日本サッカー協会(JFA)第15代会長
宮本恒靖インタビュー後編

◆宮本恒靖・前編>>「長谷部誠のような人材」が突破口になる

 日本サッカー協会(JFA)の宮本恒靖会長が、就任直後から直面する大きな課題がある。日本代表戦の地上波でのテレビ放映だ。

昨年11月に行なわれた北中米ワールドカップ・アジア2次予選のアウェーゲーム・対シリア戦は、地上波でのテレビ放映もネット配信もなかった。今年1月のアジアカップは、日本が戦った全5試合のうち、地上波でのテレビ放映は2試合だけだった。


日本代表戦の地上波テレビ放送について見解を聞いた photo by Sano Miki

「より多くのみなさんに日本代表の試合をお届けできる意味で、地上波で放映してもらうのは我々の願いです。2005年6月にドイツワールドカップ出場を決めた北朝鮮戦は、視聴率が40パーセントぐらいだったそうです。

 それだけの視聴率があったから、一般の人たちにも代表選手を認知してもらえたのかなと思います。現在は当時と視聴方法が変化していますし、円安、放映権料の高騰もある。いろいろな要素が絡み合い、地上波でのテレビ放映が簡単ではないと認識しています」

 宮本会長が言う「いろいろな要素」には、国際情勢も含まれている。

 たとえば、日本政府は北朝鮮に対して、輸出入の全面禁止などの独自制裁を実行し、国際的にもヒト、モノ、カネの流通を規制している。そうしたなかで、ワールドカップ・アジア2次予選のアウェーゲームが放映されたら、北朝鮮側に放映権を支払うことになる。経済制裁に反することになってしまうのだ。

 ワールドカップ・アジア予選に話を戻せば、時差の影響で日本時間の深夜にキックオフされることが少なくない。しかも平日開催が多い。高視聴率を望みにくいうえに、対戦国側が高額な放映権を設定してきたら、テレビ局側が放映を断念するのも仕方がないところはある。

「これはもうまったくの私見ですが」と前置きをして、宮本会長が話す。

「放映権が100として、テレビ局は20しか出せないとします。80足りないから、あきらめるのか。それとも、国民のみなさんに中継を観てもらうためにJFAが投資するのか。その試合以降の放映権料に影響が出ることを認識しつつ、どう手を打つのか。

 そこは、経営判断になると思います。自分たちでお金を生み出しつつ、適正な価格で買う。そういうことができるように、まずは収入を増やす工夫を凝らしていきたい」

【選手を海外へ出したらクラブが潤う仕組みを】

 新たな成長モデルの構築は、宮本会長が掲げる政策のひとつだ。日本代表の試合をはじめとするコンテンツの価値をさらに高め、収入増につなげていく。さらにはパートナー企業と協力して新たな価値を生み出し、社会課題の解決にもつなげたいとの構想を描く。

「先日、能登半島地震の被災地を訪れました。人工芝のグラウンドがあったところに、今は仮設住宅が建っていますが、その(仮設住宅がある)期間、ピッチを使っていた子どもたちや中高生、シニアのみなさんは、サッカーをする場所を失っています。復興へ向けてグラウンドを再整備できるようになったら、パートナーさんとも話をしながら動いていきたいと考えています」


宮本恒靖JFA新会長が描く日本サッカーの未来像とは? photo by Sano Miki

 47都道府県(FA)のサッカー協会関係者が集まった会議では、「困ったときはお互いに支えていきましょう」と呼びかけた。すると、翌日にまとまった募金が届いたという。

「我々は『サッカーファミリー』という言葉を使いますが、いつも考えているのはみなさんのハブになる、みなさんが動くきっかけになる『動くフックを作る』ということです」

 宮本会長が掲げる「国内コンペティション・リーグを強化する」との政策も、JFAだけで成し得るものではない。有望なタレントを海外へ送り出しつつ、国内リーグのレベルを上げていくには、Jリーグとの連携が不可欠だ。

「強化につながるものとしては、ポストユースと呼ばれる世代、18歳や19歳の選手をいかに鍛えるのか。試合出場の機会が大事なのは、言うまでもありません。ヨーロッパではもっと早く、16歳や17歳でプロの試合に出ている選手もいます。

