ONE初参戦の武尊にK-1のレジェンド武蔵が送った「日本を背負う」気持ちよりも大切なこと
武蔵×武尊 K-1スペシャル対談 後編
(前編:K-1ヘビー級で戦っていた憧れの武蔵を見て、武尊が磨いた必殺技とは?>>)
(中編:武蔵と武尊が明かすK-1の過酷な闘いの日々 「負けたら終わり」と考えていた理由>>)
武尊と武蔵のスペシャル対談。その後編では、キックボクシングなど格闘技界の今後、闘いで最も大切なこと、武尊が挑むONEフライ級世界王者のスーパーレック・キアトモー9(タイ)との試合などについて語った。
キックボクシング、格闘技の今後について語った武蔵(左)と武尊 photo by 村上庄吾
――武尊選手は、キックボクシングなど格闘技界の今後についてどう考えていますか?
武尊 「メジャースポーツ」と呼ばれる競技と同じように見てもらえるようになりたいです。武蔵さんが現役だった頃のK-1は、地上波のスポーツニュースでも扱われていましたよね。今は野球、サッカー、バスケットボールなどのニュースはやるけど、格闘技のニュースはなかなか見ない。悔しいですが、まずは、そういったところで取りあげてもらえるスポーツにしたいんです。
武蔵 本当にそうやね。そのために、どうしたらいいと思ってる?
武尊 キックボクシングも含めて今の格闘技界は、世界中に団体がたくさんあります。そのすべてを統一することは難しいでしょう。だけど、メジャー団体が4つあるボクシングのように、団体の枠を超えて、階級ごとに本当の世界一を決める大会があったらいいなと思います。
今、僕が契約しているONEチャンピオンシップも世界の強豪が集まっていますが、他団体との交流が難しいんです。それもわかっていますが、ONE、RISE、K-1、GLORYなどのチャンピオンが集まって、ナンバーワンを決めるような大会があれば、メジャースポーツとして確立されるんじゃないかと思います。
武蔵 それは、俺も現役の頃からずっと思ってたよ。団体が多いのはいいけど、ボクシングのように統一戦ができるリングが、キックボクシングの世界でもほしいよね。そういうリングがあると世界中で注目されるし、ファンはもっと盛り上がるよ。
武尊 ただ武蔵さんの時代は、あらゆる団体の中でもK-1が頭ひとつ抜きん出ていて、世界で一番盛り上がっていた団体という印象がありました。だからキックや空手など、違う団体、流派を越えて世界中の強い選手が集まってきていた。今こそ、そういう団体がひとつあればまとまると思うんですけどね......。
武蔵 そのためには統一ルールを作って、試合を公平・公正に管理する格闘技の統一コミッションがあれば、競技として成立すると思う。俺が現役だった頃のK-1だったら、それができたはず。おそらく主宰者にも、周囲から「世界的なメジャースポーツにするために、コミッションを作るべき」というアドバイスもあったと思うんだよね。
それをやらなかったのは、俺個人としては罪だと思う。キックボクシングは、日本で生まれた格闘技。だからこそ日本で確立していかないといけないし、今こそ日本の格闘技界が率先して統一コミッションを作る時だと思う。
武尊 1990年代、2000年代のK-1では、世界一の男を日本で決めていましたよね。これから僕は、そういう世界になるようにけん引していけたらと思っています。
――格闘技をメジャースポーツにする、と考えている選手がいる一方で「BreakingDown」のようなアマチュア格闘技のイベントが人気になっています。この風潮をどう受け止めていますか?
武尊 僕は、あれは「格闘技とは別物」だと思っているので意識してないです。ただ、イベントに出ている選手がプロの格闘家だと思われるのは嫌ですけどね。
武蔵 俺も、あれは素人が集まる地下イベントだと思っているよ。ただ残念なのは、表舞台にいる格闘家がそちらに流れていること。選手が地表から地下へ行くことには「なんで?」ってなるね。
【武蔵が武尊に説く、闘う上で「最優先すべきこと」】武尊 僕は(1月28日の)有明アリーナからONEに参戦して、世界の選手と闘います。世界に自分の名前を売っていきたいし、世界一であることを証明していきたいと思っているんですけど、日本人代表として闘う時の気持ちを、武蔵さんはどのように作っていたんでしょうか? 精神的に大変だったと思うのですが。
武蔵 もちろん"日本を背負う"という気持ち、人のために、ファンのためにっていう気持ちも大事だとは思う。だけど、一番大事なことは"いかに自分を光らせるか"。いかに自分らしく闘うかだと思うから、自分のために闘うことが大切なんじゃないかな。
最優先すべきことは、自分が楽しむこと。楽しく闘っているとファンにも伝わるし、必ずいい試合になる。それを、心の片隅にでも置いといてくれたらと思うよ。
武尊 ありがとうございます。まさに僕も、それが一番大事だなと思っていたんです。K-1で試合をしていた時は、「ファン、K-1のために自分が負けちゃいけない」ということばかり考えていて、試合が楽しくないことが多かったんです。「好きで格闘技を始めたのに、なんでこんな楽しくないんだろう?」と自問自答していました。
今、武蔵さんがおっしゃった「自分のために」「自分が楽しむ」ということを忘れていました。K-1をやめて世界にチャレンジする立場になった時にも、信頼する方々から「自分が楽しむことを思い出せ」と言われましたね。だから、今は練習も楽しいし、試合も楽しみだし、試合中にもそれを忘れないようにしたいと思っています。
武蔵 楽しむという意味では、武尊くんは試合中に、よくニヤッて笑うよね? あれって、武尊ファンにとってかなり心強いと思うよ。ムエタイ選手が、効かされた時にするニヤッとは違う(笑)。「全然大丈夫だ」「余裕がある」って見えるから。あのスマイルは意識的なものなの?
