篠山竜青×香西宏昭の同級生バスケ対談 日本代表は「ホーバス体制でこれから日本人のよさ、武器を見つけていく段階」
漫画『リアル』再開&FIBAバスケットボールW杯2023必勝祈念
2019年までバスケ日本代表のキャプテンを務めていた篠山竜青(川崎ブレイブサンダース)と車いすバスケ日本代表のエース香西宏昭(NO EXCUSE)。日本バスケ界を引っ張ってきたレジェンドふたりは、互いにリスペクトし合う仲良し同級生。8月25日に沖縄で開催されるFIBAバスケットボールW杯2023を前に、漫画『リアル』再開を聞いてバスケを熱く語り合った。
お互いにリスペクトを持ってバスケについて語った篠山竜青と香西宏昭
――おふたりは同級生で仲良しだそうですが、出会いは?
香西 コロナ禍で開催したイベント、「BASKETBALL ACTION 2020 SHOWCASE」です。
篠山 「バスケで日本を元気に」っていうオールバスケットボールのイベントでした。でも、イベントでは話していないんです(笑)。
香西 僕がインスタグラムで、「ファンだった篠山選手とすれ違ったけど何も話せなかった」って書いたんですよ。そこに竜青がコメントをくれてDMやLINEのやりとりが始まりました。毎日のようにLINEしていましたけど、きっかけがなくてずっと敬語(笑)。タメ口にしようって決めたのは、東京パラ直前だったよね。
篠山 「竜青」と「宏昭」、ちょっとくだけてイチャつく時は、「竜ちゃん」と「ヒロりん」(笑)。
香西 竜青は最初から車いすバスケをよく知っていたよね。
篠山 井上雄彦先生の『リアル』をずっと読んでたからね。
香西 『SLAM DUNK』からの井上先生ファンだもんね。そういえば『THE FIRST SLAM DUNK』も一緒に見に行きました。いわゆる映画デート(笑)。
篠山 そうそう。あまりに集中しすぎて、上映中はお互いに隣をシャットアウトしてたよね。
香西 疲れるくらい集中して、終わって顔合わせて「すげぇもん観た!」って(笑)。
篠山 最高だったね。以前、井上先生とはBリーグの企画で対談して、イラストを描いていただいたんだけど、すごく緊張したんだよ。ホントにうれしかったな。あれは僕のバスケ人生のひとつのゴールだった。
香西 そこでフィニッシュしちゃダメだよ〜(笑)。
篠山 あ、そうか(笑)。宏昭も井上先生とは何度かお会いしているよね?
香西 最初に井上先生と会ったのは、僕がまだ中学生で「Jキャンプ」っていう車いすバスケキャンプに参加した時。最初は同じキャンパーとして、一緒にバスケをしたんだよ。「こんなにがんばって手にマメを何個も作って、漫画家の先生なのに大丈夫なの!?」って(笑)。そのあとも国内外いろんな大会に取材に来てもらったし、何度か対談もさせてもらったよ。
篠山 うらやましい奴だな。
――おふたりは、それぞれのプレーをどのように見ていますか?
香西 ドイツリーグに行っていたので、日本のバスケを観戦する機会は少なかったけど、竜青を最初にインプットしたのは、2018年6月に千葉で開催されたW杯予選。交代で入ってきて、バチバチでディフェンス。そこから流れを持って行ってターンオーバーから速攻でシュート!
篠山 オーストラリア戦ね。
香西 竜青を意識して観察すると、何手先も変化を読んで試合を組み立ててることがわかって、「ヤベえ、この人!」って驚いたんだよ。
篠山 僕は身長も高くないし、身体能力も突出したものがないから、頭を使ってバスケをするしか道がなかった。司令塔として、一つひとつのプレーの意図を追求していくことが、自分のバスケの基礎になっているんだよね。
香西 そういうところはとても参考にしてる。あと、プレーが熱いところはチームにエネルギーを与える選手だなと思う。
篠山 面と向かってホメられると恥ずかしい(笑)。僕が宏昭のプレーを観たのは、リオパラリンピック予選(2015年)の韓国戦。ひとりだけ異次元な、オシャレなプレーをしているなって思った。
香西 オシャレって何(笑)?
