北海道・ニセコ町で、SDGsをコンセプトにしたまちづくりが進んでいます。その名も「ニセコミライ」。時事YouTuberのたかまつななさんが、その中身を取材しました。話を聞いた相手は、プロジェクトを担うまちづくり会社「ニセコまち」の田中健人さん。そして、町と包括協定を結び建築面でサポートをするウェルネストホームの広報・芝山セイラさんです。

ニセコ町に文化として根づく「相互扶助」の精神

たかまつ:SDGsをコンセプトにしたまちづくりとはすごいです。プロジェクトのきっかけを教えてください。

田中:ニセコ町は人口が微増していて、住宅不足と労働力不足が長年のまちの課題でした。行政としてもまちづくりの事業構想を進めていたのですが、そのタイミングで2018年に内閣府よりSDGs未来都市に選ばれたんです。だったら、単なる宅地開発ではなく、縮小していく社会においてモデルとなるまちを目指そう、と。そこで官民連携のまちづくり会社「ニセコまち」が設立されたんです。

たかまつ:ニセコがSDGsの先進自治体になれたのはどうしてですか?

田中:ニセコ町はもともと、住民参加や情報公開といった意識が根づいているんです。自治基本条例を全国で先駆けて制定したのもニセコですし。さかのぼれば、開拓時代、作家の有島武郎が「相互扶助」の精神を掲げた、農場解放を実践した土地でもあります。持続可能性や多様性が文化としてあるんでしょうね。

たかまつ:ニセコミライに建設される住宅について教えてください。

田中:コンセプトは、超省エネとオール電化による脱炭素への挑戦です。ニセコは寒冷地かつ豪雪地帯で垂直積雪量が2、3mにもなります。さらに再エネ資源が乏しく、脱炭素へのハードルは非常に高い。そのため、田舎には珍しくすべて集合住宅を採用するなど徹底した省エネと効率化を図り、住む人にも環境にもよいまちを目指します。

芝山:弊社が協力し、ニセコ町郊外にプロトタイプとなる集合住宅を建設して、実証実験を続けています。その家は共用部に設置されたエアコンだけで、外がマイナス15℃でも、室温は22℃前後。そこに住んだ方は「暖かすぎて戸惑った」とおっしゃっていました(笑)。

たかまつ:昨年、欧州を取材したとき、すべての部屋にエアコンがあるわけではないということに衝撃を受けました。日本はエアコンの設置が前提になっていますが、住宅の構造によって快適な室温に保てるんですね。

田中:北欧含めて欧米は、建物の最低室温が法律で義務化されていますからね。

芝山:ニセコミライの家はドイツの高断熱住宅を参考にした、熱を徹底的に逃さない構造になっています。壁は30cm弱もある厚さで断熱材がびっしり詰まっていて、窓はトリプルガラスの樹脂サッシを採用しています。

たかまつ:やはりドイツに比べると日本の住宅性能は劣っているのですか?

芝山:日本でも人にやさしい家づくりが求められ、「HEAT20」という断熱性能のグレードが定められました。ただ、欧米に比べるとまだまだです。

田中:個人的には家の快適さはもちろんですが、建物の長寿命性という観点でも、日本の住宅は問題があると考えています。地震や湿度といった日本特有の課題があるにせよ、欧州の住宅寿命は80〜100年。一方、日本は20〜30年に一度大規模リフォームが必要で、ローンが終わったと思ったら資産価値はほぼゼロ。エネルギー価格の高騰もあり、住宅の断熱に対する考え方は変わりつつありますが、日本の住まいが抜本的に変わるためには法整備が必要でしょう。

SDGsで僕らができるのは小さな世界で事例をつくること

たかまつ:ニセコミライの開発は現在、どういう段階なのでしょうか?

田中:全体を4工区に分けていて、第1工区の造成工事が終わり、今年から1棟目8戸の建築工事が始まります。年内に完成し、来春入居予定です。

たかまつ:ニセコミライはどのようなまちを目指しているのでしょうか?

田中:「こういうまちにしたい」という理想を掲げることはしていません。住む人が主役になるまちになってほしいですから。もちろんSDGs的な観点、「持続可能なまち」というコンセプトは守っていきたいとは思っています。

たかまつ:そこは期待しています。

田中:私たちはコンセプトのひとつに「混住」を掲げています。若者も子育て世帯も高齢者も、いろんな世帯が住める受け皿を用意し、「住まいの流動化」を実現したい。それが「持続可能なまち」ですから。その点では、敷地内の共有スペースでイベントを仕掛けることは必要かなと考えています。

たかまつ:アイデアはありますか?

田中:たとえば、羊蹄山を眺めながら住民みんなでジンギスカンをしたり、地元農家の野菜が買えるマルシェを開催したり。こうしたことを住民と一緒に、時代とニーズに合わせて続けていくのが目指すまちの姿なのかもしれません。

たかまつ:めちゃくちゃすてきです。多彩な人との交流は生活を豊かにしますし、心理的な孤立の予防にもなります。都市部は多様性があるようでないんですよね。先日、居住区のある会議へ参画したのですが、アクションを起こすにはコミュニティづくりから始めなくてはならず、ハードルの高さを感じました。人は多くても、結局、ネットを介さなければつながれないんだって。

田中:多様性はニセコのキーワードのひとつです。ただ、僕らがダイバーシティを意識しているわけではなく、必然的にそうなっているんです。いろんな人がごちゃまぜになって、共存共栄していけるまちになればいいし、それが、ルールで縛られるのではなく、相互扶助やSDGsをベースに、住民みんなで考えてつくっていけたらいいなと思います。

 

たかまつ:おふたりはSDGsをどのように受け止めていますか?

芝山:ウェルネストホームは、創業から健康で快適に住める長持ちする住宅をコンセプトに家づくりをしてきました。その結果、SDGsの目標11個をクリアできた。SDGsをことさら意識せずとも、中長期的に「真に大切なものはなにか?」を考えて行動することで、環境への配慮は達成できるのだと思います。

たかまつ:私はやはりSDGsウォッシュが気になります。SDGsは目標であり、目標は達成することに意味がある。未来像を描き、実現のための道筋を考えて行動することが大事。バックキャスト思考がSDGsには欠かせません。実現可能な目標を掲げて達成できたと喜んでも本質ではないなって。

田中:皮肉なことですが、日本は言葉を広げるのはとても得意だなぁ、と。欧州では「SDGs」という言葉自体の浸透度は日本より低いですし、SDGsのバッチをつける文化も日本だけです。

たかまつ:本当にSDGsは17項目の暗記科目になってしまっています。

田中:やはり、国の制度や仕組みといった大きなところを変えなければ、抜本的な変革は難しいでしょう。他方で僕らができることはなにかというと、小さな世界において事例をつくっていくことです。成功事例をほかへ広げていくこともまた、日本人が得意とすることですから。

たかまつ:ニセコミライも成功事例のひとつになっていくのでしょうね。

田中:ニセコミライを完成させ、「ニセコにいいまちができた」で終わろうとは思っていません。ニセコの成功モデルをほかの農村や都市部に広げていく。そして、国を変えていきたいと考えています。