と最後で視覚的に見えているものが違うところが、すごく遊び心を感じられて好きなんです。だから今回、どういう美術でどんな舞台になるのか、というところがまず楽しみですし、お客さんの目が美術ばかりに行かないように、意味のあるものをちゃんと伝えていけるようにしたい。どう作っていくのか、すごく楽しみですね。

井之脇:僕も同じで、舞台美術が激しく入れ替わるわけではなく、ワンシチュエーションなのに役者が何か負荷を与えることで見え方が変わっていく、というところが面白いなと思います。今回はどうなるかまだわからないですけど、多分穴が二つあることは最初から最後まで変わらなくて、でもその穴の見え方というものがどう変わっていくのかが、演じる側としても楽しみですし、お客さんにも楽しんでもらえたらな、と思います。あと、篠原さんがさっき言っていた「声に出して読みたくなる」というのはすごくわかります。ノゾエさんの今までの作品も、観ていて、言葉が面白かったり間が面白かったりしたので、演出を受けられるのがすごく楽しみです。

窪塚:ノゾエさんの作品は、劇場に足を踏み入れると自分もその舞台の世界に入ってるような感じがすごくします。もちろん舞台と客席の区切りはあるんですが、空間としては区切られていないというか、客席からも一緒にその世界観に入り込めるところがすごく好きです。今回も自分たちのお芝居で、よりお客さんを引きずり込むイメージで世界観に連れていきたいなと思いますし、いろいろ楽しみたいです。

篠原:ノゾエさんの作品からは、いい意味で何を考えているのかわからない感じを受けます。自分が想像していたものとは違うものが出てきて面白いので、この作品でも稽古場でどんなアイディアがノゾエさんから出てくるのかが気になっています。早く稽古したいですね。

モチロンプロデュース『ボクの穴、彼の穴。W』チラシビジュアル

いつかこのメンバーで山登り?!

ーー今回は2チーム制ということで、ご自身が共演する相手の印象を教えてください。まずは篠原さんから。

篠原:愛流と最初に会ったのは本作のビジュアル撮影のときで、今日で会うのは2回目です。会う前は、20歳ということもあって、ギンギラギンに尖ってるんだろうな、みたいに想像していたんです(笑)。でも実際に会ってみたら、全然物腰が柔らかくて「勝手な想像しててごめんなさい」と思っちゃいました(笑)。初対面のときは挨拶くらいしかできなかったんですが、今日こうやって話してみたら、本当に優しくて。

窪塚:こちらこそです(笑)。

篠原:僕の方が11歳ぐらい年上なんですけど、愛流に「なんて呼んだらいい?」と聞いたら「愛流で」と言われて、「じゃあ僕も悠伸って呼んでくれ」と言ったら「それは駄目です」と断られてしまいました(笑)。年齢差を気にして「悠伸くんと呼ばせていただきます」と言ってくれて、すごく優しいな、と思ったんですけど……(窪塚に)本当に「悠伸」って呼んでいいからね?

窪塚:わかりました、はい(笑)。じゃあ、僕から見た悠伸の印象を。

篠原:早速呼んでくれた(笑)。ありがとう。

窪塚:初めてお会いしたときは、本当に一瞬だったんですよね。僕が先に撮影に入っていたので、自分の分がほぼ終わったところで、悠伸が撮影しているところを見ることができました。怒りの感情とか悲しみの感情とか、指示されたいろんな表情をしながら撮影をしていて、それを見たときに、悠伸からどういう芝居が出てくるんだろうな、と楽しみになりました。びっくりするものがポンポン出てきそうで、そこをお互い自分たちのものにできたらいいなと思いました。

篠原:あぁ、プレッシャーです……やばいですね(笑)。

窪塚:期待しています!

ーー井之脇さんと上川さんはいかがでしょうか。

井之脇:周ちゃんはドラマ『季節のない街』に出演しているところを見たのですが、ちょっと声が高いところも含めて強く印象に残っていて、今回ご一緒すると聞いて、この作品を通してどんな芝居をされるんだろうな、と楽しみになりました。会うまでは緊張したんですけど、ビジュアル撮影のときに会って話をしたら、僕は山登りが好きなんですけど、なんと周ちゃんも山が好きということがわかって。

上川:でも、お会いした時はまだ登ってなかったんですよ。ちょうど興味が湧き始めて、登りたいな、と思っていたときに、海ちゃんが山好きと聞いて、もう師匠だ、と(笑)。海ちゃんは百名山のうち、もう22も登っているんだよね。

井之脇:山好きに悪い人はいないので、その時点で「絶対いい人だ」と思って、それから連絡先を交換しました。「登りに行きます」と言って本当に行く人ってなかなかいないんですよ、僕の経験上。でも周ちゃんは本当に登りに行ってくれたので、それもすごく嬉しくて、なんかもう大好きになっちゃいました。

