覚悟もないままに急に関わることになる人も多い「実家の片づけ」。母の入院をきっかけに実家の片づけを体験したライフオーガナイザー・尾花美奈子さんもその一人です。ここでは、手放すのに苦労した着物について教えてもらいました。

実家の片づけ。最後の最後に片づけたのは「受け継ぐか迷う着物」

あき家になっていた実家を売却するために家の中のすべてを片づけることになりました。そのときに手放すのに苦労したのが「タオルやスポンジといったまだ使える日用品」、「ぬいぐるみや写真といった思い出の品」、そして「受け継ぐかどうか迷う着物」の3つ。
今回は最後の「着物」についてです。

【写真】買い取りに出した着物

 

●親の愛情を感じる着物はどうするか。最後の最後まで決断を出せず

今では七五三や成人式、卒業式以外ではあまり着る機会がない着物。実家でもずっとタンスに眠りっぱなしでしたが、今回の片づけの最後の最後でやっと着手しました。

「最後の最後」と言ったのは、じつはその少し前に大型家具や家電をはじめとする家じゅうにあるものを専門業者に回収してもらい、そのときでもまだ着物だけはどうするか決断が出ておらず残してしまったからでした。

なぜそこまで迷ったのか。それはやはり着物に「親の愛情」を感じたからです。

着物用のタンスからすべてを出すと、さまざまな着物、たとえば私の七五三、成人式、卒業式の着物以外に女の子用の着物を見つけました。すっかり忘れていましたが、それは昔お正月に初詣に行くときに着せてもらっていた着物で、自分がいかに親から愛情を受けていたかを感じました。

 

●母は「売る」という意思を。でもそれは本心?

じつは以前、母がまだ生前整理をする元気があった頃に私の娘2人のために着物を残すかどうか話をしたことがあり、そのとき母は「いずれ売る」という意思を示していました。

現代はレンタル着物が充実していることと、わが家に収納場所がないことが理由でした。でもそれは母の気遣いであり本心は受け継いで欲しかったのでは…と考え出したら売る決心がつかず、仏壇と着物しかない状態になるまで引き延ばしてしまいました。

 

●母の意思どおり売る決断を。「未来の暮らし」を最優先

でも「実家の売却」というリミットがあるので決断しなければなりません。そして私の決断は母の言葉どおり「売る」ということでした。その理由は母が「私と娘2人の未来を見ていた」ように思えてきたからです。

・私は着つけができない、今後着つけを習う気もない
・娘2人が着る機会は成人式と大学の卒業式ぐらい
・わが家に着物の収納場所がない
・いずれまた私と娘たちで同じように悩むことがないように

母の性格上、今手放した方が私と娘2人の未来(今後の暮らし)のためになると考えたのでは…と思ったのです。
もちろん母も簡単に「売る」と言ったのではなく、悩んだ末でのことでしょう。葛藤もあったかもしれません。でも母がその上で決めたことならそれを尊重したいと思いました。

●着物の買い取りを依頼。タンスに眠らせず役立つ場へ

着物の買い取りは、インターネットで調べて出てきた大手の業者に決めました。
どこの業者も買い取りには次のような条件がありましたが、私がお願いした業者は買い取り不可となった着物を格安レンタルや劇団の衣装へリユースするなど、新しく役立てる場を探してくれることが大きな理由となりお願いしました。

 

<買い取り対象>
・着物、帯、長襦袢がセットだと金額アップ
・草履は未使用のみ買い取り
・髪飾りなどは「まとめて〇円」で買い取り

 

<買い取り不可(無料引き取り)>
・子どもの着物は買い取り不可
・ウール素材は買い取り不可
・肌襦袢は買い取り不可
・着物の上の羽織物は買い取り不可
・家紋入りも買い取り不可

なお買い取り金はその日の私のお昼と娘たちへのお土産代、その後の誕生日プレゼント代に消えました。
母は臨時収入があるとよく私や娘たちに「このお金でなにか食べに行きな」「なにか買ってあげて」と言う人だったので、これでよかったと思っています。

 

●受け継ぐのはものだけではない。親から子への愛情も

両親がかつて私のために着物を買ってくれた、その愛情を考えると着物を手放すことは心苦しくもありました。
でも両親からの愛情を感じられるのは着物だけではありません。ものに限ったことでもなく、なにかができるようになったという自己の成長や思い出の中にもあるはずです。
それらを日々感じられることに両親に感謝しながら、私もひとりの親として娘たちに引き継いでいけたらと思います。