2023年のペナントレースは後半戦が始まり、上位チームはここから夏場をどう戦うか、優勝に向けて正念場へと突入する。そんななか、2年連続セ・リーグ連覇中のヤクルトが5位に低迷(7月27日時点/以下同)。その要因のひとつに挙げられているのが、昨年史上最年少で三冠王に輝いた村上宗隆の不振だ。

 昨シーズンの驚異的な活躍が記憶に新しいだけに、開幕から調子の上がらない村上に対してファンはヤキモキしているだろうが、それでもホームラン、打点とも現在リーグ2位につけている。昨年に比べれば物足りない数字ではあるが、ここにきて復調の兆しが見え始めているのもたしかだ。

 そんな村上の活躍がフィーチャーされればされるほど、比較対象にあがるのが同級生で同じスラッガータイプの清宮幸太郎(日本ハム)だ。鳴り物入りでプロに入った清宮だったが、入団後はケガなどもあってレギュラーに定着できず。だが昨年、自己最多の129試合に出場し18本塁打を放つなど、飛躍の1年となった。

 そして今年、またしてもケガにより離脱を余儀なくされたが、ここまで46試合の出場で打率.286、5本塁打、19打点。最下位に低迷するチームのなかで、安定した成績を残している。

 はたして、ふたりの差は埋まりつつあるのか。球界の大御所である広岡達朗が持論を展開した。


昨年、三冠王を獲得した村上宗隆(写真左)と自己最多の18本塁打を放った清宮幸太郎

【村上と清宮の大きな違い】

「状態が悪い村上と、調子が上がってきた清宮を比較して何になるというのか。村上に失礼だ。現状の清宮からしたら村上とは天と地ほどの差がついているし、今のままではいつまで経ってもその差は縮まらんよ。調子が悪くてもホームラン、打点をしっかり稼いでいる村上に対して、清宮はやっと定位置確保であり、ケガでの離脱を考慮してもホームラン、打点ともに少なすぎる」

 広岡によると、今のままでは村上と清宮は比較対象にもならないとのこと。実績もさることながら、清宮の姿勢に不満を持っているようだ。

「たしかに清宮の打率だけを見れば、多少の成長はあるかもしれん。だが村上との大きな違いは、チャンスに打てるかどうかだ。清宮はチャンスに打てているか? 甘いファーストストライクを簡単に見送る姿勢に腹が立つ。評論家も評論家だ。覚醒したとか、眠れる大器がやっと目覚めたとか言うから、いつまで経ってもお坊っちゃま体質が抜けない。

 打席での佇まいを見てみろ。村上の武士道のごとく殺気だった猛禽のような目。一方、清宮は優しい目をしている。どっちが打ちそうか、一目瞭然だ。プロの打者は、チームを勝たせるバッティングができるようになって初めて評価されるのだ」

 広岡はバッターボックスの佇まいから勝負が決まるといつも言っている。

「ワンちゃん(王貞治氏)の眼光はすごかった。有名な荒川道場での一本足の特訓。二本足での重心の取り方は曖昧でごまかしやすい。でも一本足だと、頭の上にある重心を下に持っていかなければ安定感が出ない。その重心を下に持っていく作業のなかで集中力が増し、面構えがよくなった」

 広岡が「世界の王」をたとえに出してまで言いたいのは、バットを振り出すまでがどれだけ大事かということ。村上にはそれが備わっているわけだが、なぜ今季は不振が長引いたのか。広岡の見解はこうだ。

「昨シーズンを基準にして考えるから不調に見えるだけ。WBCで大谷翔平を目の当たりにして、真似しようとして調子を崩したなんて記事があったが、ずっと引きずることはない。たしかに、ある選手の影響を受けて自分のフォームを見失うことはあるけど、三冠王を獲った村上に限ってそんなことはないはずだ。それよりも相手バッテリーはインコースを意識させておいて、アウトコースで勝負するというセオリーどおりの攻めをしている。それがうまくはまったのではないか」

【村上宗隆の2つの変化】

 そして広岡は、今シーズンの村上のバッティングについて2つの変化があると語る。

「昨シーズンと今季前半のバッティングフォームを見比べてみると、明らかな違いが2つある。まず昨年は、テイクバックの際に"間(ま)"があった。"タメ"といったほうがわかりやすいだろうか。それは今シーズンの初めはなかった。それと、打ちにいく時の右足のモーションが明らかに小さくなっている。

 近年は手元で変化する球が全盛のため、足を大きく上げて打つ選手は減った。それでも昨年の村上は、堂々と足を上げて打っていた。それが今年は上げ幅が小さくなっている。WBCの影響なのかわからないが、進化を求めてのことだろう。メジャーを見据えているのか知らんが、大打者への過程を歩んでいるに過ぎない。あのクラスのバッターは、シーズンが終わればそれなりの数字を残す。自ら求めたバッティングフォームの微調整で苦しんでいるだけだ。アジャストすれば心配ない。それよりも心配は清宮のほうだ」

 最後に広岡は、語気を強めてこう言い放った。

「実績云々ではなく、やるべきことをやるのが人間の使命。時間があると思うな。死ぬ気でやれ」

 この声が清宮に届くことを祈る。