篠山 車いすバスケって速い選手は前のめりで相手に向かっていったり、ゴール下では車いす同士がぶつかったりっていうハードなイメージがあったんだけど、宏昭だけは上半身の力が抜けていて、スイ〜ンっていく感じ。
香西 サボってるみたい?
篠山 いや、余裕があるなって。俯瞰でコートを見ているような感じでノールックとか、ワンハンドで「そこ!?」ってところにパスが出せる。ひとつの動きにいちいちフェイクがかまされているのが、またオシャレ!
香西 実際はゼーゼーしながらゲームの流れにやっとついていってるんだけどね。
篠山 それにしても東京パラの宏昭のプレーはエグかった!
香西 あんなにシュートが入るのは自分でも見たことがない(笑)。
篠山 大会期間中もずっとLINEしていたけど、言葉の端々から、絶対に勝ちたいんだっていう宏昭の気持ちをすごく感じたよ。
香西 チームの雰囲気もとてもよかったからね。
篠山 チームがゾーンに入っているなって雰囲気があった。試合を重ねて、自信や勝ちグセがついて覚醒したんだよ。赤石竜我選手(埼玉ライオンズ)をはじめ、若い選手たちの表情とパフォーマンスが、初戦と決勝ではまったく違っていたから。
香西 そうだね。一緒にやっていてどんどん頼もしくなっていったよ。
篠山 本当に東京パラの銀メダル獲得にはメチャメチャ感動をもらった。世界のレベルでフィジカルが絶対的な弱点なのは、日本のバスケ界共通の課題。それを乗り越えて獲った銀メダルは日本にとって大きな自信になると思ったよ。
――FIBAバスケットボールワールドカップ2023が8月25日に沖縄などで開幕します。
篠山 いよいよですね、楽しみです。ドイツ、フィンランド、オーストラリア......開催国ながら厳しい予選グループに入ったと思います。宏昭はドイツリーグに行っていたけど、ドイツ代表は観たことある?
香西 代表の試合は見たことないかな。ドイツは何といってもサッカーが一番だけど、バスケも人気が高くてドイツリーグの試合はテレビで中継されてる。僕がランディルというチームにいた時、地元のアリーナで観戦したよ。そうだ、ユタ・ジャズの名選手だったジョン・ストックトンの息子さんがいたよ。
篠山 そうなんだよ、デイビッド・ストックトンはドイツリーグにも行っていたんだよね。
香西 NBAに行く選手も増えているから、ドイツのレベルは相当、高いと思う。それにしても、相手は全員身体がデカそう。
篠山 そうだよね。そのなかでもオーストラリアは、うまくハマれば優勝も狙える力があると思う。
香西 車いすだとオーストラリアは、プレーがラフ。トラッシュトーキングも......(苦笑)。
篠山 そういう余裕がなくなるところまで追いつめて欲しいね。
――21年ぶりに自力で本大会出場をつかんだ前回の2019年大会は、篠山選手がキャプテンを務められました。
篠山 親善試合はありましたけど、ガチの世界との真剣勝負は、ほとんどみんな初めての経験でした。ファンの方の期待もプレッシャーも大きくて、いつもどおりのことをやるのが難しかった。5戦全敗の結果以上に、悔しさが残っています。
香西 練習してきたことを普段どおりやるのは本当に難しい、それは痛いほどわかる。東京オリンピックのあと、トム・ホーバスHC体制になって、バスケが変わったよね。
篠山 目指しているのはゴールデンステート・ウォリアーズなんだろうね。NBAを席巻したスモールボールは、身体の小さい選手たちの勝ち方においてひとつの正解なんだと思う。ホーバスHCは女子日本代表でメダルを獲ってそれを証明した。やっていることは絶対に間違っていないし、日本人のスタイルにも合う。それを実戦で迷いなく出しきれるかどうかがポイントになると思う。
香西 僕たちもリオパラのあとにガラッとバスケを変えたんだけど、最初は迷ったし、自信もなかった。戦術を理解できないまま、とりあえず切り替えを速くしよう、一生懸命に走ろうってところから始まった。うまくいかないことを見つけて、変えて、精度を高めて......その積み重ねであのスタイルが出来上がっていったんだよ。
篠山 なるほどね。やっぱり車いすバスケにも、戦術のトレンドみたいなのはあるんだ?