上川:海ちゃんは、仁王立ちが似合うんですよ。

井之脇:初めて言われた(笑)。

上川:海ちゃんには優しい印象を勝手に抱いていたので、ビジュアル撮影で仁王立ちしたときの、正面からでも物怖じしない感じが頼りになる大木のように思えて、僕はそれで一発で惚れました(笑)。あとお話ししたら本当に優しくて、こっちの話を引き出してくれて、だからついつい喋りすぎないように気をつけないとな、と思っているんですけど、全部受け止めてくれて。稽古でもそういう関係性は大切にしたいと思っているので、いろんなコミュニケーションを取りながら進めていきたいなと思います。

(左から)上川周作、井之脇海、窪塚愛流、篠原悠伸

ーーいつか2人で山登りする日が来るかもしれないですね。

窪塚:そのときは僕らも呼んでください。僕も山登ったことあるんで。

井之脇:そうなんですね! じゃあ行きましょう!

窪塚:ぜひぜひ。悠伸も行くよね?

篠塚:は、はい、行きます……結構、気温差とかあるんですか?

井之脇:まあありますけど、でもいろんな山があるので。

篠塚:はい、もうついて行きます!

井之脇:山、行きましょう。いやあ、いい人ばっかりですね(笑)。

本作で描かれていることは誰にでも起こりうる

ーー台本を読んで、ご自身の役作りについて現段階でどのように考えていらっしゃいますか。

上川:僕は台本を読み始めたら止まらなくなっちゃうので、視野が狭くならないように、ちょっとブレーキをかけながらやっていかないとな、と思っています。どんどんのめり込んでしまって、自分のことが書かれてるような感覚になってしまうぐらい身近な話にも感じるし、戦地での話だけど、ふと戦地の事を意識させないような瞬間もあったりすると思うので、それを自分がどうやって体現できるだろうか、と考えたときに、やっぱり今の僕自身の感覚を大事にしたいなと思いました。ご飯が美味しいとか、こういうことはやっちゃだめだとか、日常を生きている中で積み重ねている感覚が、戦争に行ったときには全て奪われると思うんです。それで考え方がどんどん極端になっていったりすると思いますし、そうなっていかないように自分の中に葛藤を作るためには、今の僕の感覚を使って、気持ちのグラデーションを作っていけたらいいなと思っています。

井之脇:孤独というものをどこまで探求できるか、ということが必要なのかなと思っています。孤独になるということは、縛られた生活から解放された喜びが最初はあったかもしれないし、いろんな感情があると思うんですよね。本当の孤独の感覚というのは、現代に生きてる限り、ネットとかSNSとかすぐに誰かと繋がれちゃう中では味わえないと思うので、そこは研究したいなと思っています。それこそ山に行って一人で寝泊まりするというのもありかもしれませんね。

窪塚:正直まだそこまで読み込めていないのですが、この作品はあまり時代を遡らずに今の時代に置き換えられると思うので、だからこそその当時の時代の当たり前とか概念とかではなくて、今の時代の僕たちの感覚を大切にした方が、より若い世代の方々にも響くのかな、と思いました。それが作品にどう生きるかはまだわからないですが、今と昔の考え方や価値観の違うところを大切にしながら作品に臨みたいと思います。

篠原:台本を読んでいて思うのは、彼らは思ってることを全部言葉にしている人たちだな、ということです。口ではこう言っているけれど、本当は心の中でこう思ってる、みたいなことはなくて、全部言葉にして言っているんですよね。僕は普段そんなに思ったことを口に出さないので、これはとてつもなくカロリーを消費するだろうなと思いました。だからまずは体力をつけたいと思って……やっぱり山登りに行きましょうかね(笑)。

ーー舞台初挑戦の窪塚さんをどうやって篠原さんが引っ張っていくのかも楽しみですね。

窪塚:はい、すっごく楽しみです!

篠原:引っ張る……!? うーん、そうですね……いっぱい駄目出しします。いや、嘘です、そんなのないです(笑)。でも、僕もいっぱい影響を受けると思うので、それも楽しみですね。だから引っ張るとかじゃなくて、一緒にやれたらいいなと思っています。

ーー本作は登場人物の名前が「ボクA」と「ボクB」となっています。自分の役、そして相手の役についてはどのように考えていますか。

上川:この2人が経験していることは誰にでも起こり得ることだな、ということはすごく感じています。僕の演じるAはいじめられていた過去があったり、一方でBはこの戦争中に大切な仲間を失っていたり、それぞれ経験してきたことや置かれてる状況は違うけど、逆の立場になっていた可能性も全然あるんですよね。そういう意味では、2人の間に大きな違いはない中で、演じる人によって全く違うキャラクターができると思います。お客さんに面白いものを届けるためにはどうしたらいいのか、これから稽古で試行錯誤しながら頑張って見つけていきたいと思います。

