こちらは「ほ座(帆座)」の方向約800光年先の超新星残骸「ほ座超新星残骸(Vela Supernova Remnant)」の中央付近です。複雑に絡み合うフィラメント状(ひも状)の繊細な構造が視野全体で輝いている様子が捉えられています。


【▲ ほ座超新星残骸(Vela Supernova Remnant)の中央付近の様子(Credit: CTIO/NOIRLab/DOE/NSF/AURA; Image Processing: T.A. Rector (University of Alaska Anchorage/NSF’s NOIRLab), M. Zamani & D. de Martin (NSF’s NOIRLab))】

画像を公開した米国科学財団(NSF)の国立光学・赤外天文学研究所(NOIRLab)によると、ほ座超新星残骸の幅は約100光年。地球から見た大きさは満月の見かけの直径の約20倍にも達しますが、ここに写っているのはその一部で、画像の幅は満月およそ5個分に相当します(161.11×161.53分角)。


超新星残骸は超新星爆発が起こった後に観測される天体のことで、爆発した星の周囲に広がるガスを衝撃波が加熱することで可視光線やX線といった電磁波が放射されていると考えられています。ほ座超新星残骸を残した星は恒星としての生涯を終えましたが、その爆発が生み出した衝撃波は画像の左上から下へと続く青白い弧として写っています。


ほ座超新星残骸は現在観測されている状態から約1万1000年前に起きた「II型超新星」の後に残された残骸だと考えられています。II型超新星は太陽の8倍以上重い大質量の恒星が引き起こすとされる超新星爆発の一種で、赤色超巨星に進化した大質量星内部の核融合反応で鉄のコア(核)が生成されるようになった頃、核融合のエネルギーで自重を支えることができなくなったコアが崩壊し、その反動で恒星の外層を吹き飛ばす爆発が起こると考えられています。また、超新星爆発の後にはきわめて高密度でコンパクトな天体である中性子星やブラックホールが残されることがあります。ほ座超新星残骸では規則的に電磁波を放出する中性子星の一種「パルサー」が画像の下辺付近で見つかっていて、「ほ座パルサー(Vela Pulsar)」と名付けられています。


この画像はチリのセロ・トロロ汎米天文台にあるブランコ4m望遠鏡に設置された観測装置「ダークエネルギーカメラ(DECam)」の観測データをもとに作成されました。DECamはその名が示すように暗黒エネルギー(ダークエネルギー)の研究を主な目的として開発された観測装置で、画素数は約520メガピクセル、満月約14個分の広さ(3平方度)を一度に撮影することができます。当初の目的である暗黒エネルギー研究のための観測は2013年から2019年にかけて実施されました。


冒頭の画像はNOIRLabから2024年3月12日付で公開されています。NOIRLabによると、今回公開されたほ座超新星残骸の画像は約1.28ギガピクセル(3万5786×3万5881ピクセル)で、DECamの観測データをもとに作成された画像としては最大だということです。本記事に掲載した画像は縮小されていますが、NOIRLabからはズーム操作対応バージョンも次のURLで公開されているので、興味のある方は是非アクセスしてお楽しみ下さい!


DECamで撮影した「ほ座超新星残骸」 - https://noirlab.edu/public/images/noirlab2406a/zoomable/

 


Source


NOIRLab - Ghostly Stellar Tendrils Captured in Largest DECam Image Ever Released

文/sorae編集部