BEV販売に急ブレーキ!新たな局面を迎えた中国
Huaweiのテクノロジーを搭載するAVATR(アバター)ブランドのSUV(写真:AVATR)
世界の電気自動車(BEV)市場に異変が起きている。テスラが4月2日に発表した2024年1〜3月期の世界販売台数は、前年同期比8.5%減の38万6810台となり、四半期ベースで4年ぶりにマイナスとなった。
また、4月4日にはアメリカ自動車大手のフォードがBEVの生産計画を見直し、プラグインハイブリッド(PHEV)のラインナップを拡大する方針を示した。
そのほか、同じアメリカのゼネラル・モーターズやドイツのメルセデス・ベンツがBEV投資を延期、アップルがBEV事業を中止するなど、欧米自動車業界では「BEV失速」のムードが漂っている。
では、世界に先駆けて急速なBEVシフトが起こる中国では、どうだろうか。
中国国内におけるBEV乗用車の販売台数の伸び率をみると、直近3年間は平均97%増であったのに対し、2024年1〜3月には11%増と大幅に低下している。最大手であるBYDの伸び率は2023年に72.8%、2024年1〜3月は13.4%だった。
BEVシフトの後半戦は「スマート化」がカギ
2024年1月に開催された「BYDドリームデイ」で、BYDの王伝福会長は「BEVシフトの後半戦はスマート化の競争だ。今後1000億元を投入し、自動車運転レベル3技術の開発を加速する」と発表。
BYDドリームデイで講演を行ったBYDのの王会長(筆者撮影)
既存の車両性能と乗車体験でエンジン車と完全代替することは非現実的であるため、BYDをはじめ中国勢は相次いでスマートカーの開発に力を入れており、中国のBEVシフトは新たな段階に突入したといえよう。
BEV普及に欠かせない条件として、「電池性能の向上」「車両コストのダウン」「充電インフラの整備」があるが、このうち前者2点は解決しつつある。
中国電池最大手の寧徳時代新能源科技(CATL)が、今年に入って投入したリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池「神行超充電池」は、BEVの最長航続距離700km、10分間の充電で400kmの走行を実現。さらに、マイナス10℃の低温下でも30分以内に80%までの充電が可能となり、高い充放電特性を実現している。
また、BYDが開発した第2世代LFP「ブレード電池」(2024年8月に投入予定)は、航続距離を1000km以上に伸ばし、マイナス30℃でも放電容量を80%維持できるという。
BYDはコスト低減についても積極的で、垂直統合型の生産体制と大きな規模を生かし、まずはPHEVの価格破壊でボリューム層マーケットに向けて、エンジン車モデルを追う構えをみせている。
BYDのPHEV「唐 DM-i」(写真:BYD)
また、熾烈な価格競争より、短距離移動に対応する小型BEVが対エンジン車に対してもコスパの高さを実現し、長距離走行モデルも、一部はエンジン車に対抗できるコストとなった。
一方、中国における充電スタンドの累計設置台数は、2024年3月末に931万台に達したものの、地域・都市別のインフラ整備の格差が存在している。
BEVにおいては充電時間の課題もあり、普通充電では満充電までに6時間以上かかるのが一般的で、既存の急速充電を利用しても約1時間必要だ。中高級BEVではより短時間での充電を実現しつつあるものの、エンジン車の給油並みの時間で満充電にすることは難しく、公共充電施設での充電時間短縮は依然、課題となっている。
こうして、PHEVも含めた電動化車両の競争力が徐々に向上し、中国のBEVシフトはコスト・性能・利便性の競争から、コネクテッドや自動運転を備える乗車体験、スマート化へと移行しつつある。
地場企業が注力するNOAというシステム
中国工業情報省は、2023年11月に「ICV参入および路上走行テストの試行に関する通知」を発表し、自動運転車両のデータ安全、ソフトウェアの更新(OTA: Over the Air)、遠隔監視システムの構築、事故発生時の責任の所在などを含む、中国におけるレベル3、レベル4自動運転車の立法整備に取り組んでいる。
助手席前にもディスプレイが設置される小鵬汽車のスマートキャビン(写真:小鵬汽車)
これを受け、地場企業も相次いで自動運転事業に参入した。地場企業は、路面データを収集・処理できる情報の更新頻度をコントロールできないことや車両のコスト高から、自動運転補助システム(ADAS)と呼ばれるNOA(Navigation on Autopilot)機能を採用し、スマート化を推進する。
NOAは、高精度地図を一定程度は利用するものの、完全には依存せず、車載カメラや車載センサーなどを組み合わせることで、車両の自動停止・加速・車線変更・ステアリング操作などを可能とするシステムだ。これにより地図更新などの手間が省け、自動運転が迅速に普及する可能性が見込まれるという。
