石川佳純が語るパリ五輪「打倒・中国」に必要なこと 自身はキャスターとして「選手たちの本音を引き出したい」
石川佳純「伝える側へ」後編(全2回)
木下グループのスポーツアンバサダーとフジテレビ系『パリ2024オリンピック』中継のスペシャルキャスターに就任した元卓球選手の石川佳純さん。取材される側から、取材する側へと立場を変え、新たな視点でスポーツの楽しさを伝えていく。
五輪3大会連続でメダルを獲得した豊富な経験と知識を携えながら、数多くの競技・選手の魅力をどのように捉え、表現してくれるのだろうか。取材現場でのエピソードや、パリ五輪の卓球女子日本代表に対する期待を聞いた。
現役引退後、キャスターやスポーツアンバサダーとして活躍する石川佳純さん
ーー現在、さまざまな競技や選手の取材をされている最中だと思います。そのなかで、驚いたことや新たな発見はありましたか?
石川佳純(以下同) 本当にたくさんの競技の選手にインタビューさせていただいて、毎回、新しい世界を目の当たりにしているのですが、最近でいうと、パリ五輪から新競技として採用されたブレイキン(ブレイクダンス)は驚きと感動の連続でした。
卓球とは全然違うスポーツなんですけど、代表に内定しているシゲキックス(半井重幸)さんにインタビューさせていただくなかで、じつは競技への取り組み方に関して共通点があったり、逆に考えもつかない驚きの話もあったり。
ブレイキンには4つの要素(トップロック、フットワーク、パワームーブ、フリーズ)があって、それを基盤に選手それぞれの表現をすることも教わりました。ご本人から直接聞くことができて、すごく貴重な時間を過ごせました。
ーーちなみに、ダンスはお好きですか?
好きですけど、踊れないです!(笑) それにブレイキンのダンスって、DJがかける音楽に合わせて即興で踊るんですよ。最初は、フィギュアスケートみたいに使用曲をあらかじめ決めて練習するイメージだったんですけど、すべて即興で踊っていてびっくりしました。
初めて聞く曲でもリズムに合わせて止まったり、また動いたりして。近くで練習を見せてもらった時は、その表現力の高さや迫力のすごさに圧倒されました。
ーー他の競技でいうと、4月6日に神宮球場でヤクルトVS阪神の始球式を務められましたよね。投げ方を教わった石川雅規投手からはどのようなアドバイスがありました?
投げる時はボールの縫い目に指をかけて投げることと、まっすぐ投げるためには踏み出す足が大事だということを教えてもらいました。それを踏まえて、キャッチボールもしてもらえたんですけど、もう感無量です。プロの方とできるなんて、本当に貴重な経験でした。しかも褒めていただいたので、すごく自信がついた状態でマウンドに上がれたと思います。
インタビューに応じる石川さん
ーーさて、パリ五輪の開催が迫っていますが、木下グループの後輩である平野美宇選手と張本美和選手のここまでの仕上がりは、石川さんの目にどう映っていますか?
2月に行なわれた世界選手権団体戦でもそうでしたが、ふたりとも充実したプレーができていますし、パリ五輪に向けて強化できる部分はまだあると思うので、残り3カ月でさらに仕上げていってほしいですね。
とくに団体戦の1試合目であるダブルスはすごく重要ですから、海外遠征が続いてなかなか時間はないとは思うんですけど、ダブルスはやればやるほどうまくなるので、時間を見つけて強化していけば、さらによくなるはずです。
ーー石川さん自身も、前回大会前の数カ月はダブルスの強化に努めていましたよね。
そうですね。東京五輪の時は新型コロナウイルスの影響もあって大会がなかったので、状況は全然違いますけど、約1カ月半にわたって行なわれた日本代表強化合宿で毎日練習していました。
それによって、平野選手とのダブルスのペアリングがすごくよくなったんですよ。今振り返っても、毎日の練習の積み重ねが、東京五輪での自分自身のいいプレーにつながったんだと思います。
ーー五輪3大会で団体戦を経験した石川さんから見て、早田ひな選手を含めた今の日本チームの強さはどこに感じますか?
