世界ダントツ1位! 年間約3800億円の取扱金額を誇る豊洲市場はなぜ国内外の人々をここまで魅了するのか

今年の初サンマが豊洲市場で過去最高の1匹2万5000円という高値でスタートした。「世界一」の魚市場として世界中から注目されている豊洲市場。そこには魚だけでなく、水産部門に関わる事業者、卸業者、仲卸業者、買出人や観光客と多くの人が集まる。なぜこの市場にはこんなにも人が集まるのか? 『魚ビジネス 食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める魚の教養』(クロスメディア・パブリッシング)より、一部抜粋・再構成してお届けする。

東京ドーム7.5個分の日本一大きな市場

誰もが知る豊洲市場を主な題材として、水産流通の世界を解説していきます。豊洲市場といえば、世界中からも人が訪れ、世界一の水産物市場とも言われます。

まず、豊洲市場の概要や歴史を簡単におさらいしましょう。

豊洲市場の正式名称は、「東京都中央卸売市場豊洲市場」です。国が認可し東京都が開設する市場として、水産部門と青果部門を有します。敷地面積40.7万㎡、延床面積51.7万㎡の大きさで、築地市場の約1.7倍、東京ドーム7.5個分の日本一大きい市場で、世界的にも大規模といえます。

豊洲市場

豊洲市場の歴史をたどると、そのルーツは徳川家康が将軍だった1600年代当初にまで遡ります。

家康は、江戸城内の食糧を用意するため大坂の佃村から漁師たちを呼び寄せて幕府に魚を納めさせました。漁師たちは、その残りを日本橋のたもとで売るようになり、豊洲市場のルーツとなりました。また、魚市場が、「魚河岸」と呼ばれる由来にもなっています。

この状況は長く続きましたが、大正期の1923年が激動の年となります。

「中央卸売市場法」により日本橋の魚市場は3月に東京市が指導、運営するようになりました。しかし、9月に関東大震災が発生。甚大な被害が生じ、日本橋の魚市場はなくなります。

その後は、芝浦の仮設市場を経て、12月に魚市場が築地の地にやってきます。最初は暫定的な市場でしたが、昭和に入った1935年に東京都中央卸売市場として以前の築地市場が開場しました。

築地市場 写真/ながさき一生

それから、築地市場は約80年という長きにわたって利用された後、豊洲市場に移転することとなります。新たな時代の流通ニーズに応える市場の必要性が叫ばれる中では、築地市場を改築する案もありました。しかし、流通量も増え狭くなったことや施設の老朽化が進みすぎたこともあり、場所を移すこととなったのです。

豊洲市場はなぜ世界一なのか

このような歴史の中で、豊洲市場は築地市場の時代から「世界一の魚市場」と言われるようになります。これは、「取扱量」と「取扱金額」が世界一だからです。

東京都の市場統計情報によれば、2021年の豊洲市場の取扱量は年間で約33.3万トン、取扱金額は約3800億円となっています。世界二番目の取扱量を誇るのは、スペインのマドリードにある魚市場「メルカマドリード」ですが、近年の取扱量は年間で約14万トン、取扱金額は1500億円程です。

ただ、広さに関してはメルカマドリードの方が広く、約176万㎡と豊洲市場の4倍以上の広さがあります。また、取り扱っている水産品の種類もメルカマドリードは多く、約1000種類と言われます。ちなみに、種類はどう区分けするかにもよるので単純な比較はできませんが、豊洲市場は約500種類となっています。

メルカマドリードとの比較からも、豊洲市場が世界一と言われる所以は、やはり「取扱量」と「取扱金額」にあると言えます。では、なぜその2つが世界一なのでしょうか。

これは、日本人の魚を食べる量が多く、その日本人が密集している地域だからということが、理由の1つでしょう。さらに、全国や世界に魚を流通させるハブの役割も担っている点も大きいといえるでしょう。

魚離れが進んだとはいえ、世界の中で見れば、今でも日本はかなり多く魚を食べる国です。FAO(国際連合食糧農業機関)の「世界・漁業養殖白書2020」の調べでは、世界における1人あたりの魚介類の年間消費量(※粗食量)は20.5㎏ですが、日本人は45㎏と倍以上です。

ただ、日本人の魚介類の消費量が年々減るに伴い、豊洲市場の取扱量と取扱金額も年々下がってきています。世界一の魚市場であり続けるためには、日本人の魚に対する関心がカギとなってくるでしょう。

※粗食量…食用向けの量。魚の場合、頭や内蔵なども含む。

豊洲市場に人が集まるのはなぜか

豊洲市場には、日々人が集まります。東京都によれば豊洲市場の水産部門に関わる事業者は、令和2年4月1日時点で卸業者7、仲卸業者481、関連事業者が147、売買参加者289となっています。

これに加えて、買出人や観光客も多く押し寄せる豊洲市場。かつて、築地市場の時代には多い時で1日4万人以上の来場者があるとも言われました。

豊洲市場には、魚だけでなく、なぜこんなにも人が集まるのでしょうか。これは、豊洲市場が水産物の一大「物流」拠点であると同時に、一大「商流」拠点であることが理由になっています。

豊洲市場には、人だけなく魚も集まってきますが、実は取引されているのに集まってこない魚もあります。どういうことかというと、注文は豊洲市場で受けるのですが、モノは違うところにあり、そこから直接相手先に届けられるというパターンがあるのです。

このように流通は、物の流れである「物流」と商的な流れである「商流」に大別されます。

私が2007年に築地市場の卸売会社に勤めていた頃、先輩社員に「これからは、モノは郊外にある保管賃の安い冷蔵庫に置きながら、築地で商談だけを行う時代が来る」と言われたことがあります。この話のように、やろうと思えばオンライン上でもどこでも、人が集まって商談する場を設け、そこを商流の拠点とすることは可能です。

そして、物流は別で組み立てる。ICT(情報通信技術)の進んだ現代ならそんな世界があっても良いはずです。

しかし、豊洲市場は現在でも物流の拠点でもあり、商流の拠点でもあります。一体、なぜでしょうか。

魚は機械だけでは取り扱えない

これには、魚の商品特性が関係しているといえるでしょう。鮮魚は現在でも生の冷蔵品が多く、日々入荷状況や品質が変わりやすい商品です。モノは別の場所に置きつつ、商談だけを行うという話は、日々品質が変わらないからできる話でもあります。

ここで、「画像や動画での通信を行えばできるのでは」と思う方もいらっしゃることでしょう。しかし、それでも細部の様子や微妙な色の違い、匂いなどの視覚以外の情報はやり取りしにくいところがあります。魚は日々変わる繊細なものだからこそ、日々、人の五感できちんと確認する必要があるのです。

このことが、物流と商流を切り離せなくしています。その結果、魚も人も一緒に集まってくるというわけです。

もちろん、今後、日々変わらない規格化された魚が増えてくれば、物流と商流を切り離して構築することも可能となってくるでしょう。そのカギを握るのは、冷凍魚や養殖魚、加工品といった定常を保てて量産できる水産品です。

ただ、それらばかりに溢れ、生の鮮魚がなくなってしまっては、日本の魚食文化の魅力は落ちてしまします。

そうならないためにも、豊洲市場のような魚市場は重要な役割を果たします。魚市場は、日本の素晴らしい魚食文化を守っていく役目も担っているのです。

文/ながさき一生

『魚ビジネス 食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める魚の教養』(クロスメディア・パブリッシング)

ながさき一生

2023年4月14日

\1,738

272ページ

ISBN:

978- 4-295408-192

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