駒澤大学の駅伝3冠達成なるか チームの現状とライバル中央大・國學院大の戦力を分析
ホクレンの千歳大会で、鈴木芽吹(駒澤大)は自己ベストを更新
ホクレンディスタンス4戦と関東学生網走夏季記録挑戦競技会が終わり、トラックシーズンが終了した。出雲駅伝、全日本大学駅伝、箱根駅伝に向けて、各大学のチーム状況がその結果から読み取れるが、王者の背中を追う中央大と國學院大、そして昨年3冠を達成した駒澤大の現在地を検証した。
【中央大は自己ベストの更新が順調】昨年、箱根駅伝2位の中央大はホクレン千歳大会の5000mに溜池一太(2年)、吉中祐太(2年)、吉居大和(4年)らが出場。溜池は、13分39秒85で自己ベストを更新したが、表情はもうひとつ浮かなかった。
「自分の組のターゲットタイムが13分40秒だったので、自分が目指している30秒切りに届かないのもあったんですけど、自分でレースメイクをするというのが今日の目標で、タイムよりもレース展開が大事だと思っていました。でも、一度も前に出られなかったですし、最後も切り替えられず、そのままダラダラ行ってしまったので...まだまだですね」
溜池は今季のトラックシーズン、5月のゴールデンゲームズinのべおかの5000mで13分44秒51の自己ベストを出し、その記録を今回の千歳大会でも更新しており、言うほど悪くはなかったはずだ。
「確かに去年と比べてタイムの平均が上がっていますし、力が上がっているのかなって思っているんですけど、駿恭(吉居・2年)や中野(翔太・4年)さんが大きく自己ベストを出している中で自分だけ置いていかれた感があるので...。駅伝シーズンでは、自分がチームを引っ張っていくようになりたいです」
溜池が負けられない同期であり、ライバルとしているのが吉居(駿恭)だ。溜池と一緒に出場したゴールデンゲームズinのべおかの5000mで吉居は13分27秒33の自己ベストを叩き出し、溜池に17秒差をつけてフィニッシュした。
「駿恭がアメリカに行って帰ってきてから、自分たち日本にいた組と差が開いているなと感じているので、夏合宿でしっかり距離を踏んで巻き返し、3大駅伝、特に箱根では1区で区間賞を獲って優勝に貢献できるようにやっていきたいです」
溜池は、昨年よりも成長しているが、チーム全体としても個々が力をつけて選手層は分厚くなっている。昨年、中央大は120回の自己ベスト更新を目標にしたが、今季は125回に設定している。16日に網走での学連記録会まで自己ベスト更新は83回になり、いい流れが生まれている。
「去年と比べて自己ベストの数も多くなっていますし、125回の年間目標に向けていいペースだと思うので、チームとしても去年より必ず強いなっていうのはあります。駒澤大の背中は、まだちょっと遠いですけど、全体で頑張って、まずは出雲で勝てるようにしていきたいです」
トラックシーズンは、エースの吉居大和の調子がこの日の5000mも13分39秒07ともうひとつ上がっていないのが気になるところだ。世界陸上に向けてのトライが続き、出場は果たせなかったが、彼の良さは爆発力。本番になれば力を発揮してくるだろうし、チームが125回の自己ベスト更新を実現すれば今季も中央大は相当に手強いことになるだろう。
【1、2年生の活躍が目覚ましい國學院大】國學院大は、主力組がホクレンディスタンスで結果を出した。
キャプテンの伊地知賢造(4年)は復帰レースとなる深川大会10000mを28分37秒39で駆け、山本歩夢(3年)は網走大会5000mで13分34秒85の自己ベスト。
平林清澄(3年)は同大会の10000mで27分55秒15の自己ベスト、國學院大記録を叩き出し、つづく千歳大会では5000mに出場、自己ベスト更新を狙ったが14分01秒82に終わった。
「5000mは2年ぶりでしたし、苦手意識があったんです。でも、やっておかないといけないと思い、自己ベストを狙いましたが、風が強く、疲労も抜けなくて。連戦する力がまだ足りず、それを突きつけられたレースだったのかなと思います」
平林は3年になり、山本とともに副キャプテンの役職に就いた。シーズンが始まり、チームを運営していく中で、改めて昨年のキャプテンだった中西大翔(旭化成)や木付琳(九電工)の大変さをしみじみ感じているという。
「やっぱりプレッシャーがありますよね。まずキャプテン、副キャプテンが結果を出さないといけないですし、それを後輩やチームメイトに見せていかないといけない。レースを外せないプレッシャーもありますね」
トラックシーズン、國學院大は好調を維持し、結果を出してきた。
平林や山本がレースから離れた時期、関東インカレ5000mでは青木瑠郁(2年)が13分59秒41で5位入賞、ハーフでは高山豪起(2年)が64分10秒で7位入賞。U-20 日本選手権5000mでは、青木が13分59秒79で1位、1年生の野中恒享が3位、辻原輝が5位、後村光星が8位と入賞し、1、2年生の活躍が目立った。