武尊 いや、無意識です。試合を楽しめている時に勝手に笑っています。
武蔵 それはいいことやね。次のスーパーレック戦は、当初、対戦するはずだったロッタン(・ジットムアンノン/ONEフライ級ムエタイ王者)がケガをして相手が変更になって大変だと思うけど、相手が誰であれ、武尊くん自身が楽しむ気持ちで闘ってほしいな。
武尊 ずっとロッタンと闘うために準備をしてきたので悔しい気持ちはありますが、ONEのデビュー戦で現役世界チャンピオンとのタイトル挑戦になったので気合いが入っています。必ず世界最強を証明します。
【天心戦も5ラウンドなら「もっと面白い展開になった」】武蔵 最近、去年の那須川天心くんとの試合(2022年6月19日@東京ドーム)を見直したんだけど、あの試合は3ラウンドだったよね。武尊くんは判定で負けたけど、俺は5ラウンドだったら結果はどうなったかわからないと思ったよ。
後半に武尊くんがガンガンいって、天心くんは「どうしよう?」という状態になってた。5ラウンドまであったら、もっと面白い展開になったと思う。スーパーレック戦は5ラウンドだよね?
武尊 そうですね。
武蔵 めちゃめちゃ面白くなると思うよ。正直、3ラウンドだとわからないことが多くて、5ラウンドだと奥が深くなって面白い。だから、スーパーレック戦は余計に期待しているよ。
武尊 武蔵さんにそう言っていただけるのはありがたいですけど、(天心戦は)3ラウントという契約だったので、「僕が勝てなかったというだけ」と捉えています。ただ、僕はあの試合で負けたままで終わりたくなかったんです。ずっと応援してくれたファンに対して、負けた姿が最後というのは申し訳ない。だから、またやろうと思いました。
武蔵 俺は現役時代、世界の強敵に何度も負けたけど、武尊くんが言ったように「負けたままで終われるか」って毎回思ってた。こう見えても、俺はかなり負けず嫌いだから。もう1回勝ちたい。それだけを胸に這い上がっていったよ。
――最後に武蔵さんから、スーパーレック選手に挑戦する武尊選手にアドバイスをお願いします。
武蔵 そうですね......自分のためじゃなく、日本を背負って頑張ってほしい!
武尊 さっきと言っていることが違いますよ!(笑)
武蔵 そうだっけ!?(笑) 冗談はさておき、とにかく楽しんでほしい。そうすれば、自然とあの武尊スマイルが出ると思う。もしかしたら、スーパーレック相手に笑いっぱなしかもしれないよ(笑)。そうなれば見ている人も楽しめて、結果もついてくるはずだから。
武尊 そうですね。今回は練習でも、これまでにないほど追い込んでます。「今回の試合が最後だ」というぐらいに気合いが入っている。練習をやりきって、試合に勝って......その次は、勝った後に考えようと思います。
武蔵 「今回が最後」という気持ちは、試合への思い入れがそれほど強いことの表れだと思う。だからこそ、俺は楽しんでほしい。「楽しむ」って言葉は軽く受け止められるかもしれないけど、リラックスすれば自分の本来の動きも出せる。もちろん、プロだから勝つのは最優先。どんな内容でも勝つことが大事。そのためにも思いっきり楽しんで、あのスマイルで勝ち名乗りをあげてほしい。とにかく全力を出してくれ! 押忍!
武尊 ずっとお話したかった武蔵さんから、参考になる言葉をいただいて気合いも入ったし、パワーをもらいました。ありがとうございました!
【プロフィール】
■武蔵(むさし)
1972年10月17日生まれ、大阪府出身。1995年に「K-1 REVENGE II」でのK-1デビュー戦を2ラウンドKO勝ちで飾る。その後、K-1 JAPAN GPを4度制覇し、2003年、2004年にはK-1 WORLD GPにおいて、2年連続で準優勝を成し遂げるなど、強豪ひしめくヘビー級で活躍した。現役時代の戦績は85戦49勝(19KO)30敗5分1無効試合。2009年に引退後は、バラエティやYouTubeなど幅広く活躍している。
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■武尊(たける)
1991年7月29日生まれ、鳥取県出身。2011年9月24日、「Krush.12」でプロデビュー。2015年4月に初代K-1スーパー・バンタム級王座決定トーナメント、2016年11月に初代K-1フェザー級王座決定トーナメントを制して2階級制覇を達成。2018年3月の「K'FESTA.1」では第4代K-1スーパー・フェザー級王座決定トーナメントで優勝し、前人未到・K-1史上初の3階級制覇を成し遂げる。2022年6月に中立のリングで那須川天心と対戦。その後、ONEチャンピオンシップと契約を結び、2024年1月28日にONEデビュー戦を迎える。戦績は43戦41勝(25KO)2敗。
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