久保建英はなぜソシエダで輝けたのか チーム年間最優秀選手にも選ばれ「タケはラ・レアルの男になった」
6月4日、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)は本拠地でセビージャと対戦し、2−1と勝利を収め、有終の美を飾っている。それぞれ来季のチャンピオンズリーグ出場権を確保(ラ・レアルはリーグ戦4位、セビージャはヨーロッパリーグ王者)していただけに、勝負にこだわる一戦ではなかったが、強豪同士だけに見応えはあった。最終節にふさわしい内容の試合だったと言えよう。
惜別の一戦としても美しかった。
ラ・レアルのキャプテンのひとりだったMFアシエル・イジャラメンディが、この試合を最後に退団。若いキャプテンであるFWミケル・オヤルサバルに腕章を渡してピッチを出た。背番号4はさらに若いMFマルティン・スビメンディへ引き継がせる。全員がスビエタ(下部組織)出身者だ。
「アシエル(イジャラメンディ)はすばらしい選手で、失うのはつらい。しかし、観客が雰囲気を作り出してくれて感謝している。とてもエモーショナルな別れになった。昨日、彼はスビエタ(育成年代からすべての練習場がある場所を指す名称でもある)を最後に出たという」
イマノル・アルグアシル監督は、イジャラメンディとの別れを惜しんでいる。アルグアシルもスビエタ出身者で、ラ・レアルでプレーした後、スビエタで長く育成年代を指導し、ラ・レアルのトップを率いるようになった。スビエタを中心にしたラ・レアルの強固な絆が、万雷の拍手が降り注ぐ一瞬の光景に現れていた。
この日、22歳の誕生日を迎えた久保建英は、このすばらしい輪の中に迎え入れられたことで、才能を最大限に輝かせたのである。
最終節セビージャ戦に先発、勝利に貢献した久保建英(レアル・ソシエダ)
セビージャ戦も、久保は別格だった。
序盤から明らかに警戒され、削られる場面もあったが、その激しさにつき合わない。左サイドから右足でシンプルにクロスを送り、CKのこぼれ球をエリア外から左足ミドルで狙う。相手をいなすようにしながら右サイドで起点となって、同じ左利きのブライス・メンデスとの連係を高めた。メンデスの動きが鋭く、得点の予感を漂わせていたのを察知していたのか。
【「スーパーな補強選手だった」】
27分、チームは押し込み、ショートカウンターもはまりつつあるなかで、メンデスが先制に成功した。
二桁得点を狙っていた久保も、次第にギアを上げていった。30分、自陣奥深くからドリブルを始めると、右タッチラインで若いDFディエゴ・オルミゴを誘い込み、見事に入れ替わる。トップスピードのなかで瞠目すべき技術精度だった。60メートル以上の爆走で、最後はメンデスにラストパス。シュートは阻まれたが圧巻だった。44分にも、パスを受けるとワンタッチでオルミゴを置き去りにし、格の違いを見せつけた。
「久保は止められない存在だった。10得点目になるゴールこそ決められなかったが、ニアサイドを狙った際どいシュートなど、チャンスを作ったし、若いオルミゴを翻弄。ブライスとのコネクションは銀河系レベルだった。あらためて、スーパーな補強選手だった」
スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』は、久保を絶賛している。
後半、久保はフリーで迎えたシュートシーンで、虚を突いてニアに打ち、わずかに外した。これが最大の決定機だったか。結局、目標にしていた「二桁得点」は達成できていない。
もっとも、試合全体での貢献度は高かった。右サイドの守備では終始、相手に自由を与えていない。また、右からカットインし、横切ることで守備ラインにズレを生み出し、逆サイドのアレクサンダー・セルロートが決定機を迎えるなど、攻撃そのものを動かしていた。
現地ラジオでは、久保がチーム年間最優秀選手に選ばれたという。1年を通じ、彼ほどコンスタントに活躍したアタッカーはチームにいなかった。9得点の9試合全勝というのも華々しい。ゲームMVP受賞回数はチーム最多で、ラ・リーガのベストイレブンにも相当する活躍だ。
忘れそうになるが、そもそもラ・レアルで出場するためには激しい競争がある。71分、久保と交代で出場したモハメド・アリ・ショが鮮やかに追加点を決めたように、高い能力の選手たちが揃っている。ミケル・オヤルサバルが復活し、アンデル・バレネチェアなどスビエタ組が台頭しても主力であり続けることが、どれだけの高いハードルだったか。
もちろん、久保にとってラ・レアルこそ求めていた場所だった。チームがボールプレーを重んじていたのは、大きなアドバンテージだったと言える。コンビネーションを使った攻撃に特徴があったのもあるだろう。ダビド・シルバという助っ人がいたことも、久保の力を開花させた。
ラ・レアルの本質が、"共闘精神"にあることも追い風になった。バスク人特有だが、実直に戦う人間をリスペクトする風土と言えばいいだろうか。他のスペインの地域、たとえばアンダルシアのように、抜け目のなさが尊ばれる環境とは一線を画す。己の持ち場を守りながら、仲間を助けられるか。たとえばスビエタ出身のトップ選手が育成年代の試合を観覧するのは習慣になっており、共闘が義務ではなくDNAに組み込まれているのだ。
「タケはラ・レアルの男になった!」
ラ・レアル関係者の表現が、久保の2022−23シーズンを象徴しているのかもしれない。