ナイキ(Nike)やラルフローレン(Ralph Lauren)などの大手ファッションブランドは、長きにわたってオリンピックチームの選手が着るユニフォームをデザインしてきた。そして現在、より多くの小規模ブランドも、ユニフォーム契約を介してオリンピックの輪という世界の舞台に加わりつつある。

サステナブルなスケートボードシューズを製造するカリウマ(Cariuma)は、今年オリンピックのユニフォームを初めてデザインすることになっており、3カ国のスケートボード選手にシューズとユニフォームを提供する。そして、高級アクティブスイムスーツブランドのレフト・オン・フライデー(Left on Friday)もカナダ代表の女子ビーチバレーボールチームにビキニやカバーアップ、アクセサリーを提供し、オリンピックのユニフォームデビューを飾る。またスウェーデンのアパレルブランドであるJ・リンドバーグ(J. Lindeberg)は、今年の米国代表男女ゴルフチームのユニフォームに加えて、2028年に開催されるロサンゼルスオリンピックのユニフォームデザインも担当することが決まっている。

オリンピックは本質的に競争の場だ。結局のところ、それがこの大会の意義なのだ。しかしユニフォームによるブランド戦略に関しては、そこには公平な競争の場が新たに生まれている。今年も中心的存在となるのはメジャーブランドであり、たとえば、ザ・ノース・フェイス(The North Face)は米国と日本、韓国、オーストリアのクライミングチームのユニフォームをデザインすることになっている。その一方で一部の国々は、国際的な大手コングロマリットではなく、もっと地域に根差したブランドとの協働を選んでいる。

たとえば、カナダチームのユニフォームデザインを担当するレフト・オン・フライデーはカナダのブランドであり、フランスチームのデザインを担当するのは、パリを拠点に活動するストリートウェアデザイナーのステファン・アシュプール氏だ。一方でほかの国々は、そのスポーツの専門分野に属するブランドに目を向けている。そうしたブランドは選手が求めている技術的ノウハウを持っていることを知っているからだ。

ブランドをアピールする最大のチャンス



「オリンピックはパフォーマンスを競うものであり、最高のパフォーマンスを発揮した選手が表彰台に立つ」と米モダンリテールに語るのは、スポーツマーケティングエージェンシーのレボリューション(Revolution)で最高クリエイティブ責任者を務めるブライアン・クォールズ氏だ。「だから、もしその選手が優れた結果を出してメダルを獲得するのにユニフォームが一役買ったのであれば、それはそのブランドの宣伝になる。『これはいま存在する最高レベルの商品です』と。なぜなら、その基準となるのがオリンピックだからだ」。

オリンピックのためのデザインプロセスには、いくつもの厳しい規制がある。製造者のIDやロゴの配置、そしてユニフォームの配色などに関するルールが、何ページにもわたって定められている。ハードルは高いが、多くのブランドにとってオリンピックでデザインを担当するというのはまさに夢にまで見たチャンスだ。NFLの優勝決定戦であるスーパーボウルやサッカーワールドカップのように、オリンピックもまた、露出やブランド構築のまたとない機会となる。2021年に開催された2020年東京オリンピックは30億人以上が視聴し、今年この数はさらに増えると見込まれている。4月上旬の時点で米国の放送会社であるNBCは、2024年パリオリンピックのための広告販売で12億ドル(約1860億円)という過去最高の記録的な売上を達成している。

「これほど大規模なリーチは、たとえ全世界を見渡しても、ほかの大きなスポーツイベントでは得られないものだ」と、エクセル・スポーツ・マネジメント(Excel Sports Management)でブランドマーケティング担当バイスプレジデントを務めるキャロライン・ライアン氏は米モダンリテールに対して語った。「オリンピックのスポンサーのように何億ドルという多額の資金を出さなくても、小規模ブランドがオリンピックに参加し、その話題に加わる機会が得られるというのは、以前はなかった最高のチャンスだ」。

