ヤクルト・村上宗隆と阪神・佐藤輝明──。言わずと知れた、球界を代表する左のスラッガーだ。開幕から本来の実力を発揮できず、村上は開幕12試合目で初打点、54打席目で初本塁打。佐藤は2本塁打を放っているものの打率1割台と低迷。彼らの活躍なくしてチームの躍進はないだけに、状態が気になるところだ。これまで多くの打者を育てた名コーチ・伊勢孝夫氏に彼らのバッティングについて語ってもらった。

※成績は4月14日現在


54打席目にして今季初本塁打を放ったヤクルト・村上宗隆 photo by Koike Yoshihiro

【四球数は断トツのリーグトップ】

 村上だが、結論から言えばホームランが出なかったのが不思議なくらい、技術的には何の問題もない打ち方をしていた。

 構えだが、力みがなく、スッと立っている。去年はボールを呼び寄せようとしすぎるあまり、「背番号55」がはっきり見えるほど右肩が入っていた。それが今は気負いもなく、右肩の入りも深くない。

 次にスイングだが、これも問題はない。悪い時の村上は、外寄りのボールに対し手首を返してひっかけ気味にゴロにしてしまうことがあるのだが、今はそうしたクセも出ていない。一本出ると、量産するのではないか......そう思えるほどの状態である。

 にもかかわらず、なぜホームランが出なかったのか。

 まず考えられるのが、相手バッテリーの配球だ。今季は、開幕カードの中日から広島、阪神、巨人、DeNAと戦ってきたが、どのチームにも共通していたのは、「外角主体の配球」だったということだ。

 とくに阪神は、「打たれるくらいなら四球でいい」という外角一辺倒の配球で、右投手ならツーシーム系、左投手なら外のスライダーで引っかけさせて内野ゴロを打たせる。ホームランにできる球はほとんどなかった。安打になったとしても、センター前ヒットか、高めに浮いたらレフト前ヒットか。いずれにしても長打になり得るコースには投げてこなかった。

 その結果、13試合で四球数はリーグトップの15。相手チームからどれほど警戒されていたかがわかる。

 それでも巨人との初戦では、大勢の外角高めにストレートに空振り三振を喫し、2戦目は菅野智之の横の揺さぶりにやられて三振するなど、しっかり打ち取られる場面もあったが、やはりまともに勝負されるケースは少ないと言える。

 そしてもうひとつ考えられるのが、今シーズンに臨む気持ちだろう。どんな打者でも、開幕してからヒット1本出るまでは、「今年は打てるだろうか」と不安になる。一軍のレギュラークラスの選手なら、そんな心配は無用だと思うのだが、それでも打率が.000だと気が焦るものだ。

 ましてや、村上は一昨年に三冠王を達成した打者だ。早く一発打って、気持ちよく試合に臨んでいきたかったはず。加えて、昨シーズンは31本塁打で自身としては満足いかないシーズンだっただけに、リセットしてガンガン打ちたい思いもあっただろう。それでも前述したように、1本出ればラクになるから、今後は量産していくのではないだろうか。

 いずれにせよ、今季の村上は現状のスイングができている限り心配ない。もちろん長いシーズンのなかで好不調の時期はあるだろうが、終わってみれば40本以上打てると思っている。


ここまで打率1割台と精彩を欠く阪神・佐藤輝明 photo by Koike Yoshihiro

【オープン戦の打ち方ができていない】

 一方、心配なのは佐藤のほうだ......というより、「何をしているのかな」と思っている。

 オープン戦で見た時は、じつにいいスイングをしていた。オフにシアトルにある「ドライブライン」というトレーニング施設に行って、打撃フォームをイチから見直したという話を聞き、楽しみにしていた。実際、下半身にタメができ、捻(ひね)りも加わっていいスイングになっていた。

「やっとバッティングというものが、少しはわかってきたかな」

 そんなふうに思ったものだ。

 この時のバッティングを説明するとこうなる。佐藤はバットを高い位置で構えてから、左肩の位置まで降ろしている。その際、軸足にしっかり体重が乗り、絞りが入った状態になっていた。よく横からカメラで撮影したとき、股関節のところにユニフォームのシワが映るのだが、これは下半身主導でバッティングする際のチェックポイントと言ってもいい。

 これまでの佐藤は、下半身をほとんど使わず、いわば上体だけでバットを振り回すスイングだった。ある意味、それでよく24本もホームランを打てたなと感心してしまった。だから、下半身主導のバッティングになったことで、今年はどれだけホームランを量産するのだろうと期待していた。

 ところが、開幕してからなかなかホームランは出なかった。その理由は明らかで、去年までの上体に頼ったフォームに戻っていたのだ。4月5日のヤクルト戦の延長10回に決勝ホームランを放ったが、その前の4打席はホームランどころか、ヒットも出ないのではないかと思わせるスイングだった。

 ホームランにしても、いわゆる"衝突"と呼ばれるもので、スイングしたところにボールが来たものだ。その翌日にもホームランを放ったが、それも同じ。

 開幕前にできていた下半身を使ったスイングが、シーズンが始まったらできていない。結果が出ないため、気持ちがはやってしまい、体まで前にいってしまい下半身のタメがほどけてしまう。結果、壁が崩され、上体に頼った打ち方に戻ってしまった。

 このフォームだと、真ん中から高めの球はほとんど芯には当たらないだろう。開幕してからポップフライや詰まった当たりが多かったのはそのせいだ。

 これでホームランが出なければいいのだが、なまじ出てしまっているから厄介だ。佐藤自身、「これでいい」と思っているのではないか。早出特打をしているという記事も目にするが、「今のバッティングフォームでは、いくらやっても意味がない」と言いたい。

 最後に打順について、村上は4番ではホームランが生まれず、2番に変わって結果が出た。ただ、これはホセ・オスナ、ドミンゴ・サンタナが好調だからできた起用だ。このままずっと2番で使うことは考えにくく、いずれは4番に戻すだろう。その時、どのような気分で打席に入れるかだ。

 佐藤は好不調に応じて、打順を変えられている。開幕時は5番だったが調子が振るわず、6試合目のヤクルト戦から6番に下がった。そして14日の中日戦では4番。起用については監督が決めることなので部外者がとやかく言うものではないと思うが、個人的には6番が向いていると思う。クリーンアップほどプレッシャーもないし、一発打てばヒーローになれる。精神的にラクな場面で打たせたほうがいい結果を出すのではないだろうか。