ClariSが歌で描いた虹の美しさ――「ClariS SPRING TOUR 2024 ~Tinctura~」レポート

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■2024.6.2(Sun)「ClariS SPRING TOUR 2024 ~Tinctura~」 @TOKYO DOME CITY HALL

撮影:平野タカシ

雨の後には虹がかかる、そんな言葉を思い出させるかのように、外は雨が振りそぼっていた。

ClariSの全国ツアー「ClariS SPRING TOUR 2024 ~Tinctura~」最終日となるTOKYO DOME SITY HALLは超満員、大阪、広島と回ってきて東京での2DAYS昼夜公演。客席にも2DAYS参加、昼夜通しと思われるファンも多く見受けられた。本人やスタッフもそうだが、ファンの熱量と体力も凄いものがある。

期待の中始まった本編は「reunion」からスタート。二人のイメージカラーのパステルピンクとパステルグリーンの衣装も軽やかに伸びやかに歌い上げる。続く「ヒトリゴト」では早々にバンドメンバーの紹介も。これは先立ってライブ全編を通しての感想だが、バンドが演奏することで全楽曲がアグレッシブに躍動していたのが印象的な部分だった。聴かせるところは聴かせる、暴れるところは暴れる。正しく「ライブ」の面白さを作り上げたのは彼らだったということは伝えていきたい。

そんな原曲とは違うアレンジ、違う勢いの楽曲を歌いこなすClariS。まるで妖精のようなその姿に見惚れていると、クララの歌声が響く、新曲「アンダンテ」だ。TVアニメ『狼と香辛料 MERCHANT MEETS THE WISE WOLF』EDテーマでもあるこの曲は“ClariSにしか奏でられない、でも今までのClariSにはなかった”曲。生の歌声、そしてバンド編成で聴くことで曲の魅力がまた新たに感じられる。

「一緒にシュビドゥビしてーっ!」カレンの叫びから「Love is Mystery」、ここまでの4曲だけでも一曲ごとに違うライブを見ているかと錯覚するくらい色とりどりなパフォーマンスだ。

今回のツアーは7枚目のアルバム『Iris』の発売を受けて行われているが、「Iris」はラテン語で虹という意味、そしてツアータイトルの「Tinctura」はラテン語で染めるという意味。会場を虹色に染めるという意味では完全にその通りの内容に心が踊る。また大きなギミックや仕掛けもなく、歌とダンス、そして演奏で空気を変えられるClariSの底力のようなものも感じられた。

撮影:平野タカシ

続く「擬態」はシングル発売前からファンの間で話題になっていた楽曲。後奏の転調でのダンスがどうなるか見ものだったが、なるほどこう表現するか! という感じに膝を打つ。「Freaky Candy」はどこか小悪魔的なジャジーな一曲、そこから転じてゴシックな雰囲気を持つ「Masquerade」へ。虹で言えば紫のようなターンだろうか。

世界観に浸っていると都会的な4つ打ちサウンドが心地良い「ループ」が始まる。ペンライトが揺れるフロアが街の灯りのようだ。本当に瞬きする間に色も表情も空気も変わっていく、まるで不思議の国のアリスの世界に迷い込んだようだ、一瞬も気が抜けない。

ここからは春メドレーの時間。春にちなんだ曲がノンストップで展開されていく。一曲目は「ミントガム」。タイトル通りの爽やかな展開から少し切ない卒業の曲「graduation」、しっとりした歌声を堪能していると平成レトロフューチャーを感じる名曲「Bye-Bye Butterfly」、そして和のテイストもたっぷりの「サクラ・インカーネーション」とメドレーの中でも一曲ごとに違う側面を見せてくれる。

しかし季節をモチーフにした曲だけでもこれだけのバリエーションがあるのに改めて驚かされる。季節をテーマにしたコンセプトミニアルバムを三枚もリリースしているのは伊達じゃない。梅雨の始まりを感じさせるような天気の一日だったが、この瞬間だけは春の澄み渡る空気がTOKYO DOME SITY HALLに吹き付けたようだった。

撮影:平野タカシ

メドレーの次はソロのコーナー、まずはクララが「カラフル」を歌唱。儚げながらプリズムのようにきらめくこの曲もクララ一人の声で聴くとまた印象が変わる、続いてのカレンのソロ選曲は「アネモネ」。これもカレン一人の歌唱とダンスで展開されると、どこかエネルギッシュな疾走感あるナンバーに見える。

MCでは「気持ち的に二人で歌っていたからゆったりしている気がしていたけど、ちょっと息継ぎ難しいかも! 1番と2番の間短い!」と感想を述べるクララ。「カレンなんて凄い踊っててびっくりしちゃった!」という言葉には客席も大歓声で賛同を述べる。