「自分は、箱根から思うように調子が上がって来なくてなかなか苦しい前期シーズンを過ごしたんですけど、チームはありがたいことに強い下級生が引っ張ってくれた。安心、頼れる後輩になってくれてチームとしては良かったと思います」(平林)
ホクレンで3本柱の伊地知と山本、平林が揃い踏み。さらに網走での夏季記録挑戦競技会では、5000mで伊地知が13分40秒51で自己ベストを更新し、10000mでは1年の後村が28分52秒46、田中愛睦が29分09秒45、3年では板垣俊佑が28分32秒90、木村文哉が29分16秒13でそれぞれ自己ベストを出した。さらに2年生では青木が28分32秒90、高山が28分43秒51で自己ベストを更新、山本が28分16秒92で國學院大歴代3位 の自己ベストを出すなど、記録的なPBラッシュに沸いた。3本柱が健在で、2年生も強さを見せ、1年生も元気だ。今年は箱根での表彰台が目標だが、その尻尾はすでに掴んでいるような勢いだ。
【昨年以上の駒澤大だが危機感も】昨年の3冠王者である駒澤大だが、ホクレンの千歳大会には、キャプテンでエースの鈴木芽吹(4年)が5000mに出場した。レースは800mから外国人選手に喰らいついていき、13分24秒55の自己ベスト、日本人トップ、総合5位につけた。
だが、キャプテンは、開口一番こう言った。
「自分的には、全然ダメでした」
汗をぬぐう表情は、厳しいままだ。
「最低限、自己ベストを切って、学生記録も意識しろと監督に言われていたので、それを目標にしていました。でも、思ったよりも風があってペースが上がらなくて...。ラストをしっかり上げて記録を出そうと思ったんですけど、ほぼイーブンで外国人選手に置いて行かれたのでダメですね」
鈴木は2月のアメリカ遠征でふくらはぎを痛めて練習を離脱。5月のゴールデンゲームズinのべおかの5000mで復帰し、続く日本選手権の頃には足に不安があり、「これ以上、走ってもしょうがない」と練習を中断したりすることもあった。だが、ホクレンに向けての調整は、ふくらはぎの痛みもなく、順調に仕上げることができた。
「自己ベスト更新という最低限の目標を達成できたのはよかったですけど、やっぱり満足はできないです。学生記録のペースで行きたいと思って走っていたので、悔しいですね」
それでも自己ベスト更新の結果を出して、チームメイトにキャプテンとしての背中を見せた。また、チーム全体で見れば、トラックシーズンは個々の奮闘が目立った。関東インカレでは、このレースの1か月半前に1年3か月ぶりに復帰した唐澤拓海(4年)が10000mで28分26秒83を出し、総合4位、日本人トップの成績を収め、伊藤蒼唯(2年)が8位。5000mでは安原太陽(4年)が14分02秒31で7位入賞、ハーフマラソンでは赤星雄斗(4年)が優勝、山川拓馬(2年)が2位に入り、ワンツーを決めた。日本選手権5000mでは佐藤圭汰(2年)が13分24秒29で4位入賞、ホクレン網走大会5000mでは赤津勇進(4年)が13分43秒79の自己ベストを出し、富士裾野トラックミートの5000mでは山川が13分56秒92の自己ベストを出した。
昨年、3冠達成に貢献した選手は好調を維持し、佐藤や唐澤も状態が上がってきており、選手層でいえば昨年以上になりそうな気配だ。
だが、鈴木は危機感をあらわにしている。
「こないだミーティングで話をしたんですが、『今のままじゃ絶対に駅伝で勝てない』と言いましたし、藤田(敦史・監督)さんからもそういう言葉もいただきました。今まで、みんな、頑張っていい結果を出していたんですけど、その分、疲労がピークで今、走れていない選手が多いですし、結果が出た分、安心しちゃっている部分があるのかなというのを感じて...そういうところがあると実力があっても足元をすくわれてしまうので、まだまだって思います」
厳しい見方だが、それも昨年の駒澤史上最強と言われたチームを見てきたからこその基準なのだろう。今年の目標は3冠だが、昨年の史上最強のチームを越えるという狙いがある。
「昨年のチームも今頃は全然ダメだったんで、今年はまだ巻き返せる時期ではあるんですけど、だからって今のままではダメです。これまでは個人を重視してきた部分があったんですけど、トラックは一区切りついたので、ここからは自分もチームとして結果を出すために駅伝に向けてやっていく方向にシフトしていかないといけないと思っています」
そのために鈴木はキャプテンとして先頭に立ち、しっかりとチームを引っ張っていく覚悟だ。
「僕が常に言っているのは、チームのための走りとか行動を心掛けようということ。そして、3冠を獲ったチームのプライドと、これから3冠を目指すチームとしてのプライドをしっかり持ってやろうということです。これから夏合宿で、どこまでチーム力を上げられるか、ですね」
選手層と経験値では、大学ナンバー1であることは間違いない。そこに駅伝に向けての一体感が醸成されていけば、今年も駒澤大を止めるのは容易ではない。