星野伸之が評価する、パ・リーグ新人王も期待できる若手ピッチャーたち オリの「新怪物」、西武のクローザー候補も
星野伸之インタビュー 後編
パ・リーグの若手投手について
(中編:山本由伸が今年「捉えられる」理由を星野伸之が分析 リリーフ陣は1、2点差のビハインドで課題も>>)
近年、若手ピッチャーの躍進が際立っているパ・リーグだが、今シーズンも新人王の資格を持ったピッチャーたちがチームの欠かせない戦力として活躍している。長らくオリックスのエースとして活躍し、引退後はオリックスの投手コーチも務めた星野伸之氏に、特に注目している若手のピッチャーについて聞いた。
新人王にも期待がかかる西武の青山美夏人(左)とオリックスの山下舜平大
――星野さんがもっとも注目しているパ・リーグの若手ピッチャーは?
星野伸之(以下:星野) 先ほど(オリックス投手陣について語った中編)は詳しく話せなかったのですが、成績で言えば断トツで山下舜平大(5勝0敗、防御率0.84/6月7日時点、以下同)です。同じオリックスの宇田川優希も、今年はさらなるブレイクを期待していましたが、WBCから帰ってきてからは昨年ほどの状態ではないかなと。
――山下投手は開幕前のキャンプの時点から注目度が高かったですが、ここまでのピッチングを見ていていかがですか?
星野 まず、首脳陣が無理をさせない形で起用していますね。2、3回ほど登録を抹消しながら使っていますし、今は中8日。春季キャンプ中、野茂英雄から教えてもらったフォークはまだ完成はしていない感じですが、真ん中にいってもチェンジアップのような感じで有効です。力強い真っ直ぐがあるので、フォークも生きますね。磨きをかけていってストンと落とせるようになれば、たくさん空振りも取れるでしょう。
まだ余力を残しているピッチングに見えるのですが、それでもバッターを押し込み、チームを勝利に導くピッチングをしています。キャンプで視察した時にも、軽く投げているにもかかわらず150km台中盤の真っ直ぐを投げていて驚かされましたが、やはり末恐ろしいピッチャーだなと思います。
――実戦での真っ直ぐはどう見ていますか?
星野 バッターは高めを打ちづらそうにしています。低めのほうが打たれている印象です。高めの場合は、だいぶホップしているんじゃないかなと。今シーズンは山本由伸が例年に比べるとよくない......と言ったら怒られるかもしれませんが(5勝2敗、防御率1.82)、これまでより少し捉えられている感じがします。
ただ、そういったタイミングで山下のようなピッチャーが台頭してきたり、近年のオリックスは次々にいいピッチャーが出てきています。シーズン後半に山下をどういう登板間隔で回していくのか、フォークがどう進化していくのか。とにかく目が離せません。
――投球の約30%を占めるカーブも、被打率.098となっています。
星野 ブレーキが効いていてコントロールもいいです。真っ直ぐとカーブを軸にして、たまにフォークを投げるというコンビネーションなので球種は少ないですが、真っ直ぐも変化球もしっかり制球できているので勝ち星がついてきている。
無理をさせないように球数を制限していると思いますが、フォアボールが多いピッチャーの場合は4回の途中ぐらいで交代せざるを得ないことも多くなります。ただ、山下はコントロールがいいので球数がそれほど増えず、6、7回は投げられますし、ピッチャーとしてのバランスやコントロールも含めて突出しています。
――他の球団で注目している若手ピッチャーは?
星野 西武のリリーフ、大卒1年目の青山美夏人(みなと/2セーブ、1ホールド、防御率2.70)です。プロ初登板がオリックスとの開幕戦で、1点リードの9回に登場したんですが、森友哉にソロ本塁打を打たれて同点にされ、チームも負けてしまった。プロの洗礼を浴びた形でしたが、それでも翌々日の試合で再び9回に起用されて、今度は3点差を守りきって初セーブを挙げました。
西武のクローザーには実績のある増田達至がいますが、そこで青山を起用したということは、松井稼頭央監督も青山にかなり期待していたんでしょうね。球に力がありますし、スプリットもいいですし、気持ちも強そうな感じ。最近はビハインドの中継ぎで投げるケースが増えていますが、うまくいけばシーズン後半くらいにはクローザーもいけるかな、とも思いますけどね。
ただ、肩を作る回数が多くなっていき、これから暑くなっていくのでさらに疲労が蓄積される。その経験がないルーキーはキツいでしょうから、シーズン後半に勝ちパターンのリリーフでいけるかは、展望が難しい。今シーズンはビハインドの展開を中心に経験を積ませて、勝ちパターンに起用されるのは来シーズン以降になるかもしれません。
――現在は離脱中ですが、やはり大卒1年目のルーキーながら、安定したピッチングを見せていた日本ハムの金村尚真投手はいかがですか?