香西 あるね。最近はオールコートで走るチームが増えてきた。ビッグマンまで走るようになったら、やっぱり強くなるんだよね。日本がトランジションバスケで結果を出したことで、それが世界にバレちゃった(笑)。去年「ALL BASKETBALL ACTION 2022 in 仙台」のイベントに参加して、ホーバスHCの代表を観たんだよ。僕はあんまり健常バスケの戦略戦術をわかっているわけじゃないんだけど、コートを広く使うバスケをしようとしていることはわかった。あのバスケをチームとして確立できたら、楽しいだろうなって思ったよ。
――世界で闘う上で、日本人ならではの強みって何だと思いますか?
香西 車いすバスケはフィジカルや技術もありますが、東京パラでやはり「粘り強さ」だと思いました。苦しい時間帯も自分たちのプレーを粘り強く続けることで相手が折れる、そこが東京では勝負を分けたんだと思います。
篠山 僕ら日本人は、高さがないからスピードで、外のシュートってずっと言われてきて、自分たちもそれが武器だと思い込んでいたんです。でも世界の舞台に上がってみたら、僕らより大きい選手が、僕らより速くて、外のシュートが入る......それを叩き込まれたのが前回のワールドカップでした。僕らのほうはやっと世界の舞台の端っこに立ったところ。ホーバス体制でこれから日本人のよさ、武器を見つけていく段階なのかなって思います。
香西 車いすバスケもここまでくるには20年以上の時間がかかっているしね。
篠山 車いすでは、宏昭がアメリカの大学リーグや欧州リーグにチャレンジして、先駆者となって日本を引っ張り上げた。僕らのほうでもようやく渡邊雄太選手と八村塁選手のようにNBAで活躍する選手が出てきた。これが続いていけば日本は強くなっていきますよ。
――ありがとうございました。週刊ヤングジャンプ39号(8月24日発売)より、『リアル』が連載再開となります。
篠山 待ちわびていました。野宮が再始動するところで、その続きが読めないのが苦しくて...。僕、野宮に教えたいことがいっぱいあるんです。プロとして活躍できる選手に育てますから、僕に指導させてもらえませんかね(笑)。井上先生、よろしくお願いします!
香西 単行本の『Another REAL』でも書いてもらいましたけど、『リアル』が始まったのと、及川晋平さん(前日本代表HC)が、日本を強くするための活動を始めたのが同じくらい。日本代表は20年以上を『リアル』とともに歩んできたんです。晋平さんは、「銀メダルを獲って、俺たちが追い越した」って言ってますけど(笑)。これからも僕たち車いすバスケと『リアル』は一緒に進んでいきたいなと思います。戸川、野宮、高橋、それぞれのバスケ人生がどうなるのか、すごく楽しみです。
プロフィール
篠山竜青(しのやま りゅうせい)
1988年7月20日生まれ。神奈川県出身。178cm75kg。北陸高から日本大学を経て2011年東芝ブレイブサンダースに加入(現・Bリーグ川崎)。2017年のW杯アジア地区予選・全Windowにおいて日本代表に選出され全試合に出場。Window2以降、2019年W杯まで代表キャプテンを務めた。ポジションはPG。昨シーズンはPPG(平均得点数)4.6点、RPG(平均リバウンド数)1.1、APG(平均アシスト数)2.6本。
香西宏昭(こうざい ひろあき)
1988年7月14日生まれ。千葉県出身。NO EXCUSE所属。小6で車いすバスケを始める。高校生の時に千葉ホークスの中心選手として日本選手権で優勝し、卒業後に渡米。イリノイ大学では2年連続全米大学リーグシーズンMVPを受賞。卒業後はドイツでプロ選手のキャリアを重ね、2021-22年シーズンは、名門・ランディルでドイツリーグ優勝。パラリンピックは4大会連続出場。東京大会は3ポイント成功数、成功率共に1位で銀メダル獲得に貢献。現在は拠点を日本に移して活動している。