おいしく食べられることは、幸せの基本。味わうことには味覚だけを使っていると思いがちですが、75歳の管理栄養士・医学博士の本多京子さんによると、視覚、嗅覚、聴覚などをフル回転させて味わっているのだそうです。そこで、聴覚とおいしさの不思議な関係と、聞こえを保つレシピを教えてもらいました。

 おいしさは「五感をフル活用」して味わっている

おいしさを味わうには、いろんな感覚が相互に影響し合っていて、味覚だけで感じているのではなく、音や見た目、においや舌触りなども大きな影響があります。

「まず視覚では、料理の盛りつけでおいしく感じたことがありませんか。ただの水を、黄色、青色、赤色とそれぞれ違う色のコップで飲む実験をすると、違う味に感じられるんです。
視覚と嗅覚を合わせた影響では、私が日本体育大学で教えていた頃、学生たちにりんごジュースと桃ジュースをそれぞれ色が見えないようにして、においがわからないように鼻をつまんで飲むという実験をしてもらっていました。すると、学生たちはまったく味の違いがわからないと言います。
聴覚では、紅茶を優雅なクラシック音楽を聞きながら、賑やかな街の雑踏の中で、まったくの無音にして飲むと、それぞれ味わいが違って感じられます。試してみると、おもしろいですよ」(本多さん、以下同)。

おいしく食べるために大事な五感の中で本多さんが注目するのは、聴覚。その理由は、高齢になった親の介護を通して聞こえが悪くなると生活に支障をきたしやすく、暮らしの楽しさを感じづらくなってしまうと実感したからだそう。

「肉を焼くジュージュー、せんべいを噛んだときのバリン、レタスサラダのシャキシャキ、揚げたてのフライのザクザクといった音は『おいしい!』と感じる大切な条件だと思います。調理する間のお鍋がくつくつ煮える音やフライパンで炒める音は、おいしさを予感させます。雷こんにゃくという音が名前の由来になった料理もあるくらい、音はおいしさの決め手の1つだと言えるでしょう」

●聴力を保つには神経の働きと血流をよくする「ビタミンB群」を

では、日常的になるべく聞こえをよくする、その状態を保つには、どうすればよいのでしょうか。

「栄養の面から考えますと、残念ながら『これを食べるだけで聞こえがよくなる』という食べ物は存在しません。ですが、聴覚は脳の神経によって働くので、神経や血管の若さを保つ栄養素を意識して、日常的に摂取することが予防や改善につながるでしょう。そこで役立つのがビタミンB群。特にB6と葉酸が重要。この2つを効果的に摂取できるのが『青魚×青菜』の組み合わせです」

ビタミンB6はセロトニン、ドーパミン、GABAなどの神経伝達物質を作るのに欠かせないビタミンで、青魚には非常に多く含まれています。またEPA(IPA)やDHAも一緒に摂取できることから、血管を健やかに維持することで血流をよくし、栄養素をとどけやすくなるのだそうです。

「葉酸はビタミンB群の1つで、ホウレンソウから発見されたのでこの名前がつきました。アミノ酸の合成を助け、神経伝達物質をつくるのに欠かせない栄養素です。青菜に多く含まれていますから、メニューに取り入れてもらいたいです」

<青魚>

サバ、マグロ、アジ、イワシ、サンマ、サワラ、ブリ、カツオ、ニシン、トビウオ、マグロ、キビナゴ、タチウオなど

<青菜>

コマツナやホウレンソウ、チンゲン菜、空心菜、タアサイ、春菊、カブの葉、空心菜、豆苗、モロヘイヤ、ツルムラサキ、ミズナ、ルッコラ、ニラ、エゴマの葉、明日葉、オカジヒキなど

ビタミンB6と葉酸を効果的に摂取できる「青×青」で、手軽につくれる2品を教えてもらいました。

●「青×青」レシピ1:サバ缶とコマツナのカレー煮

「魚の生臭さや料理が苦手な方は、缶詰を利用すると便利。骨ごと食べられるのでカルシウムも豊富ですし、保存食にもなるので常備するといいですね。イワシ缶やサンマ缶を使ってもOKです。子どもも好きなカレー味は冷めてもおいしく食べられます」

【材料(2人分)】

サバ缶(水煮缶) 1缶(190g)
コマツナ 100g
タマネギ 100g
A[ニンニク(みじん切り)小さじ1、ショウガ(みじん切り)小さじ1]
油 大さじ1/2
カレー粉 小さじ2
酒 大さじ2
B[しょうゆ大さじ1/2、砂糖大さじ1]

【つくり方】

(1) コマツナは3cm長さに切って、茎と葉を分け、タマネギはうす切りにする。

(2) フライパンに油、Aを入れて火にかけ、香りがしてきたら、タマネギを加えてしんなりするまで炒め、カレー粉を振り入れる。

(3) (2)にコマツナの茎の部分を入れて炒め合わせ、酒を振ってサバ缶を缶汁ごと加える。(※サバの味つき缶を使用する場合は調味料を控える)

(4) (3)にBを加え、中火で2〜3分煮てコマツナの葉の部分を加えてひと煮して火を止め、皿に盛る。

●「青×青」レシピ2:鮭とブロッコリーの卵炒め

「青魚が苦手な方でも、鮭は食べられるという方はいらっしゃるのでは。ビタミンが豊富なブロッコリーを合わせて、洋風の魚メニューを増やしてみてはいかがでしょうか。ブロッコリーは電子レンジで蒸すとビタミンの損失が少なくなります。ふんわりした食感の炒り卵でこの2つを閉じ込めることで食べやすくなり、タンパク質もしっかり摂ることができます」

【材料(2人分)】

生鮭 2切れ(150g)
ブロッコリー 1/2個(130g)
卵 2個
しょうゆ 大さじ1/2
みりん 大さじ1/2
A[牛乳大さじ1 塩、コショウ 各少々]
バター 大さじ1/2
油 大さじ1/2

【つくり方】

(1) 生鮭は、1切れを3等分にして骨があれば除き、しょうゆとみりんを振って下味をつけておく。ブロッコリーは小房に分けて、茎の部分は皮をむいて薄切りにして耐熱皿に入れ、ラップをふわっとかけ、600Wの電子レンジに2分かける。

(2) 卵を溶きほぐし、Aを混ぜる。

(3) フライパンにバターを溶かし、(2)をいれて半熟状に火を通して取り出す。

(4) フライパンに油を足して、鮭を並べて両面を焼き、ブロッコリーを加えて炒め合わせ、塩・コショウで味を調える。

(5) (4)に(3)を加えてひと混ぜし、皿に盛る。

●「いつ食べるか」も大切。規則正しい食事習慣を

栄養を摂るには食材だけではないと本多さん。

「時間栄養学という『なにを』『いつ』食べるかと体にどんな影響があるのかを探る研究分野があります。その研究によると規則正しく食事を取ることが脳の活性化にはとても重要だということがわかってきました。食事は体内時計をリセットする働きもあるので、食事の時間は日中の活動から夜間の睡眠まで影響します。食事の時間を決めるということも大切です」

規則正しい食事の時間と、「青×青」のメニューを心がけて、できるだけ長く「聞こえ」を守っていきたいですね。

電子レンジの加熱時間は600Wを基準にしています。500Wの場合は1.2倍、700Wの場合は0.8倍を目安に加減してください。機種によって多少差があります

電子レンジやオーブントースターで加熱する際は、付属の説明書に従って、高温に耐えられる耐熱ガラスの皿やボウルなどを使用してください

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