WBC日本代表として出場した大谷翔平(右)【写真:Getty Images】

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「野球と五輪の不思議な関係」第2回 オリンピックにおける競技の出場選手問題

 28年ロサンゼルス五輪の追加競技に野球・ソフトボールが決まった。野球と五輪の付き合いは意外と古く、100年以上前の1912年ストックホルム大会から。公開競技、正式競技昇格と除外を経て、今回は追加競技として復活した。追加競技とは? 大谷翔平は参加するの? 将来的に野球は五輪で見られるの? 野球と五輪の不思議な関係から考える。全3回の第2回は大谷翔平らMLB選手が取りざたされる競技の出場選手問題。(文=荻島弘一)

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 今年3月、WBCで日本中が沸いた。その感動が残る中での28年ロサンゼルス五輪での野球復活。本場米国での開催だけに、大谷翔平らMLB選手の出場が取りざたされる。もっとも、期待するのは日本だけではない。トップ選手の出場を望むのは、IOCも同じだ。

 IOCは14年に採択した五輪の中長期改革案「アジェンダ2020」で「最も優れた選手の参加」を提言している。世界最高の大会にするためには、トッププロの出場が絶対的な条件。世界最高峰のプロ選手の出場なくして、五輪の成功はないともいえる。

 かつて、五輪は「アマチュアの大会」だった。「スポーツで何らかの報酬を得ること」を禁じ、プロ選手の参加を認めなかった。1972年の札幌冬季五輪では、スポンサー料を受け取ったスキー選手を追放。プロスポーツが発展する中、独自の路線を歩んでいた。

 IOCが五輪憲章から「アマチュア」の語句を外したのは74年。プロ参加の可否は各国際競技団体の判断に任され、80年代から次々とプロの参加が解禁された。選手のプロ化を理由に24年パリ大会を最後に除外されていたテニスも88年ソウル大会で復活した。

 92年バルセロナ大会では米国が初めてNBAのトップ選手で「ドリームチーム」を結成して、バスケットボール人気を高めた。しかし、同大会から正式競技となった野球のプロ解禁は他の競技より遅く2000年シドニー大会から。それでも米国はマイナーリーグ中心の選手編成。MLBの選手は最後の正式競技となった2008年北京大会まで参加することはなかった。

サッカーに「23歳以下」の制限付きが認められている背景

 問題なのは、五輪がシーズン中に行われること。シーズン開幕前のNBAとは事情が異なる。ロス大会で追加競技となったフラッグフットボールへの出場に意欲をみせるNFL選手もいるが、こちらも開幕前。サッカーもオフシーズン。野球だけがプロの公式戦と丸被りする。

 20年東京五輪では、日本のプロ野球が初めてシーズンを中断したが、過密日程の中で難しい判断だった。64年の東京大会の時はシーズンを前倒しし、3月上旬という異例の早期開幕。南海が阪神との初の関西ダービー(当時そんな言い方はしなかったが)を制して日本一になったのは、東京で五輪開会式が行われた10月10日の夜だった。

 日本以上に日程が過密なMLBでは、シーズンの中断は非現実的。1チームからの出場人数を制限しても、不公平感は残る。さらに、MLBは独自にWBCを開催し、こちらは「世界一決定戦」として成功している。五輪に協力する意味は希薄なようにも思える。

 IOCが求めるのは「最も優れた選手」の参加。20年東京五輪の追加競技を承認する16年のリオ総会でも「MLB選手は出るのか」「MLBの協力は」と、質問は野球に集中した。一括採決だったためにサーフィンなどとともに承認はされたが、IOC委員たちの「トップが参加しなければ、五輪では実施させない」という厳しい姿勢が印象的だった。

 中には「トップ選手」が全面的に参加していない競技もある。サッカーはすでにW杯があることからトッププロの参加を拒否。国際サッカー連盟(FIFA)とIOCは何度も衝突してきた。もっとも、野球と違うのは世界的に人気で、大きな収入源になること。1992年バルセロナ大会から、妥協案として「23歳以下」の制限付きでプロが全面解禁された。

 IOC側はあくまで「トップ選手」の参加を要求し「オーバーエージ枠」を提案。FIFAは当初反発していたが、結果的に普及のために女子競技を五輪で採用するのと引き換えに96年アトランタ大会から3人のオーバーエージを容認した経緯がある。特例となった背景には「意外とFIFAとIOCは仲がいい。話し合いが決裂すればどちらも困るんだよ」(小倉純二元FIFA理事)という一方的ではない力関係があった。

IOCが改革案に掲げている「プロリーグとの関係構築」

 では、IOCとMLBの関係はどうか。世界野球ソフトボール連盟(WBSC)のフラッカリ会長は「MLBからトップ選手の参加の確約を得ている。選手会も合意している」と話すが、MLBは五輪での採用を歓迎しながらも選手の参加には言及していない。シーズン問題、選手や球団への補償、選手への負担増など、参加へのハードルは決して低くない。

 もっとも、IOCは中長期的な改革案の中でトップ選手参加のために「プロリーグとの関係構築」も掲げている。1998年長野冬季大会で強引にスノーボードを採用した時、猛反発したプロ選手に辞退者が続出した苦い経験から、サーフィンやスケートボード採用時には既存のプロ組織と水面下で交渉を重ね、トップ選手の参加をとりつけてきた。

 今回もIOCとMLBの間で、何らかの話し合いはあったはず。MLBがこれまで通りに「五輪拒否」の姿勢をとり続けていれば、今回の復活はなかった。WBSCの言う通りにMLBトップ選手の参加はあるのか。シーズンは中断するのか。選手参加なら、どういう形をとるのか。いずれにしても、これまで以上に注目される五輪の野球競技になるはずだ。

(第3回へ続く)

(荻島 弘一 / Hirokazu Ogishima)

荻島 弘一
1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者としてサッカーや水泳、柔道など五輪競技を担当。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰する。山下・斉藤時代の柔道から五輪新競技のブレイキンまで、昭和、平成、令和と長年に渡って幅広くスポーツの現場を取材した。