カリウマはオリンピックをブランド拡大の取り組みの一環に



今年のオリンピックは、世界のファッションの中心地であるパリで開催される。当然それに伴い、LVMHやプラダ(Prada)といったラグジュアリーブランドがその存在感を遺憾なく発揮するだろう。一方でパリは開催都市として、小規模ブランドを誘致するのにも理想的なロケーションだとライアン氏は話す。「人々はパリと聞くと、大手デザイナーズブランドを思い浮かべる。もちろん、そうした大手も参加するだろうが、ハイエンドと小規模ブランドのどちらも参加させることに意義があると、私は思う。そして小規模ブランドとしては、このチャンスはあまりにも大きく、もしそのチャンスがあれば参加しない手はない」。

オリンピック期間中は、選手にすべての注目が集まる。彼らがブランドロゴを身につけてくれれば、そのブランド規模に関係なく、ブランドは一瞬でリーチを獲得できる。これを身をもって知っているのがカリウマだ。東京オリンピックで同ブランドは3人のスケートボード選手のスポンサーを務めた。選手が着用したのはユニフォームではなくシューズだったが、それでもオリンピック期間中にカリウマを検索する人の数は過去最高を記録した。同ブランドの共同創業者であるフェルナンド・ポルト氏はそれを知った上で、「もしロゴとネーム、シューズ、そしてすべてのユニフォームで、数人の選手の胸元にカリウマの名前が記されていたらどうなるのかは、あまりに明確だった」と語った。

またカリウマは、オリンピックでその存在感を示すことを、ブランドをさらに拡大する取り組みの一環と捉えている。たとえばカリウマはブラジルを拠点にしているが、今後数カ月のあいだにオーストラリアや日本、中東の現地小売業者と提携する予定だ。オリンピックを機に、「(目標は)我々のライフスタイルに完全に調和したカリウマらしいやり方でそのポジショニングを強化し、我々の活動領域と密接に連携しながらカリウマのリーチを世界的に大きく拡大させることだ」と同氏は話す。

ユニフォームデザインに注力するレフト・オン・フライデーの事例



レフト・オン・フライデーは以前、自社商品をオリンピックの水泳選手とテストし、カナダの女子ビーチバレーボールチームのスポンサーも2年間務めた。同ブランドがチームの公式ユニフォームをデザインすることはなく、ルルレモン(Lululemon)が担当していたが、ルルレモンが2022年にカナダ代表のオリンピック選手団「チームカナダ(Team Canada)」のスポンサーに移行したことを受けて、同ブランドがビーチバレー担当のスポンサーとして名乗りをあげた。2017年に創業したレフト・オン・フライデーの創業者は、2人ともルルレモン出身だ。

レフト・オン・フライデーのデザインするオリンピックユニフォームは、選手の可動域を広げるためにワンショルダーになっている。しかしそのデザインだとユニフォーム上のテキストの入る位置がずれてしまうため、国際オリンピック委員会(IOC)に申請して特別な許可を取る必要があった。創設者のローラ・ロウ・アー・キー氏とシャノン・サベッジ氏によれば、IOCは過去に一度もワンショルダーのユニフォームの申請を受けたことがなかったという。また同ブランドは、選手の利き手によって左右どちらの肩にストラップがくるのかを切り替えてもいいという許可も取得した。

ロウ・アー・キー氏はオリンピックのユニフォームについて、「認知度を高めるための努力があり、商品テストの過程があって、そしてその解決に向けて取り組んでいる課題がある」と米モダンリテールに語った。「(ビーチバレーが)はじまって以来、ビキニトップスとスイムトップス、スポーツブラ、Tシャツブラがすべてだった」。

結局のところ、オリンピックで大手ブランドが幅を利かせる構図は今後も続くだろう。しかし、表彰台に立つ顔ぶれは変わりつつある。「ナイキを超えることはできない」とレボリューションのクォールズ氏は話す。「アディダスを超えることもできない。彼らの方が認知度ははるかに高いし、予算もずっと多い。しかしブランドは(オリンピックで)本物の姿を見せることができる」。

[原文:Meet the smaller brands designing Olympic uniforms]

Julia Waldow(翻訳:ガリレオ、編集:都築成果)
Image via Left on Friday