バルサは顔ぶれ一新で強化されたが懸念材料も 「ラ・マシア」出身の若手が続々と台頭しているが…
8月11日に開幕するリーガ・エスパニョーラ。移籍市場が開いているため、まだ顔ぶれが定まらないクラブは多いが、最大の注目はバルセロナだ。長らくチームを支えてきたセルヒオ・ブスケッツ、ジョルディ・アルバらが退団。ウスマン・デンベレの去就にも注目が集まる。新生バルサはどんなチームに?
8月8日のジョアン・ガンペール杯、FCバルセロナはトッテナム・ホットスパーに4−2で勝利を収めている。先制しながら逆転され、それをさらにひっくり返すというスリリングな展開だった。
ジョアン・ガンペール杯は1966年からバルサが開催する、ラ・リーガの開幕に向けた"伝統の前哨戦"だ。シーズンの出来を占うと言われる。その意味では悪くない滑り出しということか。
確実に「強くなった」バルサだが、彼らはどこへ向かうのか。トッテナム戦にそのヒントはあった――。
バルサはシーズン開幕に向け、7月からアメリカツアーでプレシーズンマッチを重ねている。
アーセナル戦は、3−5と打ち負けた。イングランド代表ブカヨ・サカの崩しに苦しみ、「ボールを運ぶ」という側面で後手に回った。似たスタイルの相手に押しきられたのは課題だろう。
もっとも、守備意識の高さは昨シーズンから継続していた。トランジションもハイレベルで、先制点は象徴的だった。オサスナでスペイン国王杯準優勝の原動力になって戻ってきたアブデ・エザルズリが自陣でカウンターを発動させ、ポーランド代表ロベルト・レバンドフスキが決めたカウンターは見事だった。
初戦に予定されていたユベントス戦が体調不良者続出で中止になったなか、悪くないスタートだったと言える。
「効率性」
シャビ・エルナンデス監督は、そこに行き着いている。昨シーズンは守備の意識を向上させ、トランジションを整備し、カウンターの鋭さも示した。ドイツ代表GKマルク・アンドレ・テア・シュテーゲン、FWレバンドフスキという人材を固め、「負けない」確率を最大限に高めることに成功している。
【ブスケッツの穴は埋めつつある】
最大の関心事は、「バルサ最強時代の末裔セルヒオ・ブスケッツの退団後」だった。この点に関しては、シャビ監督がジローナから獲得したラ・マシア(バルサの育成組織)出身オリオル・ロメウを重用し、穴を埋めつつある。
セルヒオ・ブスケッツの後釜として起用されているオリオル・ロメウ(バルセロナ)
「オリオルはブスケッツのいい代わりになる。攻守に質の高い仕事ができることを、アメリカツアーでも証明した。リーダーシップもあって、周りとうまく調和できている。すばらしい補強だね」
シャビは手応えを感じている様子だ。
伝統的な4−3−3で、ロメウがアンカーに入る形が基本だが、スペイン代表ペドリをトップ下にした4−3−1−2もひとつのオプションか。ただ、シーズンを通じて考えた場合、まだ人が入れ替わる可能性もある。8月中は複数のプランを模索することになるだろう。
では、「攻撃こそ防御なり」を御旗に立ててきたバルサは然るべき道を進んでいるのか?
続いて行なわれた宿敵レアル・マドリード戦は3−0と制したが、懸念材料も透けて見えた。
スコア上は大勝だったが、実状はボール支配率で劣り、バーやポストに助けられた印象が強い。ウルグアイ代表ロナウド・アラウホが2試合連続ハンドでPKを与えるなど、攻撃に転じられないなかで守備の弱さが出た。昨シーズンのMVPにも名前が挙がった守護神テア・シュテーゲンに救われたゲームだった。終盤にプレスではめ込み、ショートカウンターからラ・マシア出身の新鋭MFフェルミン・ロペスが奪ったボールを左足で叩き込み、どうにか息の根を止めた格好だ。
8月末まではマーケットが活発に動き、戦力が定まるのは時間がかかる。たとえばエース格になっていたフランス代表ウスマン・デンベレはパリ・サンジェルマン移籍が確定的と言われる。
「彼自身の決定は変えようがない。尊重しているが、幸せそうに見えたので、ちょっと失望している。彼のことはクラブも可愛がってきたはずだから、いい気分ではない」
シャビはそう言うが、クラブは積年のツケを払っている。クラブ財政難により、大幅減俸でデンベレと契約したため、本人の希望いかんでは5000万ユーロ(約70億円)という"格安"で移籍が可能なのだ。
【ポルトガル代表にラブコールを送るが...】
売却資金の一部で、シャビはラブコールを送るポルトガル代表サイドバック、ジョアン・カンセロ、同じく相思相愛とも言われるポルトガル代表MFベルナルド・シウバ(いずれもマンチェスター・シティ)の獲得を目論んでいるという。また、すでに契約にサインしたブラジル代表FWヴィトール・ロッキ(アトレチコ・パラナエンセ)に「早めの合流を求める」とも報じられる。一方で放出リストに入っているクレマン・ラングレ、セルジーニョ・デストの行く先も探さなければならず、編成は不透明だ。
しかし、そもそも外に目を向ける必要はあるのか?
逆転勝利したトッテナム戦は象徴的だった。試合にスリルを生み出したのは、交代で入ったラ・マシア組の若手たちである。
チームを牽引したのは、ラミン・ジャマル(16歳)だった。独特のボールの置き方、運び方、その左足は「メッシ後」の時代を切り開く予感をさせる。実際、同点弾のアシストや逆転弾の崩しは見事だった。
逆転弾を決めたアンス・ファティ(20歳)は、いよいよ開眼間近か。シュート技術の高さはもともとラ・リーガ屈指。トッテナム戦の動き出しとシュート軌道はすばらしく、フィットしつつある。
プレシーズン、最も序列を上げたのはフェルミン・ロペス(20歳)だろう。スーパーサブとしては今や手放せない存在。ラ・マシアの申し子的なオートマチズムを備えている。
そしてアブデ・エザルズリ(21歳)は、トッテナム戦でも脅威になっていた。その処遇は「同じラ・マシア出身ニコ・ゴンサレス(ポルトへ850万ユーロの移籍金で、パスは60%を維持)と似た条件でベティスと交渉」とも噂されるが、本気で彼を放出するつもりなのだろうか。
かつてバルサがフランク・ライカールト監督時代に復権を果たしたとき、ロナウジーニョのような破格のスターがいたことで、リオネル・メッシらが才能を触発され、一気に台頭した。同じような現象が起こっているのかもしれない。レバンドフスキやペドリのような別格プレーヤーのおかげで、ファティ、ジャマルが才能を爆発させたとしたら......バルサのプレースタイルは継承され、新時代が到来する。
「ラ・マシアこそ、バルサだ」
バルサ中興の祖である故ヨハン・クライフの戒めが、啓示的に聞こえる。シャビ・バルサの開幕戦は8月13日、敵地でのヘタフェ戦となる。