マムシ〇口子 インタビュー前編(全2回)

 カーリング女子日本代表の藤澤五月選手の変貌ぶりに、世間がざわついた。

 7月下旬、フィットネス・ボディビルコンテスト団体・FWJ(Fitness World Japan)が主催するコンテスト「MOLA CUP」に出場した藤澤選手。同大会のビキニクラスにシークレットゲストとして登場すると、コンテスト初出場にもかかわらず、ノービス部門3位、オープン部門2位と好成績を収めたのだ。

 大反響だったのは、藤澤選手の鍛え上げられたバッキバキの肉体。カーリング競技中との大きなギャップに世間からは驚きの声が続出した。

 彼女はなぜボディメイクに目覚めたのか。そして、どのようなトレーニングであの肉体をつくり上げたのか。藤澤選手のトレーナー、マムシ〇口子(まむしまる・くちこ)さんに話を聞いた。


7月に「MOLA CUP」に出場した藤澤五月選手(右)とトレーナーのマムシ〇口子さん 写真提供/マムシ〇口子

【最初は「体をしぼりたい」と相談を受けて...】

ーー藤澤五月選手の肉体改造は、まずどのようなことから着手したのでしょうか?

マムシ〇口子(以下同) 最初は「体をしぼりたい」と相談を受けたんです。それまではいわゆる"部活飯"というか、白米をいっぱい食べていっぱい動いて......という生活をしてきたから、女性的なダイエット、食事やウエイトコントロールを教えてほしい、と。

 ですが、彼女の拠点は北海道で、私は東京ということで、最初はオンラインでの食事指導のみのサポートでした。

ーーその時点では、コンテスト出場は視野になかったんですか?

 そうですね。ただ、興味はあったようで、オンラインでポージングの仕方をレクチャーすることはありました。それと、さっちゃん(藤澤選手)はアスリートなので日々の筋トレを日課にしていましたが、もしエントリーするならコンテスト向けの筋肉を育てるためのアドバイスをしました。

ーーたとえば、どんなアドバイスを?

 トレーニングの強度アップとカスタマイズについてですね。たとえば、ベンチプレスにしても1セット10回がギリギリできる重さでトレーニングしてもなかなか筋肥大しないから、1セット6〜7回しかできない重量でやるといい、とか。

 あとビキニ選手はあまりウエストを太くしたくないから、同じ体幹トレーニングでもデッドリフトじゃなくて、お尻の高さが出せるヒップスラストという種目にしたほうがいい、とかですね。


FWJの大会で優勝した経験があるマムシ〇さん

【「完璧主義者」ぶりに驚き】

ーー藤澤選手と初めて直接会ったのは?

 今年4月末です。その時にはコンテスト出場をさっちゃんのなかで決めていたみたいで、お母さんやチームに相談しようかなと言っていました。

ーーお母さんに相談とはかわいいですね(笑)。

 かわいいですよね(笑)。その時に初めてさっちゃんの体をじかに見たんですが、少し脂肪がついているものの、さすが一流アスリートだけあって、コンテストに必要な筋肉はある程度備わっているなという印象をもちました。

 カーリングのスイープのおかげで広背筋はもともと大きかったですし、ストーンを投げるのにお尻の下部を使うので、スクワットでは70キロを上げていたそうです。

 もちろん強化したポイントはありましたが、世間が驚くように「たった数カ月であの体に!?」というよりは、「ユニフォームと脂肪を脱いだらあの体になった」という感じですね。


ジムのトレーニング前にインタビューに応じてくれたマムシ〇さん

ーーどのようなスケジュールでパーソナルトレーニングをしたんですか?