星野 大谷翔平(エンゼルス)のようにテイクバックがコンパクトで、「いい球を投げるな」と思っていたら、肩の張りで抹消されてしまいましたね(4月19日に出場登録抹消)。真っ直ぐに力がありますし、変化球をうまく操れるピッチャーだと思います。彼が戻ってきたら、好調な日本ハムのピッチャー陣がさらに充実して、チーム力がまたひとつ上がると思います。
あとは、楽天の内星龍(うち・せいりゅう)も力のある球を投げていますね。
――高卒3年目の内投手はここまで18試合に登板し、防御率2.84 、2勝1敗、1ホールド。出だしは安定した投球を続けていましたが、ここ数試合は失点してしまっています。
星野 山本由伸の投球フォームを参考にしているようですが、山本に比べるとちょっと上体が高いかなと。身長が190cmありますし、手を振り下ろす際に上体が下にいけばすごく角度がついてバッターも打ちづらくなると思います。あと、高めの真っ直ぐに力がありますけど、意識して高めを狙って投げているのか、それとも高めにしかいかないのか。僕の目には、まだ完璧には操れていないように見えます。
青山や金村、内もそうですが、今は若くても150km前後の真っ直ぐをコンスタントに投げることが当たり前になっていますね。ウエイトなど、トレーニングに関してはアマチュアもすごく充実してるんだろうなと。
プロでもうワンランク上げていきたいところで、みんな大化けしてもおかしくないポテンシャルを秘めている。でも、コントロールが甘いと打たれます。球速も大事ですが、結局はコントロールなんですよ。
――ピッチャーとしてワンランク上へいくためには、コントロールを磨くべき?
星野 そうですね。特に重要になるのが「高さ」です。先ほど、山下が低めを打たれると言いましたが、低めの真っ直ぐが重要なのは間違いありません。フォークを持っているピッチャーは、特に低めのストライクゾーンを使ったピッチングが必要になるので、いかに低めに投げられるかが重要です。
あと、150km台中盤の真っ直ぐが投げられるからと満足しているピッチャーがいるとすれば、その時点でダメですし、どこかでやられますから。147、8kmでも指にしっかりかかってスピンがかかっていれば、高めの真っ直ぐで十分に勝負できます。
――そういった視点で見た時に注目しているピッチャーはいますか?
星野 7年目の投手ですが、ロッテの種市篤暉です。僕が解説をしていた試合で投げていたのですが、ピンチでも真っ直ぐから入っていったり、真っ直ぐをしっかりアウトローに投げていました。その試合での真っ直ぐの球速は147、8kmくらいで、最速でも150kmぐらいだったと思いますが、ボールへの指のかかり具合とコントロールに、種市の強さがあるんだなと感じました。
プロ入り間もないルーキー、数年目のピッチャーが、周囲に「速い球を見せたい」という気持ちはわかるのですが、プロのバッターは甘くない。アマチュア時代に自信を持っていた球を打たれたり、結果が出なくて抹消されたりを繰り返して「結局はコントロールだよね」というところに落ち着くはずです。なので、それにいつ気づくことができるかが、その後の成長のポイントになるでしょうね。
【プロフィール】
星野伸之(ほしの・のぶゆき)
1983年、旭川工業高校からドラフト5位で阪急ブレーブスに入団。1987年にリーグ1位の6完封を記録して11勝を挙げる活躍。以降1997年まで11年連続で2桁勝利を挙げ、1995年、96年のリーグ制覇にエースとして大きく貢献。2000年にFA権を行使して阪神タイガースに移籍。通算勝利数は176勝、2000三振を奪っている。2002年に現役を引退し、2006年から09年まで阪神の二軍投手コーチを務め、2010年から17年までオリックスで投手コーチを務めた。2018年からは野球解説者などで活躍している。