マーカーを肘打ちにしたセンターバック(CB)の西尾輶矢にレッドカードが出されたのは前半17分。U−23日本代表は、前後半のアディショナルタイムを含めると90分近く、U−23中国代表に対して10人での戦いを強いられることになった。1−0は値千金の勝利であり、今後に向け弾みのつく結果といえる。

 前半38分にバー直撃弾を浴びると、同42分、後半2分にはGK小久保玲央ブライアンがセーブに追われた。同点弾を決められるのは時間の問題か。状況は時間の経過とともに危うくなっていた。

 だが、中国の反撃は終盤にかけて尻すぼみになっていった。日本の辛勝には違いないが、アップアップの勝利というわけでもなかった。最後は格上感を抱かせる勝利にさえ見えた。


U−23中国代表に1−0で辛勝したU−23日本代表 photo by Kyodo news

 たとえば、これが4バックと5バックを使い分けるサッカーを「臨機応変で賢くしたたかな戦い方だ」とする森保一監督なら、後半の頭あたりから布陣を5バックに変更して臨んだ可能性が高い。森保監督に限らず、日本人の監督の半分くらいは、早い時間で後ろを固める作戦に変更していたのではないか。だが、大岩剛監督はその手の作戦を採用しなかった。日本の勝因のひとつはその点にある。

 10人での戦いを余儀なくされた大岩監督は、インサイドハーフの山本理仁を下げ、DFの木村誠二を投入。これを機に4−3−3から4−4−1に布陣を変更した。

 監督の色は、11人で戦う通常より10人になったときのほうが出やすいものだ。たとえば森保監督が採用する4−3−3や4−2−3−1から3−4−2−1への変更は、いかにも大きな変化に見える。前で守る攻撃的なスタイルから後ろで守る守備的なスタイルに一変するため、議論を呼ぶ。10人になると守備的になるのもやむなしというムードが漂う。後ろで引いて構えることへの抵抗感は薄れる。5−3−1にしたところでさほど批判は受けないだろう。

 今回の中国戦で、4バックを維持するにしても、4−3−2にするという選択肢も大岩監督にはあったはずだ。山本ではなく両ウイングのどちらかを落とし、事実上の3ボランチシステムで戦う方法である。5バックほどではないが、4−4−1に比べると守備的なスタイルだ。

【当たった藤尾翔太、佐藤恵允の投入】

 大岩監督が採用した4−4−1は、10人で戦う場合の攻撃的な布陣のひとつだ。両ウイングがより高い位置に張る、4−2−3色を残した4−4−1。このスタイルを頑張って貫いたことが勝因だと見る。

 後半21分、大岩監督は山田楓喜、平河悠に代え、藤尾翔太、佐藤恵允を投入した。先発した左右の両ウイングが守備に追われ、脚が鈍ったと判断すると、ベンチに控えていたウイングにその役割を引き継がせた。後ろで守ろうとはしなかった。

 中国の反撃ムードはその交代を境に萎んでいった。日本の生きのいい両ウイングに左右のライン際を突かれたことで、守備に追われる時間が長くなったからである。

 それはサイドの攻防の優劣がピッチ全体に及ぼす効果の大きさ、すなわちサイドアタックの有効性を再認識させられる光景でもあった。藤尾、佐藤の投入はまさに当たりだった。試合を決定づける交代といえた。

 つまり、「攻撃は最大の防御」となる。守るばかりではなく、きちんと攻撃をし続けたことが、1−0を維持する原動力になった。「いい守りからいい攻めへ」とは森保監督の常套句だが、この試合では両ウイングがしっかりと攻め込んだことが、その後のいい守りにつながったのだった。

 決勝ゴールが生まれた前半8分のシーンもサイド攻撃だった。右SB関根大輝が深い位置に侵入。その戻しを右ウイング山田が中央にクロスボールを差し込み、松木玖生の得点を導いたプレーである。

 ウイング4人の存在感が試合に大きな影響を与えた試合。中国戦をひと言でいえばそうなる。

 ウイング不毛の時代を過ごしていた10数年ほど前の日本サッカー界からは考えられない話である。当時は"中盤王国"と呼ばれたものだが、現在は一転、"ウイング王国"の時代を迎えている。ウイングこそが日本のストロングポイントになりつつある。三笘薫、久保建英がその代表になるが、その流れは大岩采配にも確実に貫かれている。

 それは高い位置で守ろうとするプレッシングサッカーであり、攻撃的なサッカーだ。そうでなければ小久保のセーブの回数がもっと増えていた可能性もある。その勝利は最後まで前向きなプレーを心がけた日本に、サッカーの神様が贈ったプレゼントだったのかもしれない。