原晋監督のワクワク度、4月は0%も関東インカレを経て急上昇「駒澤大に勝つチャンスがあるのはうち」の根拠とは
「10人きちっと揃ったら、全然互角にやれる」と手ごたえを語る原晋監督
原晋監督インタビュー 後編
■前編:「駒澤大の一強。はっきり言って強い」と険しい表情 今季の選手たちが伸び悩んでしまった理由も>>
箱根駅伝では、各大学がフィジカル強化に力を入れ、トレーニング環境の進歩はめざましい。青山学院大学の「青トレ」は常勝のキーワードだが、その優位性も薄れつつある。
では、どこで差をつけてチームを強くしていくのか。各大学の共通の課題はそこだろう。
原監督は言う。
「状況に応じて、練習メソッドを変えながらやっていくしかないでしょうね。うちは選手の自立を促し、自らを律して強くなってきた。でも、指揮官が何も言わないかといえばそうではない。やはり指揮官が戦う姿勢を見せないと、選手にも闘争心が伝播していきませんから。陸上協会にもの申すとか、ライバルチームにあえて強い口調で言うとか、大学陸上界が発展するためだったら積極的に口を挟む。
だから選手たちにも言いますよ。枝葉のことは選手やコーチに任せるけど、本流の部分では戦う姿勢を見せていく。経営者や歴史上の人物の、いろんな言葉を引用しながらね。割と今の子たちは喜んで聞いてくれます。理想や夢物語を熱く語る大人が珍しいんだろうね(笑)。俺は陸上界をこう発展させていきたい。それにはお前たちが勝たないといけない。発言を聞いてもらうには我々がもっとパワーを持たなければならないんだって。そういう話をして盛り上げていきますね」
新チーム発足直後に、監督は熱弁を振るって活を入れた。それを機に選手の目の色が変わり、トラックシーズンでは自己ベストを出す選手も多かった。
原監督も徐々に手応えを感じ始めているという。
「今年も強いんですよ。10人きちっと揃ったら、全然互角にやれる。つねに僕は箱根駅伝のシミュレーションをしているんだけど、今だったら駒澤の1区は誰で、うちならこの選手と。そうやって並べていくと、勝つチャンスは割とある。それくらいの差ですよ」
ただし、と続ける。
「去年のように2チーム作って誰もが走れるというほどの戦力はない。ただ、トップ10の選手で比較すればうちは今年も強いです」
昨年の近藤幸太郎、岸本大紀に代わるエースとして、監督は2人の選手の名前を挙げた。1人は1年生の時から主力として活躍している佐藤一世(4年)、2人目が3年生の鶴川正也だ。「駅伝男」と称される佐藤と違い、鶴川にはまだ三大駅伝出場の経験がない。だが実力はうちのエース級と、監督はその潜在能力を高く評価する。
「関東インカレの結果を見てもらうと、持っている力は図抜けています。今回も2部5000mで日本人トップの3位に入ったけど、故障明けで1カ月程度しか練習していないからね。前回の箱根も本当は使う予定だったけど、夏合宿の初日に捻挫をしてダメになった。その二の舞さえ踏まなければ、佐藤、鶴川はともに世代トップの選手ですよ」
5月の関東インカレでは他にも、2部3000m障害決勝で4年の小原響と2年の黒田朝日がワンツーフィニッシュを飾り、2部1500m決勝でも2年の宇田川瞬矢と4年の山内健登が優勝と準優勝を分けあった。ハーフマラソンや10000mで佐藤以外に入賞者が出なかったのは気がかりだが、「本来出るべき選手が出られなかっただけ」と監督は意に介さない。
「2月の丸亀ハーフでは若林(宏樹・3年)が1時間1分25秒のすばらしいタイムで走っているし、黒田は自己ベストを連発して調子がいい。他にも塩出(翔太・2年)、荒巻(朋熙・2年)、各学年に核となる選手が2、3人はいるからね。そこに前回の箱根で4区区間2位の太田(蒼生・3年)、8区5位の田中(悠登・3年)を加えると何人になりますか。けっこう戦力は揃っているんですよ」
目先の結果だけにとらわれず、この4月には若手選手5人をアディダスが主催するドイツの国際大会「アディゼロ:ロード トゥ レコーズ 2023」に送り込んだ。太田以外の4人(荒巻、黒田、宇田川、皆渡星七)はまだ2年生で、世界のトップ選手と同じ舞台で走った経験が今後の糧になるのは間違いないだろう。
今の時点で青学大の評判は決して高くないが、原監督はこう言って自信を覗かせる。
「ドイツに行ったのは、将来のエース候補たち。世界との差を痛感してショックは受けたようだけど、もっとやらなきゃいけないと前向きな気持ちで帰ってきてくれました。それとうちにはエース級以外の選手を育てる育成ノウハウもありますからね。今年のルーキーたちは1年から箱根に出られるほどの力はないけど、足の捌きがよかったり、素直さだったり、情熱がある。2年3年と学年を重ねていく過程で、きっといぶし銀の味を出してくれるでしょう。そうやって復路をきちんと走れる選手を育てていくのも大切なんです」
秋の駅伝シーズンまではまだ時間がある。日々のトレーニングや今後の夏合宿などで、チームは大きく成長していくはずだ。
来るべき駅伝シーズンで、再び青学大は主役になれるのだろうか、それともまた引き立て役に回るのか。はたして、今の時点で監督のワクワク度は何%だろう?
「関東インカレで意外とワクワク度は上がったからね。4月の段階では本当に0%だったのが、50、60くらいまで上がってきました。最初に言ったように今は駒澤さんの一強だけど、そこに勝つチャンスのある大学はいくつかある。そのなかでも箱根でチャンスがあるのはうちだと思うね」
柔和な表情になって、こう続ける。
「まあそうは言っても、秋までに一気に戦力が上がるかもしれないし、あの時はああ言ったけどダメだったわってなるかもしれない(笑)。それはわからんけど、そうならないように頑張りますよ」
この笑顔はおそらく、期待の裏返しだ。前々回の箱根王者は、虎視眈々と王座返り咲きを目論んでいる。