鬼平犯科帳の世界観で作られた羽生PA(上り)の鬼平江戸処(筆者撮影)

前回の「ずんだ、佐藤の会…『羽生PA・佐野SA』の地域性」に引き続き、東北道および東北道との交点に近い圏央道のSA(サービスエリア)/PA(パーキングエリア)について、運営を管理するネクセリア東日本の担当者とともに見て回ったルポをお伝えする。

今回は、東北道の羽生PA(上り)から。こちらは、施設全体が池波正太郎の人気時代小説『鬼平犯科帳』のコンセプトで統一された、有名なワンテーマPAである。

「鬼平江戸処」というのが施設全体の名称で、館長さんもいる。以前は同じNEXCO東日本管内に「星の王子さまPA」(関越道・寄居PA上り)もあったが、こちらは通常の施設に戻っているので、全国でも唯一といってよいほどの“とがったPA”と言える。

10周年と生誕100年が重なった

2023年から2024年にかけて、この“鬼平”PAは大きな節目を迎えている。というのも、昨年は鬼平PAとなって10周年を迎えただけでなく、池波正太郎の生誕100年という節目であり、それに加え5月には劇場版『鬼平犯科帳 血闘』が公開されるからである。


鬼平江戸処に最近掲げられたデザイン(筆者撮影)

施設の一角に鬼平犯科帳を紹介するミニコーナーがあるが、ここでは劇場版で鬼平を演じる松本幸四郎さんからのメッセージ動画が流されており、いつにもまして華やいだ雰囲気に満たされている。

江戸時代の町並みにタイムスリップしたような外観のPAを訪れてみると、10周年を記念した食事処のメニューや、池波正太郎の生誕100年を記念したグッズなどがあり、全体にお祝いムードがあふれている。


羽生PA(上り)の江戸情緒を意識した屋外休憩コーナー(筆者撮影)

葛飾北斎の有名な浮世絵、「神奈川沖浪裏」をモチーフにした飾り旗や、フードコートの「火盗」の提灯(鬼平の役職「火付盗賊改方」の一団が手に持っている提灯)は、10周年を記念して取り付けたものだという。

インバウンドの増加でSA/PAでも外国人観光客の姿を見ることは日常になったが、その外国人にこうした「和」の意匠はとても好評とのことである。

羽生PA付近には江戸時代、日光・東北方面へ向かう街道の関所があったことから、鬼平江戸処はこの地を江戸情緒あふれる場所に見立てて開業した。その目論見は大成功で、10周年を経てすっかり定着したように思える。

ここでは、埼玉県の名産、深谷ネギを使った「深谷ネギ肉そば」と古銭をかたどったクッキーがついた「もこもこソフトクリーム」を食べ、午後の「仕事」に備えた。

鬼平江戸処の屋外のスペースでは、休日に猿回しなどの大道芸が行われており、ここが一種の祝祭空間として、ドライブの疲れを癒やす演出が各所でなされていることを確認した。

菖蒲PAの物販は“少量多品種”が特徴

東北道は、久喜白岡ジャンクションで圏央道と交わっている。その交点から5kmほど内回りを走ったところにあるのが菖蒲PAで、内回り・外回りの両方の車線のドライバーが立ち寄れる「集約」PAである。


上下集約型の圏央道の菖蒲PA(筆者撮影)

「菖蒲」は植物の名だが、かつては実在した自治体名で、「菖蒲町」は久喜市などと合併して、今は久喜市菖蒲地区となっている。

菖蒲PAは、規模こそそれほど大きくないが、物販は“少量多品種”のちょっと変わった品ぞろえで、近隣ではなかなか販売していないものが手に入る。また飲食店も、うどんやそば、定食などが食べられる店に加え、川越市に本店がある有名ラーメン店「頑者」が入っている。

菖蒲PAは、東京から放射状に地方に向けて伸びている東関道、常磐道、東北道、関越道、中央道、東名の6本の高速道路に加え、圏央道自身を加えた7本の街道のハブにあたるPAである。

そのため、かなり広域の物品が集められているほか、能登半島地震の復興を支援する「北陸応援フェア」の品物も置かれているなど、ふだんから広域の商品に目配りしている店舗のフットワークの軽さが表れている。

愛知県出身の筆者は、ご当地の「オリエンタルカレー」や「キリマルラーメン」が置かれているのに目を引かれた。


菖蒲PAは、広く各地から商品を仕入れている(筆者撮影)

圏央道は、ほかの高速道路と比べて休憩施設が少ないため、菖蒲PAの存在は貴重である。4月には、常磐道と東北道の間の内回りに、坂東PA(茨城県坂東市)が開業予定で、その後ハイウェイオアシスとしても整備される計画があるため、菖蒲PAの役割は少し薄まるかもしれないが、これからも個性的な品ぞろえであってほしいと感じた。

最後に、東北道で東京方面へ向かう場合の最後の休憩施設(首都高の施設は除く)となる、蓮田SA(Pasar蓮田)である。


SAの中でもフラッグシップの位置づけとなる「Pasar」と名がつく蓮田SA(上り)

こちらは2019年7月に移転リニューアルオープンしており、そのオープン当日、TBSのワイドショーである「ひるおび」で生中継され、筆者もスタジオでその特徴などを解説した経験がある。

一般道側に広い駐車場を設け、JRの駅から連絡バスまで出ているなど、地域住民も利用者として考えられていること、防災時の拠点機能を持たせるよう考慮されていること、そして本格的な生鮮食品を扱っていることが大きな特徴であろう。


地元の人たちにも愛される蓮田SAの旬撰市場(筆者撮影)

「旬撰市場」と名付けられた生鮮コーナーには、青果店と鮮魚店、精肉店が入居しており、新鮮な魚介類や野菜・果物、肉類がぎっしりと置かれている。聞けば、施設全体の利用者のうち、一般道からの利用者は1割程度だが、生鮮食品に関しては4割が地元の人の利用であるという。

担当者によれば、「少し高くても良い品を求めたい買い物客に向け、地元のスーパーとの差別化を図り、『地域のデパ地下』の役割を担っている」とのことであった。コロナ禍のように、移動する観光客がパタッと落ち込んでも、地元住民の購入があれば生き延びられるともいえ、サステナブルな戦略だといえる。


蓮田SA(上り)の一般道側の駐車場(筆者撮影)

「立ち寄ること」が目的になる一方で

あらためて6カ所のSA/PAをじっくり観察して感じたのは、コンビニなどに代表される全国規模の小売りチェーンや飲食チェーンと同じように、新商品や新メニューの開発にしのぎを削るスタッフたちのたゆまない努力である。

休憩するだけの施設が「立ち寄ることが目的」の場所へと変貌したことにより、集客の競争圧力が増し、「SA/PA限定商品」や「季節限定」商品などが次々と投入される。それが活力を生む一方で、現場のスタッフの苦労もしのばれる。


東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

SA/PAのテーマパーク化やデパ地下化は、「観光」や「集客」という面では必要かもしれないが、高速道路のヘビーユーザーからの「人が少ない地味なPAの方がゆっくり休める」という意見も少なくない。

集客を目的とした魅力のある充実した施設とは別に、ドライバーが駐車スペースの混雑を気にせず、気軽に休める静かでこじんまりした施設にも同等に重要な存在意義があるのではないか。そんなことを考えさせられる東北道のSA/PA訪問であった。

(佐滝 剛弘 : 城西国際大学教授)