川島永嗣41歳、体の衰えはなし でも後輩には「動けていなかった時には、遠慮なく言ってね」
ジュビロ磐田
川島永嗣インタビュー後編
◆川島永嗣・前編>>川口能活コーチの存在が刺激「これを求めてジュビロに来た」
◆川島永嗣・中編>>GK像の違い「スコットランドでは『キャッチング』に美学がある」
ジュビロ磐田への加入が決まるまで、半年間を無所属で過ごした川島永嗣は、どのように自分と日々に向き合ってきたのか。
その姿勢に彼の強さと向上心は見えてくる。14年ぶりに踏んだJリーグの舞台に感じていることについて聞いた。
ジュビロ磐田でプレーする彼は、41歳を迎えてなお、GKとしてまだまだ成長している。
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川島永嗣はジュビロ磐田を勝利に導く守護神 photo by Sano Miki
── 2022−23シーズンでストラスブールでの契約を終え、今季ジュビロ磐田への加入が決まるまで、半年近く無所属の期間があったと思います。年齢的にも40歳になり、引退の二文字は頭をよぎらなかったのでしょうか?
「(サッカー選手を)辞めるという選択肢は、まったく考えていなかったですね。だから、(移籍に向けて)いろいろな動きがあったなかで、オファーを待ち続けていました」
── その期間はどのように過ごしていたのでしょうか?
「ひとりでトレーニングをしていた時期もありますし、フィジカルコーチをつけてトレーニングを行なっていた時期もありました」
── 何が川島選手を突き動かしていたのでしょうか?
「もちろん、決して簡単なことではなかったですけど、自分と向き合った時に、いつも何が残るのか。常に最高峰を目指してプレーを続けてきたなかで、今まで溜めてきたもの、培ってきたものを、プレーで表現したいという気持ちが強かったんですよね。
それこそ、ストラスブールで迎えた39歳の時、この年齢になってもサッカーにはまだこんなにも学ぶことがたくさんあるのか、と感じた1年でした。その学びを自分自身のプレーで表現したいという欲が、より湧いたんです」
【ひとりのトレーニングでは考える力を養えた】── ひとりでトレーニングをしていると、モチベーションを維持するのは決して容易ではなかったのでは。
「たしかに休もうと思えば、いくらでも休めますからね。でも、自分が溜めてきたものを表現するには、常に自分がいい状態でいなければ、新たなチームが決まった時にプレーすることができないわけですからね。
もちろん、メンタル的な浮き沈みは多少ありましたけど、自分の目的意識がブレたことはなかったです。それに無所属の期間を過ごしたのも、これが初めてではなく、2015年も経験していましたし、2016年もメスに決まるまでは同様でした。2018年のワールドカップのあとも所属先が決まるまで時間がかかりましたし、そうした経験や免疫ができていたことも大きかったかもしれません」
── 具体的にどのようなトレーニングをしていたのでしょうか?
「ひとりでトレーニングするのは決して簡単ではないですけど、それをどう工夫していくか、どう消化していくか、考える力を養うことにもつながりました。
フィジカルコーチと一緒に練習するようになってからは、ある程度、自分のやりたいことを要求できるようになりましたけど、ひとりで取り組んでいた期間もありましたから。それこそ、ひとりでシュートをイメージして飛んだりもしていましたよ。
実践とはかけ離れているかもしれませんし、ボールを蹴ってもらえるのが一番いいとは思いますけど、置かれた環境で工夫する。プレーする先が決まったらすぐに試合ができるように、コンディションを維持するために、どれだけのプロセスを自分が踏まなければいけないのかは、常に意識していました」
── 3月には誕生日を迎えて41歳になりました。年齢による変化は感じていますか?
「感じないですね」
── それは頼もしいですね。
「ただ後輩には、自分が感じていることとギャップがあったら言ってほしい、とは伝えてはいます。自分が元気に動けていると思っていても、動けていなかった時には遠慮なく言ってねって(笑)」
【GKはプレーだけではなく、周囲との関わりも大切】── 一方で、年齢を重ねてきことによるポジティブな変化はありますか。たとえばGKの選手に聞くのは、若いころは怒ることも多かったが、年齢を重ねて温和になったという話も聞くので。
「今でも怒鳴っているので、試合中は変わらないですかね(笑)。でも、試合の結果と自分のパフォーマンスは分けて考えられるようになりました。
それこそ若い時は、たとえば自分のパフォーマンスとは別に、ただチームの結果が出ていないから、自分のパフォーマンスにも影響が出てしまっていると考えてしまった時もありました。
逆に、チームがうまくいっている時に、自分のパフォーマンスが常にいいわけではないのに、チームの結果が出ていることに安心して、自分の気持ちに緩みが出てしまってパフォーマンスも下がってしまったり。そうした波や緩みは、昔と今とではなくなったと思っています」
── 実際にJ1リーグの舞台に立って感じていることは?
