JR九州を代表する人気観光列車といえば、博多〜由布院・別府間を走る特急「ゆふいんの森」でしょう。年間乗車率80%といわれる人気列車ですが、その一翼を担うキハ71系は大ベテラン車両でもあります。

乗客の大半が外国人

 JR久大本線は、工業デザイナー・水戸岡鋭治氏が最初に手掛けた観光特急が走った路線でもあります。その列車は1989(平成元)年に運行開始した「ゆふいんの森」。年間乗車率が80%を越える人気列車です。


JR九州の観光特急「ゆふいんの森」に使われるキハ71系気動車(安藤昌季撮影)。

 九州の魅力を伝えるべく、その各県を巡るように運行する列車をJR九州では「D&S列車」と呼称しています。その最初期といえるのが「ゆふいんの森」で、当時からのキハ71系気動車もいまだ現役です。キハ71系は、1930年代ドイツの流線型気動車のようなレトロ調のデザインで、金メッキの荷物棚やハイデッキの床、大窓、ビュッフェなどを備えます。

 では、さっそく乗車してみましょう。現行の「ゆふいんの森」は、キハ71系で運行される3・4号(博多〜別府〈由布院経由〉)と、より新しいキハ72系で運行される1・2・5・6号(博多〜由布院)があります。キハ72系も魅力的な気動車ですが、筆者(安藤昌季:乗りものライター)はレトロ調デザインが好きなので、キハ71系の方がやや好みです。

「ゆふいんの森3号」は午前10時11分に博多駅を出発します。終着の別府駅まで3時間17分かかりますが、これは観光特急としてはトップクラスの運行時間。じっくりと列車の旅を楽しむことができます。

 外国人専用の乗り放題きっぷでも乗車できるため、乗客の80%が中国や韓国からの訪日客とも報じられます。私の乗車時は5割程度が外国人と感じましたが、まるで国際列車の雰囲気でした。

 始発から列車は混雑しており、ビュッフェには外国人客の列ができていました。クルーが見事な外国語を話し、落ち着いて対応する姿は洗練されていて、美しささえ感じました。ただ、日本語放送しかなかったり、車内に多言語対応の液晶モニターがなかったりする点は気になります。

足回りは半世紀前 けっこう揺れる…

 発車から1時間半が経った日田駅からも、台湾か中国からと思われる外国人の団体客が30名程度乗車しました。外国人たちは「ゆふいんの森」に目を輝かせており、記念撮影をしたり、車内を見回したりして嬉しそうでした。

 お昼時なので、私はビュッフェに事前予約した弁当を取りに向かいましたが、正直な話、本当によく揺れます。これは、キハ71系が改造車であることに起因しているのでしょう。車体は新製されていますが、足回りの一部は1963(昭和38)〜1970(昭和45)年のキハ58・65系気動車ですから、「ゆふいんの森」はJR最古参の特急形車両ともいえます。

 特に2号車ビュッフェと3号車は元キハ58系で、現行の特急形車両で普遍的に使われる空気ばね台車ではなくコイルばね台車ですから、歩くとかなりの揺れを感じます。1・4号車は元キハ65系で空気ばね台車のため、揺れは比較的少ないです。


ビュッフェと接続するラウンジ(安藤昌季撮影)。

 とはいえJR九州が何も対策していないわけではなく、2016(平成28)年に油圧式の可変減衰上下動セミアクティブダンパーを取り付けて、乗り心地の改善を図っています。ちなみに、同じ路線をクルーズトレイン「ななつ星 in 九州」で通過した際には、大きな揺れを感じませんでした。

 なお、2003(平成15)年のリニューアル時に機関換装も行われているので、出力向上だけでなく車内騒音低減も図られていると思われます。実際、走行音は気になりませんでした。

 さて、予約した「おおいた和牛弁当」を受け取って自席に戻ると、外国の方がニコニコして座っています。指定券を見せたら笑顔で席を動いてくれたので、こちらも笑顔です。

洗練されたおもてなし

 座席はシートピッチ960mmの回転式リクライニングシートで、フットレストもついています。座り心地はふわっと柔らかく、かなり好みです。ベテラン車両なのでコンセントはありませんが、肘掛けにテーブルもあります。

「おおいた和牛弁当」を開きます。火を通した後に冷ました牛肉で、これ以上柔らかいものを食べたことがなく、戦慄するほどのクオリティ。全国の有名牛肉駅弁にも決して劣らぬ美味で、「駅弁グランプリ」に出展したこともあるとのこと。車内限定弁当のはずなのですが、どの「駅」の扱いになるのでしょうか。

 食事をしていると、列車は名勝「慈恩の滝」に差し掛かります。車内放送も流れますが、外国語の看板を持ったアテンダントが看板を掲げて「見どころである」とアピールするので、外国人も含め乗客は余裕を持って滝を眺められました。さすがは老舗列車、洗練されたおもてなしです。

 久大本線は車窓も素晴らしく、それを大きくて磨かれた側窓が引き立てます。今後「ゆふいんの森」に後継車両が出るとしても、景色がよく見える車両にして頂きたいと感じます。


外国人の利用が多い(安藤昌季撮影)。

 12時29分、由布院駅に到着しました。大量の下車があり、列車はいったんガラガラになったのですが、入れ替わりでたくさん乗車してきました。7分の停車中、ホームは記念撮影する人、降りる人、乗る人でごったがえし、首都圏のラッシュのような賑わいでした。

 由布院駅から終着の別府駅までは58分。「一度乗ってみたい」にはちょうどいい距離というのもあっての乗車率なのでしょう。平日ながら、終着駅まで乗車率50%程度をキープして、「ゆふいんの森3号」は13時27分に別府駅へと到着しました。