近鉄時代のフィル・クラーク(左)とタフィ・ローズ【写真:産経新聞社】

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近鉄の助っ人コンビが仲違い…伊勢コーチが仲裁して収めた

 タフィ・ローズ外野手とフィル・クラーク内野手は、元近鉄ヘッドコーチの伊勢孝夫氏(野球評論家)にとって思い出深い助っ人コンビだ。2人揃って近鉄でプレーしたのは1997年から2000年までの4シーズン。1998年にクラークが打率.320(リーグ3位)、31本塁打(同3位)、114打点(同2位)の好成績を残せば、ローズは1999年に40本塁打、101打点の2冠王に輝くなど、刺激しあうように活躍したが、実は不仲の時期があったという。

 ローズは1996年シーズンから、クラークはその1年後の1997年シーズンから近鉄の一員になった。当時の伊勢氏は近鉄ヘッド兼打撃コーチで2人を指導。“いてまえ打線”の「3番、4番」「4番、5番」などを務めた助っ人コンビは強力だったが、そんな2人のことで伊勢氏が明かすのが、まさかの“ケンカトラブル”だ。「ある年のオープン戦の頃、ローズとクラークがまったく口をきかないようになってしまってねぇ。見ていたらわかった。全くものを言わんのよ、2人とも」。

 打線の軸を任せる2人が冷たい関係で、いいことは何もない。伊勢氏は事情聴取のため「オープン戦の最終日だったかな、練習が終わって、通訳に言って、ライトのブルペンのところに2人を呼んだ」という。「『最近の2人、おかしいやないか』って私が言ったら、クラークが『ローズが俺のことを茶化すんだ』って言った。クラークを見てローズが『バカなことをやっているよ』とか言うらしく、それが原因で話をしなくなったそうなんです」。

 陽気な性格のローズにしてみれば、ふざけ半分だったかもしれないが、クラークは超真面目人間でまともに受け取って気分を害していた。そこで伊勢氏は2人に説教したという。「『お前ら、こんな文化も何もアメリカと違う国に来て、まともに通じ合うのは野球だけやろ。そこで何でケンカみたいになっているんや。おかしいやろ、もうちょっと仲良くわかり合ってせな。タフィも、クラークはクソ真面目なんだからバカなことを言うな』って言いました」。

 さらに続けて「『お前らが頑張らなかったら、どうにもならんのやからな。これからシーズンに入ったら、俺がミーティングで配球とかもやるから、それもちゃんと聞けよ』ってね」。かなり熱い口調だったようだ。「ローズもクラークも『わかった』と言ってくれましたよ。それで2人が握手して、仲直り。それから3人で握手しました」。不仲解消で伊勢氏がホッとしたのは言うまでもない。

口をきかぬ伊勢コーチに謝罪したローズ「ごめんなさい」

 ただし、ローズに対しては逆に伊勢氏が口をきかない時もあったという。「タフィに『今、こうなっているぞ』とかアドバイスしても全く言うことをきかず『僕だってコンディションが悪い時もあるんだよ』って言ってきたから『わかった、じゃあ何も言わん』って通訳に言わせたんですよ。それから1週間くらいはタフィと話をしなかったですね」。この時はローズの方が通訳を介して「伊勢さん、ちょっと話をさせてくれ」と言ってきたという。

「北九州での試合だったかな。アップしている最中にタフィとロッカーで話をした。私の言うことをきかなかった時は、奥さんとうまくいってなくて虫のいどころか悪かったということだった。そんなのは私もわかりませんからね。『そうか、それはワシも気がつかなかった。そういう時もあるわな』と言ったら『ごめんなさい』って謝ってきた。『じゃあ今日からお互い普段通りやろうや』ってなったんですけどね」

 伊勢氏はローズから「日本のお父さん」と言われるほど慕われたが、その裏にはいろんなことがあったのだろう。「まぁ、ローズはどっちかというといいかげんやったけど、打つことに関してはよう狙い球を絞って思い切っていきよったよ。ヤマも張ったし、読みよったよ。『カウント3-2から何待つんだ』って聞いたら『フォークボールよ』と言っていた。『僕には真っ直ぐないよ、変化球よ』って。あいつはフォークも打ちよったからね」。

 ローズは近鉄が優勝した2001年に55本塁打をマークしてパ・リーグMVPに輝いた。その後、巨人、オリックスでも大砲として活躍するなど、本塁打王4回、打点王3回の数字も残した。クラークは1997年に打率.331でオリックスのイチロー外野手(.345)に次いでリーグ2位。1998年には48二塁打の当時の日本プロ野球新記録も達成した(現在の記録は2002年オリックス・谷佳知外野手の52二塁打)。

「クラークは以前、インディアンス(現ガーディアンズ)の3Aのコーチをやっていたけど、その時に日本人の記者を見つけて『伊勢さんはどうしている』と聞いてきたって、その記者から教えてもらいましたよ」と伊勢氏はうれしそうに話す。ローズもクラークもかわいい教え子。近鉄コーチとして2人に出会えたこと、ケンカの仲裁をしたり、熱く語り合った日々は忘れられない。(山口真司 / Shinji Yamaguchi)