「練習と試合、練習試合と公式戦は違うように、一瞬の判断については、緊張感のある公式戦のなかでなければ突き詰めていくことはできないと感じています。キャンプから練習試合では、感覚的なところも含めて問題なくプレーできていましたが、公式戦はやはり、ひと味もふた味も違うな、と。
そうした公式戦での判断についても、1試合1試合、よくなっていると思っています。ただ、すでにリーグ戦は開幕しているし、1試合が大切なので、徐々になどとは言っていられないですけどね。
あとは、GKは自分のプレーだけではなく、周囲との関わりも大切になるので、自分がどういったプレーを選択することがチームのためになるのか。そこにもこだわっていきたいですね」
── チームのJ1初勝利は、古巣である川崎フロンターレとの一戦でした。勝利したとはいえ5-4という結果は、GKとしてはどのように振り返ったのでしょうか?
「勝利したことはうれしかったですが、失点はCKに、PK、あとは自分がセーブしたあとのこぼれ球。4失点のうち修正できたとすれば、1失点目は自分たちのボールを奪われてカウンターされたところから相手の攻撃が始まっているのですが、3-0でリードしていながら前半に1点を取られるか取られないかは、試合を左右する大きな局面だったと思っています。
状況的には決して簡単ではなかったですけど、自分があそこで止めるGKにならなければいけない。その後の試合展開にも大きく影響したと思うので、自分がもっとやらなければいけないと感じた試合でもありました」
【GKはいいプレーだけをしていても意味がない】── ここまでリーグ戦を戦って感じている、チームの課題はどこですか。
「自分たちのリズムで試合を進められる時間を増やしていく必要があると思っています。サッカーは流れがあるので、自分たちが受け身に回る試合や時間帯も当然ありますけど、自分たちが主導権を握って試合を進める時間を増やすことで、失点も減らせるはず。
また、それができている時は、J1でも遜色なく戦えるレベルに僕らはあるとも思っています。だからこそ、その時間帯を増やすことと、失点を減らすこと。このふたつが直近の課題だと思っています」
── たとえば第4節のガンバ大阪戦。57分の2失点目は、川島選手が相手のシュートをセーブしながらその後の流れを切れず、再び攻められて失点を許しました。
「まさに、そういうところだと思っています。ガンバ戦は4分にも失点したように、サッカーでは試合の立ち上がりや終わり間際といった時間帯、または流れを切らなければならないところで中途半端なプレーをしてしまうと、失点につながってしまうことが往々にしてあります。そこは今後もしっかり向き合っていかなければいけないと思っています」
── 試合を重ねてきたことで、感覚を取り戻してきた、または研ぎ澄まされてきたところはありますか?
「ビルドアップや周りとの関わり合い、あとは試合のなかでの対応については、試合を重ねるたびによくなってきている感覚はあります。ただ、GKはチームの結果につなげなければ、いいプレーをしたとしても意味がない。
だから、ガンバ戦を例に挙げれば、1失点したあと、2失点目を喫しないように自分がどう対応し、どう防げたかというところに目を向けています。2失点目を許さなければ、チームは勝ち点1を取れたかもしれない。そういう決定的な仕事をするために、自分は試合に出ていると思っているので、これからもそこを突き詰めていきたいです」
【『試合に勝ったらお団子を食べていい』ルール】── ちなみに14年間もヨーロッパで生活していると、海外での生活が基準になっていたかと思いますが、日本に戻ってきて食生活などに変化はあるのでしょうか。
「基本的にはヨーロッパで生活していた時と、日本で生活している今も変わっていないですね。日本のほうが食材を手に入れやすいので、食事のバリエーションは確実に増えますけど、あまり、そこに慣れすぎないようには注意しています。でも、日本だと固いアボカドしか売っていないことも多いので、そこはちょっと困ったり......」
── ストイックなイメージがあるので、デザートやお菓子なども食べない印象があります。
「絶対に食べないということはないですよ。子どもに無理矢理、食べさせられる時もありますから(笑)。お菓子は食べないですけど、気分転換に甘いものを食べる時もあります」
── 自分へのご褒美みたいなものがあるのでしょうか?
「試合が終わったあとに、ジュビロのロッカールームにはおにぎりやお団子が置いてあるのですが、試合に勝った時だけ、お団子を食べるようにしています。勝手に『試合に勝ったらお団子を食べていい』というルールを決めていて(笑)」
── お団子を食べるためにも、たくさん試合に勝たなければいけないですね。
「そうできるシーズンを送りたいと思います」
<了>
【profile】
川島永嗣(かわしま・えいじ)
1983年3月20日生まれ、埼玉県与野市(現さいたま市中央区)出身。2001年に浦和東高から大宮アルディージャに加入。プロ3年目に正GKの座を掴み、2004年〜2006年は名古屋グランパス、2007年〜2010年は川崎フロンターレで経験を積む。2010年7月、ベルギーにリールセに完全移籍。その後、スタンダール・リエージュ→ダンディー・ユナイテッド→メス→ストラスブールでプレーし、2024年よりジュビロ磐田に加入した。日本代表では95試合に出場し、4度のワールドカップを経験。ポジション=GK。身長185cm、体重82kg。