女子1500メートル表彰式、入賞した選手と笑顔でタッチを交わす津山・ドルーリー朱瑛里【写真:荒川祐史】

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陸上インターハイを5日間取材した記者のコラム

 陸上の全国高校総体(インターハイ、札幌市厚別公園競技場)は6日に5日間に渡った熱戦に幕を閉じた。今大会、注目されたのが津山(岡山)のドルーリー朱瑛里(1年)。1月の全国都道府県駅伝で17人抜きを演じ、一躍、脚光を浴びた15歳が初めて高校の全国大会に出場し、1500メートル決勝で3位、800メートルは準決勝敗退となった。高校生、初めての夏。大会5日間を取材した記者が振り返った。(文=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

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 メディアに生きる身として、2月に大会を欠場した際にドルーリーが発表したコメントは考えさせられた。過熱する報道や注目に不安を感じているという主旨のもの。無理もない。「17人抜き」のあの日を境に、時の人になった。まだ15歳の未成年であり、アマチュアの選手でもある。

 今、メディアが多く記事を提供するWebニュースのプラットフォームには本数制限なく記事を配信することができる。スポーツも競技結果や会見のコメントなど、速報性をもって積み上げ式に報じられる。媒体ごとの「個体」ではなく、メディアという「総体」で見られる時代。その全体量が“過熱”と受け取られる側面もある。

 あくまで高校生の大会であり、いち選手。正直、何をどれだけ報じるべきか迷った。ただ、なんでも発信できる時代だからこそ、メディアとして見守ることも、ひとつのエールの形。それが本人の救いになるとは思わないが、今大会でドルーリーを主に取り上げる記事はこの一本にした。

 彼女の活躍は周知の通りなので、ここでは5日間取材した中で、ドルーリーに向けられた声を紹介したい。同じ1年生や同組で走った選手たちが持つリスペクトだ。

 成田(千葉)の1年生・村上美優は全国都道府県駅伝で「17人抜き」の前方で走っていた。レース後に映像を見た。「同い年とは思えないくらい、びっくり。自分で引っ張って、最後までずっと力強くて」。一方で「いつか、ドルーリーさんに勝ちたいと思っています!」とも言う。今大会は1500メートル決勝で同じレースを走って9位。「速かったし、同じ1年生なのに留学生についていって、ラストスパートも切り替えて、やっぱり違うな」と尊敬の眼差しを向け、今後の練習漬けを誓う。

 その存在を励みにするのは、同じく「17人抜き」の後方で走っていた東大阪大敬愛(大阪)の1年生・久保凛も同様だ。当時はドルーリーに次ぐ区間2位の快走だったが、力の差を痛感。「もっと練習しないといけない」と意識を変えた。高校入学以降は課題のラストの強化に着手し、今大会は1年生ながら800メートル優勝という快挙に結実。「中学の時は(ドルーリーの)足元にも全然及ばない存在だったけど、高校に入って練習を積むにつれて少し近づけたのかな」と早くも結果を出した。

 今大会1500メートル予選、決勝でドルーリーのすぐ後ろにつけて4位入賞し、3000メートル決勝5位で日本人1位を獲得した東海大相模(神奈川)の3年生・近藤希美が感じたのは見えない努力。「高校に入ってうまくいかなくなる選手も多いけど、1年夏から全国で入賞を決めている。いろんな部分で強い選手だと改めて思った」と称えた。1500メートルも注目が集まり、「田中希実さんもいて、新たにドルーリーさんも出てきて良い影響で、自分もその流れに乗っていきたい」と刺激を受けた。

 ライバルでありながら、どれも敬意に満ちたコメントは胸がすく想いだった。

ドルーリーが明かした陸上の魅力「練習した分だけタイムに努力が表れる」

 これまで多くのアスリートを取材し、最も悲しいと思うことのひとつは、好きで始めた競技を好きでいられなくなること。もちろん、それには怪我やスランプ、所属した環境や指導者との相性など、選手それぞれにそれぞれの理由がある。

 今回、話を聞いた選手に共通するのは、誰もがドルーリーの存在を喜び、自分のモチベーションに変え、陸上で競い合う良きライバルとして敬意を持っていること。本人同士はまだ深く会話もしたこともないだろうが、これだけ同じ志を持った仲間がいる。

 レース前の選手紹介は表情ひとつ変えず集中し、号砲が鳴れば積極果敢に前に出て攻めるドルーリーは強い負けん気を内に秘めたタイプに映った。

 これから勝つこともあれば、負けることもあるだろう。どうしても外野は五輪や日本記録などの夢を描きたくなるが、何よりもこんな風に陸上で繋がった仲間たちと切磋琢磨しながら、陸上を好きなまま、陸上を楽しんでほしい。

 レースを離れれば、普通の15歳。はきはきとした受け答えが印象的で、レース後に同郷の先輩から「朱瑛里ちゃん、おつかれ!」と声をかけられると、笑みもこぼした。

 2日の1500メートル予選から3日間、すべて囲み取材に応じたドルーリー。最後となった800メートル準決勝のレース後は、緊張の連続だった初めての夏が終わった安堵感か、あるいは準決勝で負けたことで沸き上がる悔しさか、特に表情と言葉に力があった。

 ひとつ、聞いてみた。

 陸上というスポーツのどんなところが好きですか?

 視線を宙に浮かせ、少し考えながら言った。

「練習した分だけ、長距離は特に結果として、タイムとして、しっかりと練習量や努力が表れるので、そこが魅力のひとつかなって思います」

 陸上にかける、まっすぐな情熱と愛情を持った高校1年生だった。

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)