ライブはここから後半戦、開幕となる曲は「ALIVE」。TVアニメ『リコリス・リコイル』OPテーマ曲にして、ClariS史上トップクラスにソリッドなこの曲のパフォーマンスは回数を重ねるたびに進化している気がする。そこから「トワイライト」「SHIORI」とアップテンポの楽曲で更にライブを加速させていく。

撮影:平野タカシ

アルバム収録曲「未来航路」ではライブ前からSNSで発信していたダンスを客席と共に踊り、タオルも振り回しながら一体化していく、最後にはタオルを客席に投げるパフォーマンスも見せ、二人は満面の笑顔。やはりClariSには笑っていて欲しい、心からそう思える瞬間。

後半戦の加速が嘘のように空気が変わる。「Wonder Night」の時間だ。Lo-Fiの空気も感じさせるレトロフューチャーポップをここで持ち出してくるセットリストの妙に息を呑む。個人的には「irony」でデビューしたときから、ClariSの歌声とフューチャーポップ的な楽曲の親和性を信じていた身としてはライブでこの思いは間違っていなかったと一人得心を得ていたが、ここからの展開に更に驚かされた。

インターネット発のジャンルである同楽曲の次に持ち出されたのは「アサガオ」。アルバム収録曲の中でも比較的歌謡曲のテイストを持っているこの曲の温度差に震えが来た。それでもなんの違和感もなく楽しめるのは、ClariSが培ってきた表現力の高さ、そして言葉にしきれない「ClariSらしさ」が全楽曲、全パフォーマンスに背骨のように通っている。それはすなわち「ClariSはあらゆるジャンルの楽曲をつなぐ強力なハブ」なのだと言うことに気付かされる。

「一期一会」は和の旋律も心地よいゆったりとした楽曲、特に気持ちを込めて届けたとMCでも言っていたが、それも納得の出来栄え。このライブの中で最も耳が吸い付けられる4分半だった。

撮影:平野タカシ

ライブ最終盤は「Blue Canvas」から。ゲームアプリ『ブルーアーカイブ-Blue Archive-』中国大陸版テーマソングであるこの曲ではタイトル通り青く青く、そして広い空を感じさせる突き抜けるような一曲。畳み掛けるようにTVアニメ『カノジョも彼女』Season 2 エンディングテーマ「ふぉりら」へ。「好きじゃない 好きじゃない でもやっぱり…」続く「好き」の歌声は客席の「好き!」のコールで塗りつぶされる。その後間髪入れず「俺もー!」とコールが続くのもどこか痛快だった。ライブってこれくらい自由で思いを伝える場所だよね、と思えるのが嬉しい。

本編ラストはClariSの代名詞である「コネクト」。多分一番歌い続けてきたであろうこの曲、アニメが好き、アニソンが好きな人なら知らない人はいないであろうアンセム中の大アンセムだが、何度聴いても泣きそうになるのは何故なんだろうか? きっとメロディを聴くだけで『魔法少女まどか☆マギカ』の物語や、鹿目まどかや暁美ほむらの事を思い出してしまうから、というのもあるだろうが、それを歌うClariSに心奪われるからなのだと思う。

14年を得た彼女たちの、14年目だからこその「コネクト」。柔らかく強くしなやかになった歌声は、少女から大人へのメタモルフォーゼ、それでも失われない結晶のような思いが結実しているパフォーマンス。

撮影:平野タカシ

大音量のアンコールの声に応えての一曲目は「Prism」。虹を表現したライブのアンコールに相応しい楽曲を手を繋ぎ歌うClariS。続く「border」はどこか青春を感じさせてくれる。タオルを振り回しながら汗を飛ばす二人、躍動するバンド、それらを受け入れる客席。そして全員が笑顔、これが青春でなければ何なんだと思わせるくらいの爽快感。

ツアーの最後、本当のラストソングは「second story」。七色の光を浴びながら悔いないように、丁寧に、だが思いっきり歌うクララとカレン。

しかしツアー名が「Tinctura」とはよく名付けたと思う。メドレー、アンコールを含めて全24曲、一つとして同じ色はなかった。そして印象的だったのはその色の重ね方だ。

ClariSといえば透明感を感じる人も多いかもしれないが、決して今回のツアーの楽曲的は水彩的に塗り重ねられていただけではない。ある時は油彩のように前の印象を塗りつぶすように、またある時はネオンのように周りもほの明るく照らすように、最も効果的に、最も伝わるように積み重ねられた計算がそこにあった。

名残を惜しむように投げキッスを振りまいてステージを降りたClariSは、細やかな細工をあらゆる所に散りばめて、自分たちの魅力と、それを見に来る客席を最大まで楽しませる工夫を忘れない職人のようなアーティストなのかもしれない。だがそんな考察はどうでもいい、今は彼女たちが描いた虹の美しさと、この多幸感だけを抱いて家路に就こう。10月から秋のツアーを開催することも発表したClariS。彼女たちにライブでまた会えた時、心に浮かんだこの思いを確かめれば、それでいいのだから。

取材・文:加東岳史 撮影:平野タカシ