料理家として活躍する飛田和緒さん。その暮らしぶりも注目されています。今回は、旅についてつづってくれました。

飛田和緒さんが語る「旅のこと」

飛田和緒さんの著書『おとなになってはみたけれど』(扶桑社刊)でつづられていた、暮らしへの思いを抜粋して紹介します。

●旅の持ちもの

旅に出るときは、たいてい機内持ち込みができるサイズのスーツケースとリュック。旅の日数により、スーツケースだけ、リュックだけ、両方とも、となる。

台湾など現地のおいしいものを持ち帰るような旅のときには、ほぼ空の大きなスーツケースで行くこともある。服はシワにならない素材のものを選び、組み合わせを決めて余計なものは持たないように。必ず持っていくのは2枚ほどの大判ショール。服や下着をこのショールで包んで荷づくりする。

旅先が常夏でもホテルやレストラン、乗り物はエアコンのきついことが多いので、出かけるときには必ずショールを持参。寒い場所なら腰に巻き、首に巻いてコートを羽織れば、格段に暖かくなる。

コンパクトなナイフも必須アイテム。市場やスーパーで買った果物やチーズを食べるときに便利で役に立つ。飛行機の場合は、機内持ち込みにせず、荷物を預けてしまえばナイフもOK。これまで旅した先で日本のナイフとラップに代わるものがなかったことから、長期滞在の現地で自炊の場合は包丁とラップを持参する。

●毎年行く場所

毎年、楽しみにしている旅は長野巡り。わたしが高校3年間を過ごした土地であり、今も両親は長野在住であることもあって、友人を訪ねたり、移住した知人に会いに行ったり、保存食を習いに行ったり、そしてなによりおいしい宿がある。いい温泉があると聞くと飛んで行く。

長野県は南北にとても長く広い。北と南では方言も食べるものも異なり、季節によってもまったく違う表情があるから、何度行ってもまた行きたいと思わせてくれる場所なのだ。

最近、気に入って通っているのが南信州、伊那郡の中川村。電車やバスを乗り継いで行ったり、途中でレンタカーを借りたりして、中川村を中心に、その周りをぐるぐると巡っている。塩が採れるという温泉へ行ったり、松茸づくしの料理宿に泊まったり、駒ケ岳のロープウェイに乗って山頂近くのヒュッテでしばらく山を眺めたり。おおまかな計画は立てておくけれど、その場その場でスケジュールを変更していく。時間切れのときには、また来年となる。

●なにもしないハワイ旅

家族旅行は、夫とわたしのスケジュールが合うのが年末年始しかなく、20年近くハワイに2、3週間滞在する旅を続けてきた。なんにもしない旅。観光はほとんどなし。行き始めた頃はドライブがてら名所を巡ったり、マリンスポーツやゴルフもしたりしたが、そのうちにそれも飽きてくる。スーパーに行って食材を買い込み、ずっとホテルやコンドミニアムのプールサイドや部屋で飲んだり、食べたりして、本を読み始めては寝るという、ハワイじゃなくてもいいじゃん、っていう旅。でもこれをできるのがハワイ。気持ちのよい風と晴れ晴れとした澄んだ空のおかげで、リフレッシュできる。

旅先でも料理するの? ってよく聞かれたが、キッチンが変わってもまったく苦ではない。
旅先では時間に追われることがないので、食べたいときに食べたいものをつくるからできるのかもしれない。外食もしたいけれど、年末年始のハワイの人気の店は前々から予約をしておかないといけないこともあって、無計画な夫婦にはまったく合わないのである。

最近は娘の学校の休みに合わせた滞在となり、そのうちに両親が高齢になったことや、飼い猫の具合が悪いことなどの理由で、年末年始は実家に帰ったり、実家から足を延ばして北陸へ旅をしたりするようになった。またハワイへ行きたいなと思いつつ、先のお楽しみとしている。

●ひとり旅をすることも

娘の中学入学を機に旅取材や長野巡り、ひとり旅もできるようになった。といってもその旅の前後はかなりハード。ごはんやおかずを仕込んで、簡単にレンジや鍋で温め直すだけで食べられるものを準備し、ゴミ出しなど日々やることをこと細かにメモしたり、小ざっぱりと部屋を片付けて出かける。帰ってくれば洗濯の山、部屋にはいろいろなものが散らばり、ほこりだらけとなっているから覚悟して玄関を開ける。それでも気持ちよく送り出してくれるだけありがたい。

ひとり旅はヨーロッパへ。クラシックバレエを観に行く。最初は久しぶりなので、朝からうろうろと歩き回ったり、買い物をしたりしたが、これが裏目に。肝心の舞台のときに時差もあってこっくりこっくり眠くなる。当日券で入ったミュージカルはほぼ寝てしまった。それからはなにもせずにじっとしていようと決める。

旅の目的は舞台。欲張らず朝ごはんを食べたら、散歩をする程度で、時差調整。本を読むなどしてホテルで過ごし、時間になったらおしゃれをして劇場へ出かけるように。

舞台を堪能したあとは、帰り道にワインを買って部屋でひとり飲みを楽しむ。

 

飛田和緒さんの『おいしい朝の記憶』(扶桑社刊)は発売中。