神木隆之介さん(2017年撮影)

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2023年度前期のNHK連続テレビ小説「らんまん」では、主人公の槙野万太郎(神木隆之介さん=30)が植物採集を行う様子がたびたび放送されている。それにあわせて、視聴者からは「植物採集」「植物採取」という表現を含むツイートが相次いでいる。J-CASTニュースは識者に見解を聞いた。

「植物採集もあのスーツで出かけてるけど」

ドラマでは、万太郎が地元の高知で横倉山に分け入って多数の植物に出会っていたシーンや、上京後は東京・雑司ヶ谷の牧場でとったというシロツメクサを研究室に持ち込むなど、万太郎の植物研究への旺盛な意欲が描かれている。これらのシーンを見た視聴者からは、

「早朝から夜中まで植物採集してきても、疲れをほぼ見せずに楽しそうなだけの万太郎。充実してるな〜」「マンちゃん、植物採集もあのスーツで出かけてるけど、めちゃくちゃ臭くなってないか?汚れてないか?」「らんまんは植物採集の黎明期を目の当たりにしているようでねもうねわっくわくですよ」

といった万太郎の研究の充実ぶりを喜ぶ声が上がる。

一方、「万太郎、体大丈夫か?毎日朝早く植物採取の後、大学に行って、帰りも植物採取に行って、帰ったら植物の画を描いて、標本作り。睡眠、取ってないんじゃないか」といった「植物採取」という表記のツイートも見られる。

編集部でざっと確認したところでは、「植物採集」の方が「植物採取」よりもツイート数が多いように見受けられたが、果たして、どちらが正しいのだろうか。編集部は『三省堂国語辞典』(三国)の編纂に携わる国語辞典編纂者の飯間浩明氏に意見を求めた。

「私の仕事も、万太郎と同じく『集めること』」

飯間氏は、「らんまん」は毎回見ており、「実は、この問題は私にとって身近なんです」と取材に明かす。

「私の仕事も、万太郎と同じく『集めること』だからです。辞書の仕事では、言葉が実際に使われた例を集める『用例採集』が欠かせません。よく『用例採取』ですか、と言われますが、『採集』と『採取』はやはり違います」

飯間氏は自身が編纂に携わる『三国』第8版の「採取」「採集」の項目を示しつつ説明する。

「『採取』の意味は〈拾いとること。選びとること〉であり、例として『指紋採取・砂金の採取』が挙げられています。一方、『採集』の意味は〈研究や趣味のために、広く集めること〉で、『植物の採集』が例示されています。『植物採集』『昆虫採集』などは、たしかによく耳にしますね」

あわせて飯間氏は、「植物採集」と、自身の仕事の共通性に言及した。

「植物研究にしても、言葉の研究にしても、いろいろな種類をあちこちから集めるという文脈では『採集』を使うことが多いですね。『採集』は集めるところに重点があります。万太郎のモデルとなった牧野富太郎の文章でも、『植物採集法』『実地採集』のように、『採取』より『採集』が多く出てきます。『あれこれ集めてきました』という場合は『採集』がいいでしょう」

ただし、飯間氏は、「植物採集」「植物採取」のどちらか一方が正しいというわけではなく、たくさんある中から一部を取り出す場合は「採取」、広く集める場合は「採集」と考えれば良いとの見解を示した。

「いちめんに咲いている野草の一本を標本用に摘み取る場合などは『採取』でもおかしくないでしょう。牧野の文章にも、ナデシコを採取したと書いている例があります」

(J-CASTニュース編集部 坂下朋永)