読者から届いた素朴なお悩みや何気ない疑問に、人気作『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社刊)の作者・菊池良さんがショートストーリーでお答えします。今回は一体どんな相談が届いているのでしょうか。

 

ここはふしぎなお悩み相談室。この部屋には世界中から悩みや素朴なギモンを書いた手紙が届きます。この部屋に住む“作者”さんは、毎日せっせと手紙に返事を書いています。彼の仕事は手紙に書かれている悩みや素朴なギモンに答えること。あらゆる場所から手紙が届くので、部屋のなかはぱんぱんです。

「早く返事しないと手紙に押しつぶされちゃう!」それが彼の口ぐせです。
相談に答えてくれるなんて、なんていい人なんだって? いえいえ。彼の書く返事はどれも想像力だけで考えたショートストーリーなのです。

さぁ、今日も手紙がやってきましたよ──。

【今回の相談】かばんのなかで、ものをよく失くしてしまう

かばんのなかで、ものをよく失くしてしまいます。入れたはずなのに…とかばんのなかをいくら探しても見つからず、数日後にかばんのなかから出てきたりします。(PN.ふわふわツバメさん)

【作者さんの回答】早朝に突然かかってきた電話が解決する

スマートフォンの着信音で叩き起こされた。

「もしもし」

ふわふわツバメさんは渇いた声で着信に出た。スマートフォンに耳を当てながら、壁にかけられた時計に目をやる。まだ早朝だ。いったいだれからの電話なのだろう。このあと仕事だというのに、平日のこんな時間にかけてくるなんて非常識じゃないのか。

「わたしです。あなたがいつも持ち歩いているボールペンです」

不意をつかれて、答えに詰まった。ボールペン? なにを言っているんだろう?

「あなたがいつもかばんに入れていて、このまえなくしたボールペンですよ」

ああ、そうだった。いつも手帳とボールペンをかばんに突っ込んでいるのだけど、このまえボールペンが見つからなくなって焦ったのだ。しかし、ボールペンが即座に出てこなくなることは以前からもあることで、それはバッグのなかが整理されていないからで、しばらくして探したらあっさりと見つかることはよくあった。

「いま、わたしは海外を旅しています。あなたのかばんを飛び出して、飛行機に乗るひとのかばんに入り込んだのです」

頭がぼんやりとしてくる。眠気だろうか。ああ、そうだ、とふわふわツバメさんは鞄を手繰り寄せて、その中身を確認する。いくら探ってもボールペンは見つからない。あ、80円。いつか自動販売機でジュースを買ったときのお釣りだ。財布にしまうのがめんどうくさくて、かばんにそのまま入れたのだ。

●ボールペンが電話をかけてきた場所は…

「いまは、どこに?」

やっと声が出た。まだ半信半疑だが、ボールペンがないことは間違いない。

「いまはエジプトにいます。あ、これ知ってます? びっくりしたんですけどね、スフィンクスの視線のさきには──」

ああ、知っている。スフィンクスの視線のさきにはファーストフード店があるのだ。定番の雑学だ。テレビ番組でもその話題が出た気がするし、ネットでそういう記事も見た気がする。しかし、ボールペンからは意外な答えが待っていた。

「ふふふ、このつづきはまたこんどにしましょう。つぎの電話までのお楽しみです」

ああ、別に楽しめない。そんな先延ばしにされなくても知っている。ボールペンだから、人間の雑学の知名度を知らないのだろうか。またこんどにされてもたのしみにできない。
ボールペンからの電話は、ぷつっと切れた。

だんだんと、まるで夢から覚めたかのように意識がはっきりしてくる。いまのはなんだったのだろう。ふわふわツバメさんはなにかを確かめるようにスマートフォンを見つめた。
すこし早いが、シャワーを浴びて身支度をすることにした。家を出ると、駅前のコンビニで新しい筆記用具を買う。これで書くものがなくて焦ることはない。あの電話は、そのことを教えるための啓示だったのかもしれない。

ボールペンの電話番号は、電話帳に登録した。毎週月曜日の朝にかかってくる。こんどはラスベガスに行くらしい。

【編集部より】

ボールペンはどうやって電話しているんでしょうか?

かばんのなかでものの迷子を防ぐには、ものの定位置を決めたり、収納用のバッグインバッグを活用したりするといいと思います!

「ふしぎなお悩み相談室」は、毎月第2金曜日に更新予定! あなたも、手紙を出してみませんか? その相談がすてきなショートストーリーになって返ってきます。