(写真・時事通信)

 11月28日、静岡県の川勝平太知事が、リニア中央新幹線工事について「一歩前進した」との認識を示した。

 同日おこなわれた定例記者会見で、中日新聞の記者から「田代ダム案が大井川利水関係協議会で了承される見込みだが、これはリニア工事にとって“一歩前進した”と考えるのか」との質問を受けた川勝知事は、「そうですね」と、ひとことだけ返答した。

 田代ダム案とは、リニアのトンネル工事によって静岡県外に流出する水量を、大井川上流の田代ダムの取水を制限することで、相殺するというもの。大井川の流域市町などで構成される利水関係協議会は、これを了承する考えを示している。

 川勝知事は続けて「まだ不確定なところがあるので、そこを確認してやっていくということになる」とし、引き続き、県の専門部会で検討していく方針を示した。

「言葉のやり取りだけをみれば『一歩前進』となるのでしょうが、川勝知事の表情や態度からは『まだまだ納得いっていない』という本音が見て取れます。とはいえ、リニアの水問題に関しては、一応のめどが立ったといえるでしょう。

 しかし問題はこれからです。これまで『静岡の水は一滴たりとも県外に流出させない』と“水”に固執してきた川勝知事ですが、最近は“土”へと軸足をずらしつつあります。すなわち、工事による南アルプスの生態系への影響や、工事で発生する残土置き場などの問題に、論点をすり替えようとしているのです」(週刊誌記者)

 この日の会見の「自然は生きています。(リニアの工区は)国立公園でもある。国が南アルプスの自然を保全するのは国策である。南アルプスのユネスコエコパークの生態系を保全するのは、国際的責務である」という川勝知事の発言からも、「次は土」という意図が強く感じられる。

「知事は、エコパークについて『自然環境保全の国際公約』との趣旨で話していますが、これは明らかな誤解、ミスリーディングです。文部科学省のホームページには『世界自然遺産が、顕著な普遍的価値を有する自然を厳格に保護することを主目的とするのに対し、ユネスコエコパークは自然保護と地域の人々の生活(人間の干渉を含む生態系の保全と経済社会活動)とが両立した持続的な発展を目指しています』と明記されており、環境に影響を及ぼす経済社会活動をとめるようなものではないのです。

 11月9日の会見では、日本経済新聞の記者から『リニアの工事よりも、エコパークの観光客の流入のほうが、環境に影響が大きいのではないか』という質問がありました。これに対し川勝知事は『交通の便が悪く、突然、観光客が来ると思えない』などとお茶を濁しましたが、まさに的を射た質問でした。要するに、リニア工事を認めないための免罪符として、エコパークという言葉を利用しているに過ぎないのです」(同前)

 川勝知事の任期は2025年6月まで。それまでに、目に見えた進展はあるのだろうか――。