井之脇:まず、2人には特定の名前が付いていないということは、誰かであり誰でもないということだと思います。これは誰にでも起こりうることで、演じている僕らも含めて見てる人も当事者かもしれない。だからこそどのようにでも演じられるけど、僕自身が真実味を持って演じなければいけないな、と思っています。Bに関して言えば、マイケルという仲間を失っていて、そうしたヒントを手がかりに、いろいろ想像して組み立てて役を作っていくしかないのかなと思います。二人芝居の面白さは、相手がいることで自分の役がいろいろ見えるようになってくる、というところにもあるような気がしています。

窪塚:台本を読んで、あまりAもBも変わらないな、と思いました。相手を見るとき、なんだか自分を見ている感じがするというか、あまり自分の中でAとBを切り分けて考えていないかもしれません。持っている感情や置かれている立場は一緒だし、だから2人で会話してるように見えるかもしれないけれど、AもBも自分自身と対話してるというか、僕はあんまりAとかBとか気にしていない、というのが現段階の気持ちです。

篠原:僕もAとBの間にあまり違いは感じなかったです。だからB役です、と言われたときに「なんだBか」ともならないし「やったBだ」ともならなかったんですよね。ずっと孤独だったAと、途中から孤独を知ったB、という違いはあるとは思いますが、基本的なところは一緒だなと思いました。

相手を知ることは芝居に繋がっていく

ーー本作は「知る」ということがテーマの一つで、非常に良く似た2人がお互いの同じところ、そして違うところを知っていく、という過程が重要になってくると思います。これからお稽古を一緒にしていく中で、相手役との関係性を築く上でも、お互いにどんなところをどのように知って行きたいと思いますか。

上川:例えば「僕はこれをやったから」と相手にも同じことを求めたりするような、自分本位で全て物事が進むと思ったらそうじゃなかった、というような価値観のずれが火種となって争いが起こるということを、台本を読んですごく考えさせられました。同じ価値観や考えで同じ方向を見るということは、やはり人の数がいればそれだけ違いが出てくるし、同じものを求めすぎると絶対に争いが起こってしまうんだと思いましたし、相手を受け入れることや認め合うことは決して簡単なことではないと思います。でもまずは何かを知ることから始めていこう、という気持ちでいればいいんじゃないかなと。最近何で笑ったとか、何で怒ったとか、本当にそういうことからでいいと思うんですよ。そうやって始めていけば、この作品を走り切る頃には相手に対する認識はものすごく変わっているんじゃないかなって。稽古でいろいろ知っていくのが楽しみですね。

井之脇:僕は、上川さんの駄目なところをいろいろ知りたいなと思います。それは悪い意味も込めてかもしれないですけど(笑)、やっぱり仕事してる人はそもそもかっこいいし、でもそういういいところだけじゃなくて、ちょっと失敗しちゃったり、トライしてもがいてる姿とかそういうのを知っていく、逆に言えば僕もそういうところを飾らずに上川さんの前ではさらけ出して見てもらって、お互いそうやっていけたらいいかなと思います。

窪塚:相手を知ることは芝居にすごく繋がると思っています。悠伸と僕は一回り違うから、悠伸にとっての「当たり前」を知りたいです。自分の「当たり前」と多分全く違うだろうし、そもそも僕たちはタイプが違うと思うんです。ポケモンに例えたらどっちかが「ほのお」でどっちかが「みず」みたいな、属性が違うキャラクターだと思うので、何が好きで何が嫌いとか、仕事の現場に行くまでの間にどんな音楽を聞くのかとか、いろいろ知りたいです。

篠原:やっぱり僕もいろいろ知りたいと思いますし、おのずと知っていくんだろうな、という思いもあります。稽古場では、もちろん演出のノゾエさんもいらっしゃいますが、役者は僕と愛流だけじゃないですか。そのときに、もし知りたくなかったことを知っちゃったらどうしようみたいな怖さもあるんですけど(笑)、でも今はまだ全然わからないので、いろいろ知りたいなと思っています。ポケモン好き?

窪塚:ポケモン好き!

篠原:一緒だ(笑)。

ーーそうやって少しずつお互いのことを知っていた先に、それぞれのチームがどのような舞台を見せてくださるのか、楽しみにしています。

一同:はい、がんばります!

(左から)上川周作、井之脇海、窪塚愛流、篠原悠伸

■井之脇海、上川周作、窪塚愛流、篠原悠伸
ヘアメイク:大和田一美(APREA)

■井之脇海
スタイリスト:坂上真一(白山事務所) 

■窪塚愛流
スタイリスト:上野健太郎

■上川周作、篠原悠伸
スタイリスト:チヨ
 

取材・文=久田絢子     撮影=岡崎雄昌