 Jリーグも若くしてプレーする選手が増えている状況を踏まえて、選手を海外へ送り出したら相応のお金がクラブに入る仕組みを整えつつあります。JFAとJリーグが両輪となり、Jリーグを含めた国内のリーグや大会を盛り上げることが、日本代表の強化にもつながっていきます」

 Jリーグのクラブがアジアのコンペティションで結果を残し、日本代表がアジアはもちろんワールドカップで存在感を発揮することは、日本サッカーの国際的なプレゼンスの向上につながる。

【川澄奈穂美や中田英寿の力も借りながら...】

 同時に、JFAがFIFAやAFCとのパイプを太くしていくことも重要だ。宮本会長も「国際機関に日本から人材を派遣し続けることを推進したい」としている。

「昨年10月にウズベキスタンで、AFCの各国協会の会長と専務理事の会議がありました。そこでプレゼンのオファーをもらい、まさにプレゼンスを高めるためには重要と判断して受けました。

 そういう場所へ出て行けば、当たり前ですが知り合いが増えます。FIFAやAFCとのつながりは、国際大会の招致にもつながってくるものなので、少しずつでも着実に進めていきます」

 個人的なパイプはすでにある。スポーツ組織の運営や経営などを実践的に学ぶFIFAマスターでの学びは、グローバルに知己を得ることにつながっている。

「FIFAのジャンニ・インファンティーノ会長の秘書も、FIFAマスターの卒業生です。国際大会が行なわれるごとに卒業生が集まる機会がありますし、同じタイミングで学んでいなくても、卒業生同士で交流が深まっていったりもします。そういったネットワークも、これからの仕事に生かせていければと思います」

 会長就任とともに発表された理事には、現役女子サッカー選手の川澄奈穂美さんらが名を連ねた。国内で仕事を進めていくにあたっても、独自の人脈と視点の活用が期待される。宮本会長の同世代には中田英寿さんらもおり、「適材適所の大原則のなかで、いろいろな人の力をお借りしながら、日本サッカーを前へ進めていきたい」と話す。

 サッカー協会のトップとして動き出したが、宮本会長の視線はスポーツ界全体へも向けられている。少子化などの社会問題に照らしながら、サッカーとスポーツのあるべき未来を探っている。

「JFAとしては登録人口を増やしたいのですが、個人的にはマルチスポーツについても考えています。少子化のなかでサッカー界だけ、野球界だけで子どもたちを取り込んでいくのは、なかなか難しいでしょう。

 ひとつの種目に集中して取り組むことがよいと言われてきた時代もありましたが、いろいろな身体の使い方ができれば、どの競技にも生かされます。子どもたちの可能性を広げるための『スポーツ界のハブ』になれたらと。

 さらには、いくつになってもスポーツを楽しむことができて、『もう一度、あのスポーツをやってみよう』という気持ちを抱く一助になりたい。スポーツ文化を広く豊かにしていく入り口となる役割を担えたら、などということを考えています」

 3月23日に就任会見を開き、翌24日には神戸でWEリーグを視察した。26日には北九州市へ移動し、U-23日本代表の国際親善試合を観戦。就任直後から精力的にスケジュールをこなしており、「まだ慣れていないことが多いので、なかなか自分の時間が取れなくて。今はゆっくり本を読みたいですね」と話す。

「電子書籍で読んでいるのですが、とても便利な反面、どこまで読んだのかがパーセンテージで出ますよね? あれがちょっと、味気ないかなあと思うんです」

 現役当時から変わらない穏やかな笑みが、その表情に広がる。周囲を包み込む暖色系のオーラで、47歳の新会長はサッカーを国民的関心事にしていく。

<了>


【profile】
宮本恒靖(みやもと・つねやす)
1977年2月7日生まれ、大阪府富田林市出身。1995年にガンバ大阪ユースからトップチームに昇格し、DF陣の主力として12年間プレーしたのち2006年にレッドブル・ザルツブルクに移籍。2009年からヴィッセル神戸でプレーし、2011年に現役引退。引退後はガンバ大阪U-23監督を経て2018年から2021年までトップチームを率いる。2022年に日本サッカー協会理事となり、2024年3月24日付で第15代会長に史上最年少で就任した。日本代表では長くキャプテンを務め、2002年と2006年のワールドカップに出場。日本代表=71試合3得点。