FOMCの結果が左右、終値ベース2,300ドルの維持に注目
先週の動き:6月7日の取引に値動きが集約されたニューヨーク金先物価格 米雇用統計と中国人民銀の発表受け大幅下落 国内価格も1万1500円台まで下落
前週末6月7日の市場は、再び米利下げに関し、楽観見通しの修正を求められることになった。午前早くに発表された5月の米雇用統計において、雇用増が市場予想の17.5万人増から大きく上振れ27.2万人増となったほか、賃金上昇も再加速し労働需給の底堅さを示した。当コラムでも「寄せては引く波のよう」と表現してきたが、前日まで複数の米労働指標の軟化で高まっていた米連邦準備制度理事会(FRB)による早期利下げ期待の波は、大部分が反転することになった。年始以来何度も繰り返してきた、「振り出しに戻る」という印象の反転となった。週初から労働需給の緩和を示す経済指標の発表が相次ぎ、FRBが早ければ9月に利下げに踏み切るとの観測が強まっていた。それが一転し、年内に利下げはない可能性まで指摘されることになった。ただし、前々週までの大方のFRB高官の発言から、次の一手は利下げという見方まで覆ったわけではない。
こうした中で先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は週末6月7日に大幅反落となる荒れた展開となった。この日の通常取引終値(清算値)は2,325.00ドルで、5月8日以来1ヶ月ぶりの安値水準となる。6月7日の前日比下げ幅65.90ドルは1日としては4月22日以来の大きさとなった。
先週のNY金の値動きは6月7日の取引に凝縮されることになった。NY金はNY時間外の米雇用統計の発表前に売りが先行する軟調な展開となっていた。米早期利下げ期待からアジア時間の午後には一時2,406.70ドルまで買われていたが、夕刻(ロンドン取引開始の時間帯)に流れが急変した。中国人民銀行による毎月7日定例発表の外貨準備統計にて、5月は金準備に変化が見られなかったことが判明、4月まで18ヶ月連続で増加していたが途絶えることになった。この結果にNY金は、2,360ドル近辺まで30ドルほど水準を切り下げた。
NY時間に入り、さらに雇用統計に反応し、節目の2,350ドルを割れると、押し目買いを入れながらも、テクニカル指標の悪化も手伝い、断続的な売りに水準を切り下げた。通常取引終了後の時間外取引でも売りが続き、一時2,304.20ドルまで付け、これが安値となった。結局、週足の高値と安値が6日7日一日に集約されることになった。その値幅は102.50ドルにも達した。
NY金の週足は前週末比20.80ドル、0.89%安となった。 レンジは2,304.20~2,406.70ドルで6月7日日足のレンジと同じだ。先週の当コラムで、雇用統計の結果を加味し想定レンジを2,320~2,380ドルとやや広めに設定していた。結果として、週末終値がこの下限に入ったものの、上限は2,400ドル超へと上振れた。
国内金価格も値動きは大きくなった。米ドル円相場が一時155円割れを見たものの、総じて156円を挟んだ値動きとなったことで、ほぼ米ドル建て価格の値動きを映す形で推移した。大阪取引所の国内金価格の週足は前週末比45円、0.38%高の1万1896円で終了。レンジは1万1568~1万1970円で、先週の当コラムで想定レンジとした1万1710~1万2010円に対して上限価格はほぼ見合ったものとなったが、下限価格は下振れとなった。6月7日のNY金の下げを反映した価格は同日の夜間取引に反映されており、一時1万1552円まで売られている。
18ヶ月連続増で止まった中国人民銀行金準備の増加
6月7日の下げのきっかけを作った形の中国人民銀行の5月金準備変化なしに対する市場の反応は、やや過剰という印象だ。というのも、3月は5トン強、4月は2トン弱と増加量が漸減していた経緯がある。ピーク時は1ヶ月で25トン以上増えていたが、2023年11月以降は10トン前後で推移していた。3月以降の減少で中国人民銀行もさすがに価格急騰により購入量を減らしたかと見ていたが、5月は増加なしに終わった。4月15日の当コラムにて小見出しに「スケールダウンの中央銀行の買い」として、3月の人民銀行の約5トン増に対し「メディアは17ヶ月連続増を大きく報じるものの、少なくとも10トン台で推移していたことから、ペースは明らかに落ちている」とした経緯がある。
今回の増加なしという結果だが、これで同行の金準備積み増しが終わったということではないとみられる。中央銀行の買いに関しては、IMF(国際通貨基金)のデータに現れない部分もあり、読みにくい。
インド中銀は英国委託保有分の100トン強を自国に移送
他にも中央銀行関連の話題としては、5月31日にロイターが伝えた、インド中銀が100トン強の金地金をロンドンから自国に移送したというものだ。インド中銀は、3月時点で822.1トンと、846.0トンの日本銀行に次ぎ世界10位(IMF含む)の保有量となっているが、これまでの自国保管分は408.31トンとされる。インド中銀は2017年以降積極的に金準備を増やし始め、2023年末までの7年間で245.9トンの買い付けが確認されている。買いはロンドン市場での現物調達とみられるが、英中銀イングランド銀行に委託保管していたものの一部を国内保有に切り替えたものとみられる。ロシア中銀の資産が凍結された経緯もあり、自国への移送はセキュリティ上の理由と考えられる。
今週の見通し:FOMCメンバーによる金利予想に注目、ニューヨーク金先物価格終値ベース2,300ドル維持の有無にも注目、予想レンジニューヨーク金先物価格2,285~2,355ドル、国内金価格1万1380円~1万1730円
今週最大の注目点は6月11~12日の米連邦公開市場委員会(FOMC)だ。今回は参加メンバー全員(19人)の経済予測も公開されるが、なかでも新しい金利予測分布図(ドットプロット)は最大のポイントだ。3月の経済見通しでは、引き続き2024年に3回の利下げが見込まれていたが、それが2回になるか、1回になるのかについて市場の見方も分かれている。仮に2回の場合、NY金は上昇で反応しそうだ。
FOMCの結果が発表される6月12日の朝には5月の消費者物価指数(CPI)も発表される。ダウジョーンズによると、総合指数は前月比で鈍化、前年比では4月と変わらずに3.4%が予想されている。
前週に水準を切り下げたNY金については、いったん2,300ドル割れも想定し、2,285ドル~2,355ドルの70ドル幅のレンジを想定している。なお、NY金については終値ベースで2,300ドルを維持できるか否かにも注目している。先週末にかけて、NY先物市場の買い建て(ロング)が大きく減少したとみられるが、売りの一巡感を探りたい。
国内金価格については6月13~14日の日銀金融政策決定会合を受けた為替変動を加味し、1万1380円~1万1730円を想定している。
【図表】金 縦軸:円建て金/グラム(単位:円) 出所:マネックス証券亀井 幸一郎 金融貴金属アナリスト/(有)マーケット ストラテジィ インスティチュート 代表取締役