JR青梅線を走る電車。同線の青梅―奥多摩間は2023年春のダイヤ改正ですべて4両ワンマン運転になり、全線を直通する列車はなくなった(写真:藤森啓太/PIXTA)

車両を切り離すか、運行を分離するか

都心から放射状に延びる路線の多い東京圏の鉄道。ほとんどの路線は、都心部から離れるにしたがって利用者が減っていく。そこで多くの路線では、都心からある程度離れた途中駅までの列車を多数運転する一方、その先は本数を減らして輸送力を調整している。

利用者の減る区間で輸送力を調整するために鉄道会社が行っている手段はほかにもある。その1つは「列車の編成を分割」するやり方だ。例えば15両編成の列車を途中駅で10両と5両に切り離し、その先の区間は10両編成で運転するといった形だ。

また、近年はもっとラジカルな方法として、都心部から離れたエリアへ長編成の列車を直通させるのをやめて途中駅で運転系統を分離し、その先は短編成の別の列車に乗り換えてもらうという「系統分離」が増えている。それぞれどんな事例があるだろうか。

途中駅で一部の車両を切り離し、編成を身軽にして目的地に向かうのは、東京圏ではJR線でよく見られる。例えば横須賀線の電車は逗子で編成を分割する。同駅から久里浜までは、ホーム有効長の関係で15両編成が入線できない。そこで、同線の電車は11両編成と4両編成に分割できるようになっており、逗子で4両の切り離し・連結を行う。

東海道本線では、平塚や国府津、熱海で15両編成のうち5両を切り離し・連結する。東北本線(宇都宮線)は小金井、高崎線では籠原で同様の作業を行う。高崎線の場合は籠原より先、ホームが10両編成までしか対応していない駅がある。湘南新宿ラインや上野東京ラインを利用したことがある人なら、籠原がどこにあるかを知らなくても「5両は籠原止まりです」という放送を聞いたことがあるだろう。


JR東海道本線や高崎線、宇都宮線では10両編成と5両編成を連結し、途中駅で切り離す運用を行っている(写真:hide0714/PIXTA)

これらの路線は、途中駅で列車を分割した後、長いほうの編成(10両+5両の編成なら10両)がその先へ向かっている。遠方でも比較的利用者が多い路線といえるだろう。乗客の少ない区間の編成車両数を減らしているというよりは、利用者の多い区間で車両を増結しているといえる。

終点まで直通する列車が消えた路線

一方、最近のダイヤ改正ごとに各線で増えているのは系統分離だ。2022年3月のダイヤ改正では、東北本線(宇都宮線)が宇都宮を境に運転系統を分離した。

東京方面からの列車は宇都宮が終点となり、それまで朝夕などに走っていた黒磯までの10両編成直通は廃止。宇都宮―黒磯間はE131系の3・6両編成運転となった。地域の実情に見合った輸送体系ともいえるが、列車によっては混雑がひどくなったともいわれる。同改正では、常磐線も日中時間帯は都心から水戸方面への直通運転をやめて、土浦で5両編成の列車に乗り換えなければならなくなった。

2023年春のダイヤ改正では、青梅線も系統分離された。立川―奥多摩間を結ぶ同線は途中の青梅を境に奥多摩寄りの利用者が少ないため、もともと全線を直通する列車は少なかったが、同ダイヤ改正で青梅―奥多摩間はすべてワンマン運転の4両編成となり、直通列車はなくなった。土休日に走る「ホリデー快速おくたま」も奥多摩直通をやめ、青梅から先は別の列車に接続する形になった。

私鉄でも同様の例は多い。以前から行っているのは、長大な路線網を持つ東武鉄道だ。池袋―寄居間を結ぶ東上線は2005年3月に全線を直通する列車がなくなり、途中の小川町を境に池袋方面と寄居方面の運行が分離された。池袋―小川町間は10両編成が走る一方、小川町―寄居間は全列車が4両編成のワンマン運転である。2023年3月からは4両ワンマンの運転区間が小川町より池袋寄りの森林公園まで広がった。


東武東上線は池袋―小川町間は10両編成が走るが、同駅で系統分離され寄居までは4両ワンマン電車の運転になる(写真:tarousite/PIXTA)

東武は伊勢崎線(スカイツリーライン)も細かく運行系統を分けており、浅草―伊勢崎間を結ぶ同線を全線直通するのは特急「りょうもう」1往復だけだ。そのほかの列車は都心方面から見ると、まず久喜を境に通勤時間帯以外の運行が分離されている。さらにその先の館林では特急以外の全列車の運行が終日分離されており、館林―伊勢崎間はワンマン3両編成の運転だ。

西武池袋線も、特急以外は飯能駅を境に系統分離されている。飯能―西武秩父間は車両もクロスシートでほかの池袋線車両と全く異なるため、飯能から先が西武秩父線と思っている人もいるかもしれないが、吾野までは池袋線、その先が西武秩父線である。


飯能―西武秩父間を走る西武鉄道の4000系電車。西武池袋線は飯能で運転系統が分かれている(撮影:大澤誠)

最近の例として挙げられるのは小田急電鉄江ノ島線だ。同線は小田原線の相模大野から藤沢を経て片瀬江ノ島までを結ぶ路線だが、2022年3月のダイヤ改正で特急ロマンスカーなど一部を除いて全線を直通する列車がなくなり、藤沢―片瀬江ノ島間は各駅停車の折り返し運転となった。同区間の中間駅はホームが短いため10両編成が停まれず、かつ藤沢駅はスイッチバック構造のため、系統分離には向いていた路線といえるだろう。


竜宮城スタイルの駅舎で知られる小田急江ノ島線の片瀬江ノ島駅。2022年春のダイヤ改正以降、特急など一部を除き同駅には藤沢折り返しの各停のみ発着するようになった(編集部撮影)

「列車分割」は減る一方?

近年になって系統分離が盛んに行われるようになったのは、車両の運用の効率化や利用実態とのマッチング、また長距離旅客の有料列車への誘導などが理由といえよう。系統分離すれば短編成化やワンマン運転の導入もしやすい。一方で、連結・切り離し作業に手間のかかる列車編成の分割は、以前と比べて減ってきている。編成の分割を行う列車が今後増えることはないのだろうか。

近い将来、中央線快速にグリーン車が導入される。グリーン車は2両で、編成は10両から12両に伸びる。現在、同線の電車は10両固定編成のほかに6両と4両に分割できる編成があり、後者については6両のほうにグリーン車2両を連結し、8+4両の編成になる予定だ。

グリーン車の運転区間は東京―大月間と青梅線の立川―青梅間の予定で、この区間の各駅では12両編成対応工事が行われているが、高尾より先は、大月に近づくにしたがってどんどん乗客が減っていくというのが現状である。時間帯によっては、高尾以遠は12両編成だと輸送力が過剰になりそうだ。8+4両の編成を途中駅で分割し、グリーン車を含む8両が大月へ向かう、という運用もありえるかもしれない。


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(小林 拓矢 : フリーライター)