日本代表10番を背負った中島翔哉は浦和の重要なピースとなるか?「時間はかからない」
かつて日本代表の未来を担うと期待された"背番号10"が、Jリーグに帰ってきた。
J1第22節、浦和レッズ対横浜F・マリノス。
両チーム無得点のまま迎えた後半83分、スタンドの大歓声に迎えられ、6年ぶりとなるJリーグのピッチに立ったのは、今夏、浦和に移籍加入したMF中島翔哉である。
6年ぶりにJリーグのピッチに戻ってきた中島翔哉
さかのぼること、およそ5年。ロシアで行なわれたワールドカップを終え、新たに森保一監督が就任した新生・日本代表は2018年9月、大阪で初陣のコスタリカ戦を迎えていた(本来は札幌でのチリ戦が初戦となるはずだったが、当地で起きた地震の影響で試合が中止になっていた)。
ワールドカップからは大きく様変わりした日本代表メンバー。なかでも、とりわけ大きな注目を集めていたのが、新たに背番号10を託された中島だった。
前年にFC東京から移籍したポルティモネンセ(ポルトガル)でブレイクを遂げていた中島は、4−2−3−1の左MFに配され、中央のMF南野拓実、右のMF堂安律とともに、攻撃の要となる2列目を形成。3−0の勝利で飾った初陣を手始めに、その後の試合でも出色の働きを見せ、次第に日本代表の"顔"となっていく。
次回カタールで開かれるワールドカップでは、中心選手として日本代表を牽引してくれるはず――。キレのいいドリブルと強烈なミドルシュートで相手を恐怖に陥れる、当時24歳のアタッカーには、そんな期待が寄せられていた。
ところが、翌2019年に入り、ポルティモネンセからアル・ドゥハイル(カタール)、さらにはポルト(ポルトガル)と移籍を重ねた中島は、徐々に思うような活躍ができなくなり、日本代表での地位も揺らいでいく。
結局、日本代表での試合出場は、2019年11月のベネズエラ戦が現時点での最後。その後も、アル・アイン(UAE)、ポルティモネンセ、アンタルヤスポル(トルコ)と渡り歩くも、かつてのような強いインパクトは残せなかった。
しかも、昨季所属していたアンタルヤスポルが財政問題を抱えていたこともあり、シーズン終了をもって双方合意のうえで契約は解除。
先行き不透明な状況が心配されていたところ、今夏、サプライズとも言うべき形で実現したのが浦和への移籍、すなわち6年ぶりのJリーグ復帰だったのである。
「(トルコでのシーズンが終わって)2、3週間休んで、少しずつ動いた感じ。(横浜FM戦は)ぶっつけ本番みたいな感じだった」
J復帰戦後、自身がそう話していたように、6月のトルコリーグ最終節に出場して以来の実戦となった中島にとって、今の時期は本来ならプレシーズンにあたるタイミングである。
浦和加入後の練習でも「最初はずっと別メニューだった」と言い、全体練習に合流したのは、「(横浜FM戦の4日前に行なわれた)天皇杯のあとの練習から。連戦だったので、大した練習はしていない」。
彼本来の力を出すには、まだコンディションが整っていない、というのが現状だ。
この日の横浜FM戦でも、中島投入後の時間帯は相手に押し込まれる展開が続いたこともあり、ボールに触れるプレー機会はごくわずか。左サイドからのカットインでシュートに持ち込む、得意の形を見せることはできなかった。
唯一の見せ場と言ってもいい、右サイドのペナルティーエリア脇から左足で強引に放ったシュートも、あえなく相手選手にブロックされ、公式記録上はシュート数にカウントされていない。
それでも、マチェイ・スコルジャ監督が中島をピッチに立たせたのは、彼にかける大きな期待の表れなのだろう。
「翔哉ができるだけ早く馴染むように環境を整えてあげたい」とは、今後の優勝争いを視野に入れるポーランド人指揮官の弁だ。
中島自身もまた、「このチームで(試合を)やるのは初めてだったので、こうやって公式戦に出て、感じをつかめたのはすごくよかった」と言い、こう続ける。
「(浦和には)いい選手もたくさんいるので、次はよりいいプレーができるじゃないかなと思う。できる限り一番いいパフォーマンスが出せるようにしていきたい」
そんな中島のJリーグ復帰を喜んでいるのは、味方ばかりではない。
"先輩"の帰還を歓迎するように、途中交代でピッチに入ってきた中島とタッチをかわしたのは、横浜FMのDF畠中槙之輔である。
「久々に同じピッチで試合をしたが、相変わらず楽しそうにサッカーをしているなという印象を受けた」
そう語る畠中は、中島の一学年下ながら、東京ヴェルディのアカデミー時代からトップ昇格に至るまで、長く一緒に戦ってきた元チームメイトだ。
だからこそ、「ボールを持ったら何をしてくるかわからない怖さを、誰よりも持っている。そういう選手だということは、昔からわかっている」と畠中。「翔哉くんはこれからどんどんコンディションを上げてくると思うので、次の対戦がすごく楽しみ」と話し、笑顔を見せる。
中島のJリーグ復帰戦は、アディショナルタイムを含めても20分足らずの出場。ほとんどボールにもかかわれず、これだけで日本代表復帰をどうこう言うのは、さすがに気が早いと言わざるを得ない。
しかし、畠中の言う「ボールを持ったら何をしてくるかわからない怖さ」が戻ってくれば、中島の存在が再び脚光を浴びる可能性は高いだろう。
決して多くを語らない中島も、秘めた自信をうかがわせるようにこんなことを話している。
「自分がやりたいことはみんな、わかってくれているので、ここで試合を重ねれば、もっともっとコンビネーションとかもよくなる。もともと知っている選手もたくさんいるので、(チームに適応するまで)あまり時間はかからないと思う」
この2、3年は思うようなステップアップができなかったとはいえ、今年8月23日に29回目の誕生日を迎える28歳は、まだ肉体がさびつく年齢ではない。
アイデアに富んだ中島翔哉らしいプレーが、Jリーグで再び見られることを楽しみにしたい。