 通常は「週1回2時間×月4回」などでパーソナルトレーニングするのですが、彼女はふだん北海道にいて、当時さっちゃんが東京に来るのは仕事の都合で月2回だけ。なので、その2日は1日中一緒にいてトレーニングをサポートしました。

 といっても、筋トレ自体は2〜3時間で、あとは食事の相談に乗ったり、有酸素トレーニングのために高尾山のほうへ登山に行ったり。奥高尾を縦走しましたよ。コンテストを一緒に見に行ったこともありました。

ーートレーニングを通して印象的だったことを教えてください。

「重量を上げたほうがいいよ」と私がアドバイスすると、「こんなの持ったことないですよ!」と一瞬驚くけど、やり始めるとガッツがすごいんです。普通の人なら「無理です!」とつぶれてしまうところから粘って回数をこなす。さすがオリンピアンだと思いましたね。

「自分でも完璧主義者だと思う」と言っていたし、本人のなかでアスリートとしてのプライドがしっかりあるんでしょうね。たとえカーリングで使わなくても、アスリートたるものこのくらいはできて当然という精神的な芯が強くあると感じました。

ーーちなみに、トレーニング中に例の「そだねー」は飛び出したんですか?

 いえ、それはなかったです。私が会話の中で不意に「そうだね」と言ったら一瞬、反応されましたが(笑)。

【約半年で体脂肪は20%台からひと桁】

ーーさて、コンテストでは藤澤選手は「オープン」と「ノービス」にエントリーしました。

「オープン」がもっともレベルが高く、「ノービス」はそのひとつ下のクラスになります。オープンはかなりレベルが高いので最初はノービスだけのエントリーで、本人もノービスでの優勝を目指していましたが、トレーニングを続けるうちにだんだん誰だかわからなくなるくらい体が変化していった(笑)。これならいけるかもと、あとからオープンにもエントリーしたんです。

ーーそしてオープンで2位、ノービスで3位。

 近年、コンテストのレベルは非常に上がっていますし、初出場、しかも本格的に始めて数カ月でトップ3に入るのは本当にすごいことだと思います。

 筋肉の質もハードに仕上がったし、もともと代謝がいいので体はかなりしぼれて、この短期間であそこまでなかなかもっていけませんよ。体重は2月から大会出場時の7月でマイナス10キロ、体脂肪率は20パーセント台から10パーセントを切るほどになっていました。


鍛え上げられた藤澤選手の肉体 写真提供/マムシ〇口子

ーーなぜ順位はレベルの高いオープンのほうが上だったのですか?

 エントリーのメンバーが違うのもありますが、どちらにコンディションを合わせるかで結果は変わってきます。通常、ステージに上がる前にパンプアップをしたり塩分をとって筋肉を張らせるんです。でも、その状態は持続せずに何時間かたつと、体がぼやけてしまうし、とくに女性の体はむくみやすい。

 だからオープンに照準を合わせたさっちゃんは、その3時間前にスタートするノービスにはそのまま出場してもらって、オープンのステージ前にパンプアップをやってもらいました。

 そのおかげで、ノービスでは「しぼりすぎ」という審査員から評価がけっこうありましたが、オープンでは客席にいた私からでも見え方が全然違った。だから2位をとれたんだと思います。

ーーそういうことだったんですね。奥深い競技です。

 ただ、ボディメイクはトレーニング歴や経験値も重要なので、そのあたりが優勝者に及ばなかったところでした。

ーー今後も藤澤選手はコンテストに出場するのでしょうか?

 詳しくはわかりませんが、今はオリンピックを控えているので、しばらくはカーリングに集中するみたいです。

ーーそれにしても、「さっちゃん」呼びとは仲のよさが伺えます。もともと面識があったんですか?

 いえ、もともと面識はありませんよ。今年2月に急に私のインスタグラムにDM(ダイレクト・メッセージ)がきて、それからの付き合いです。

ーーそうだったんですね。ということで、後編では藤澤選手の肉体をつくりあげたマムシ〇さんの正体に迫っていきます。


後編<藤澤五月をムキムキ化したトレーナー・マムシ〇口子の正体 劇団員時代の習慣が今に活きている>を読む

【プロフィール】
マムシ〇口子 まむしまる・くちこ 
フィットネストレーナー。専門学校卒業後、芸能プロダクション「YORO's(よろず)」に所属。劇団員、絵本読み聞かせのストリートパフォーマーとして活動したのち、2020年から本格的にトレーニングをスタート。「FWJ Beef Sasaki Japan Classic」161センチ未満の部で優勝。「MOLA CUP」で筋肉美を披露したカーリング日本代表の藤澤五月選手の筋力トレーニングをサポート。