シャオペン(小鵬汽車)は2023年11月、同社のADAS「ナビゲーション・ガイド・パイロット(NGP)」向けOTA、「XmartOS4.40」を投入し、2024年には中国200都市での走行に対応すると発表した。理想汽車や上海蔚来汽車も、類似の機能を持つシステムを展開している。
ファーウェイは、「Huawei ADS 2.0」を投入し、複数のセンサーを用いる障害物検知システムを通じ、中国全都市で道路や信号などの識別や車両の制御を実現した。
またBYDは、今年1月に新しいアーキテクチャー「璇璣(XuanJi)」を披露し、車両制御やスマートコックピットなど、それぞれの機能を人工知能(AI)や高性能なコンピュータ―で統合し、高度な運転支援を実現しようとしている。
BYD本社に展示されていたXuanJiアーキテクチャー(筆者撮影)
2024年4月現在、BYDの研究開発者は10万人を超え、そのうち4000人超の専業エンジニアが、スマート化分野の開発に参画。先行するテスラや中国新興勢を追いかけている。
増える「ファーウェイ系」BEV
スマートフォン大手のシャオミ(小米科技)は、3月28日に同社初となるBEV「SU7」を発売し、初日で約9万台もの受注を得た。同社の独自OSである「Hyper OS」が搭載され、シャオミ製スマートフォンなどと相互に接続でき、5月から10都市でNOAの運用を開始する。
CATLとBYD製電池、ヨーロッパの大手サプライヤーの足まわり部品を採用し、インストルメントパネル中央には大型ディスプレイを搭載する一方で、物理スイッチも残した。
シャオミ SU7のインテリア(写真:小米科技)
このような作りは、シャオミ製スマホユーザーをターゲットにすると同時に、新たにファーストカーを検討する層の取り込みも目論んだものだ。
「クルマを作らない」方針を強調してきたファーウェイは、新たにBEVプラットフォームを開発した。
車載カメラとスマートフォンが連動する機能を備える「HiCar」システム、モーターや電池制御ユニットなどを一体化した基幹部品「Drive ONE」、独自OS「鴻蒙(ハーモニー)」など、各種技術を集約するBEVプラットフォーム「華為智選(ファーウェイ・スマートセレクション)」だ。
この新たなプラットフォームを「問界(セレス生産)」「智界(奇瑞汽車生産)」「傲界(JAC生産)」「享界(北京汽車生産)」などに供給し、自動車メーカーと共同開発車事業を加速している。
中でも問界の販売台数は2024年1〜3月に8.2万台を記録しており、中国新エネルギー車(NEV)メーカーの第6位に躍進した。
BEVシフトにともなうアーキテクチャーが変化するなか、コネクテッドカーとスマートデバイスおよびアプリとの相性が良いため、各社が違うコンセプトでルールチェンジされた新たな口火を切った形だ。今後は、ファーウェイ系NEVが大幅に増加すると予測される。
中国市場への対応力がグローバルでの競争力になる
最後に日系メーカーについても、触れておこう。2024年1〜3月の日系自動車大手3社の中国販売台数は、ホンダが前年同期比6.1%減の20.6万台、トヨタが1.5%減の37.4万台、日産が3.3%増の16.7万台だった。
3社とも低迷しているのは、中国市場ではNEVやエンジン車といったパワートレインに関係なく、価格競争の波が押し寄せてきている中で、値引きへの期待感から消費者の買い控えが起きているためだ。
一方で、日系メーカーはハイブリッド車(HEV)を数多くラインナップする優位性を生かし、多様な需要に取り組んでいるため、2024年1〜3月の中国HEV市場で85%のシェアを占めている。このこともあり、トヨタの新車販売に占める電動車(HEV、PHEV、BEVの割合)は42.3%に達した。
2024年4月16日に発表したホンダの中国向け次世代EV「烨シリーズ」(写真:本田技研工業)
現在、中国BEV市場での日系車のシェアは、1%にとどまっている。冒頭で述べたように、BEVの一時的減速でひと息つくのではなく、BEVの競争力を確立しなければ、グローバル事業を痛める可能性もある。ソフトウェアを含め、コネクテッド機能を備えるBEVの開発スピードを上げる必要があるだろう。
現時点で、戦国時代といわれるグローバルでのBEV市場では、レガシー自動車メーカーのシェアも低く、ソフトウェアやスマートキャビンなど寡占するBEVメガサプライヤーも登場していない。
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ここで日本企業が、中国企業や中国のBEVサプライチェーンを活用して、SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル=ソフトウェア定義車両)化を進めながら、電池・インフォテインメント・自動運転機能技術を高めていく手はある。
先行きに不安を残すガソリン車に比べ、SDVの存在感が増していくことは間違いない。このタイミングで日系メーカーが中国の電動化需要に対応することができれば、グローバル市場で勝ち抜く可能性はあるはずだ。
(湯 進 : みずほ銀行ビジネスソリューション部 主任研究員、中央大学兼任教員、上海工程技術大学客員教授)