現在、ESSEonlineにて漫画『ゴミ屋敷住人の祖父母を介護した話〜姫ばあさんとこじらせじいさん〜』を連載中の漫画家・西園フミコさん。壮絶だったゴミ屋敷の片づけを描いた漫画は、記事が更新されるたびに話題になっています。

祖父母の家がまさかの「ゴミ屋敷」。想像以上の状態に驚愕

先日、祖父母のゴミ屋敷の片づけをつづった章が無事に完結。ここでは、新しく始まる「介護編」を前に、西園さんにインタビュー。ゴミ屋敷の片づけの裏話をお伺いしました。

●2階に足を踏み入れたらそこには見たこともない魔境が…

――この漫画は、実体験をもとに描かれていますが、初めて祖父母のゴミ屋敷に足を踏み入れたときの気持ちを教えていただけますでしょうか。

西園フミコさん(以下、西園):これは私が20代後半くらいの話ですが、祖父母の家は2階建てで、発覚する前は玄関で話す程度。家の外や玄関先で見える景色は、1階は1人分の移動スペースがぎりぎりあるくらいの「汚れてる家」という認識でした。でも介護の話が進んで、おもな生活スペースである2階に踏み入れてみると、そこに“魔境”が広がっていたのは本当に驚きました!

――祖父母は、昔から片づけが苦手な方だったのでしょうか…?

西園:小さい頃に1度祖父母の家にお泊りしたことがあるんですけど、自分の暮らしてた家と比べて、雑然としていて、「なんでこんなに散らかっているんだ…」っていうのを子ども心に覚えてます。

それがすごく怖くて。心細かったとか、そこまで心を開いていなかったとか要因はあったかもしれませんが、不衛生な印象があって、「なんかおうち帰りたい…もうお泊りはいやだ…」って思ったし、居心地はよくなかったです。

●炎天下のなかの片づけはとにかく地獄だった

――片づけでは想像を絶する光景が広がっていたかと察しますが、いちばん衝撃を受けたのはどのエリアでしたか?

西園:漫画にも描きましたが、すずらんテープが結界のように張り巡らされていたところですかね。なにかを吊るしたかったのかもしれませんが、意図も分からないしとにかく不気味で、初めて見たときはその異様な光景に衝撃を受けました。

しかも、2階の異臭がすごくて。1階で話している分には、「空気がこもってる…?」くらいの感覚でしたが、2階は生ごみが発酵したにおいで、思わず胃の中のものがせり上がってくる感じといいますか。

あとはやっぱりトイレの便器の横で“ぬか床”を発見したことも忘れられないですよね(苦笑)。もう、そこにタッパーがあるのもいやだったし、これ開けるのか…っていうのもいやだった。

タッパーが発見されたユニットバスがいちばんひどかったんですよ。普通ならそこにあるはずがない食器や残飯があって、「なぜ、これがここに…?」と(笑)。だから、このスペースを開けたときも、すずらんテープを発見したときと同じくらいぎょっとしました。

――お話を伺ってるといかに片づけが壮絶だったのか伝わってきます。2日間にわたる“戦い”の記憶はありますか?

西園:夏のいちばん蒸し暑い時季に掃除を行ったので、全身ドロドロになったし、においもきつかった。やっぱりその状態だと、コンビニやお店に入れないんですよ…。だから昼食は、片づけの前に買って、家の中でなんて食べたくないから、外で地べたに座りながら食べました。とにかく真夏の片づけで、コンディションとしては最悪でした。

――清掃業者が入るタイミングはそこしかなかったのでしょうか?

西園:祖母がケガで入院しているうちにやりたかったので、そこの選択肢しかありませんでした。入院がお盆前くらいだったので、急ピッチで手配してもお盆明けで、予約が取れる近々のところにお願いした結果、真夏日に作業することに…。

●困っていることを隠さずに、プロに頼った

――業者に70万円お支払いしたと漫画でも描かれていましたが、金額を見てどう感じましたか?

西園:最初に相見積もりを取っていたので、そこまで「高っ!」って驚いた記憶はないです。まぁ高額ではありますよね…。でも、介護の必要性もあったので、自分たちでコツコツやるとその間は介護ができない。だから自力でやるっていう選択肢は初めからなかったです。

――業者選定はどのようにされたのでしょうか?

西園:自分でもネットで検索しつつ、そのときにお世話になっていたケアマネージャーさんに2〜3か所教えてもらいました。そこで相見積もりを取って、最終的な業者を選んだと思います。もうこのケアマネージャーさんがいなかったら完全につんでました。

ちなみにケアマネージャーさんは、公営の地域包括支援センターに相談して、ご紹介いただいた民間の事業所の方です。もう選んでいる余裕もなかったので、役所にもケアマネージャーさんにもなにも隠さず「本当に困ってます!!」というのを全面に話しました。

――大変な出来事で「救世主」と出会われたのは大きいですね。このゴミ屋敷の清掃から学んだことがあれば教えてください。

西園:とにかくプロの手を借りることを学びました。恥ずかしさや、もちろん金銭的な事情もあると思いますけど、できるだけお金で解決できることはした方がいいと感じましたし、自分の力だけでやってたら、精神的にもやられていたと思います。

やっぱりプロの手を借りても大変なんですよ! でも、だいたい説明すれば、思っている以上のパワーで助けてくださることが多くて、本当にありがたかった。私は調べ事をして、お願いしてまわっただけなので…。

――ひとりで抱えてしまうことはなかったですか?

西園:相談や愚痴は、母、もしくはケアマネージャーさんや業者の方にしていました。もともとの性格もあってか、そんなに隠そうともしてなかったですし、友達にも詳細は話さなくとも大変でさ〜くらいには言ってたかも。

私の経験上ですが、クローズドにすればするほど自分が追い込まれるんですよね。もちろん、相手や場所は選ぶべきだけど、話づらいことこそひとりで抱え込まずオープンにした方がいい。本当に困ってるときに、世間体をそこまで気にしても仕方ないし、正直に話して助けを借りることは大切だと思ってます。

漫画を読んでくださった方からも「じつは私も…」と話しかけていただくこともあったりして、潜在的に困ってる方は多いのかなと思います。誰にも言えずに悩んでたけど、似たような経験をした人がいるんだってホッとして話してくれる方も多いので、ぜひ抱え込まないでほしいですね。

●今思えば、ゴミ屋敷が形成されていったのは…

――最後にお伺いしたいのですが、ゴミ屋敷は片づいて、“元”ゴミ屋敷となりましたが、そのあとは逆戻りせず維持されていたのでしょうか?

西園:60年くらい住んでいた賃貸なのでピカピカというワケにはいきませんが、それでも私や母、ケアマネージャーさんといった周囲の人間が必ず出入りし、「ゴミが目についたら捨てる」など、祖父母以外の“片づけ力”が働くことで、ある程度のキレイさを保っていたと思います。

祖父母はもともと片づけも苦手だし、老いによって管理の能力も失われていた。だから、そういうマンパワー的なものがあれば防げたのかな。ゴミ屋敷は、人の出入りが少なかったからこそ形成されていったんだなと今は思います。