女子チームの世界ランキングで2位(2024年4月現在)なんですけど、3位以下のチームに負けない安定感に加え、爆発力のあるところが今の日本の強さだなと感じます。首位の中国にもあと1点、2点とれば勝てるところまで迫っていると思うので、その差をなんとか埋めてもらいたいです。
ーーその"絶対女王"に勝つために必要な要素はなんでしょう?
これはどのチームに対してもそうですが、やはり先手をとることです。1番のダブルスで勝つことができれば、たとえ強敵の中国といえど、2番手以降の選手にかなりのプレッシャーをかけることができます。だからこそ、平野選手や張本選手には残り3カ月でダブルスの練習をたくさんしてほしいですね。
【大事なのは自分を信じて戦うこと】ーー張本選手は五輪初出場、平野選手は2度目ですが、経験の有無でプレッシャーのかかり具合がまったく異なると思います。どちらも経験された石川さんは、どのようにメンタルをコントロールしていたのでしょうか?
初出場の場合、やはりコートに立ってみないとわからない部分が多いので、どれだけイメージしようとしてもできません。緊張やプレッシャーは必ずあると思います。
なので張本選手には、初出場ならではの勢いを大切にしてほしいですね。若いのでなおさらです。私自身も、初めて出場した2012年ロンドン五輪でそう感じましたから。
張本選手はそれができる選手です。それに勢いを前面に出して戦うことで、チームも乗ってくる。逆に相手にとっては一番嫌な戦い方じゃないかなと。いろんなことを考えすぎず、今持っている実力を全力でぶつけていけば、自ずといい流れに持ち込めるはずです。
五輪出場が2度目の平野選手は、経験がある分、どういう感じなのかがだいたいイメージできると思います。ただ、前回大会は無観客で行なわれたじゃないですか。観客が入った五輪って、本当に、めちゃくちゃ盛り上がるんですよ! 地元の選手がプレーしている時は、応援がすごすぎてボールの音が聞こえなかったりしますし。
なので雰囲気はだいぶ違うと思いますけど、とにかく落ち着いてやること、五輪ならではの大歓声をできるだけイメージしておくことを心がければ、試合に入っていきやすいんじゃないかと思います。
ーーパリ五輪は、石川さんにとっては引退されてから迎える初の五輪になります。ご自身にとってはどんな大会になると想像していますか?
正直、取材する側として五輪に行けるなんて思っていなかったので、あまり想像はできていませんでした。でも本当に貴重な機会ですし、すごく楽しみにしています。
私も現役選手だったころはそうでしたが、五輪ってアスリートにとっては特別な舞台だと思うんですよ。インタビューする際には、そこに対する本音を、日本代表の選手たちから少しでも引き出せたらいいなと思っています。
ーー最後に、パリの地で戦うアスリートに向けてメッセージをお願いします。
大事なのは、自分を信じることです。自分を信じて戦うことが、実力を発揮するための一番のカギとなります。結果は自分の力を出したあとについてくるものだと思うので、みなさん精一杯、全力で、悔いのないようにプレーしてほしいなと思います。
前編<石川佳純が平野美宇&張本美和にインタビュー「リフレッシュ方法は?」「パリ五輪へのイメージは?」>を読む
【プロフィール】
石川佳純 いしかわ・かすみ
1993年、山口県生まれ。全日本卓球選手権女子シングルスで5回優勝。過去3度の五輪(ロンドン・リオ・東京)に出場し、女子団体のメダルを獲得(銀・銅・銀)。2021年の東京五輪では日本代表選手団副主将を務めた。2023年に現役引退を発表し、現在は全国の子どもたちに卓球の魅力を伝える「石川佳純47都道府県サンクスツアー」やスポーツキャスターとして幅広く活躍中。