ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

――上半期の「マイル王決定戦」GI安田記念(東京・芝1600m)が6月4日に行なわれます。このレースについて、大西さんはどんな印象をお持ちですか。

大西直宏(以下、大西)同じ世代同士で競うクラシックと違って、複数の世代の代表馬が集結。毎回、その世代間の比較がとても難しい一戦だと思っています。

 過去10年の結果を見ても、すんなり決着することが少なく、単勝1倍台の人気馬でもなかなか勝つことができていません。あのアーモンドアイでさえ、2年連続で取りこぼし。完成期にあったモーリスやグランアレグリアも連覇を果たせず、勝ち損ねています。基本的に"波乱含み"という印象が強いレースです。

 近年は4歳馬が比較的好結果を残していますが、過去には3歳馬が勝つこともありましたし、海外からの遠征馬が勝利することもありました。これほど、傾向の偏りが少ないGIもあまりないですよね。

――今年の東京開催は週末に雨が降ることが多かったのですが、今週も台風の影響で天気が崩れる予報が出ています。天気次第で狙い目も変わってきますでしょうか。

大西 過去の安田記念では、雨の競馬で極端に時計がかかることが何度かありましたが、良馬場であれば、1分31秒台の高速決着になることが多いです。もちろん、雨量次第ではありますが、基本的には今の東京コースは路盤がしっかりしているので、多少の雨ではあまり影響はないと見ています。

 また、歴戦の古馬が集結する一戦。どの馬もいろんな条件を経験し、タフな精神力を持ち合わせています。若い頃ほど馬場に注文がつかなくなっているので、あくまでも"東京コースにおけるマイル性能"を重視して考えるべきかな、と思っています。

――今年は目移りするような豪華メンバーがそろいましたが、全体の勢力図をどうご覧になっていますか。

大西 東京・芝1600mでは、シュネルマイスター(牡5歳)とソングライン(牝5歳)が何度か好勝負をしています。2021年のGINHKマイルC、そして昨年の安田記念でもワンツー決着を演じました。

 この2頭がともに休み明けの前走で見事な復活を遂げ、上げ潮ムードでここに挑んできます。前走の走りを見る限り、いずれも完全復調したように感じられるので、その前に海外遠征で大敗したことはもう、気にしなくていいのではないでしょうか。

 そして、この2頭を目安にすれば、ソダシ(牝5歳)やセリフォス(牡4歳)らは差がなく、これら4頭が上位を形成するのかな、と見ています。

 特に、セリフォスは引き続きダミアン・レーン騎手が騎乗し、ソダシの鞍上は川田将雅騎手が務めます。このふたりは、今年のダービーとオークスを制した騎手。今の東京コースで最も信頼できるジョッキーと言え、その点もプラス材料となります。

 その他、別路線からジャックドール(牡5歳)やカフェファラオ(牡6歳)などが参戦。3歳馬もドルチェモア(牡3歳)とシャンパンカラー(牡3歳)といった2頭のGIホースが挑戦してきました。ただこれらは、個人的にはあくまでも伏兵候補といった位置づけで考えています。

――では最後に、大西さんが気になる穴馬について教えてください。

大西 気になる馬が、2頭います。まずは、初のマイル戦となったGIIマイラーズC(4月23日/京都・芝1600m)で2着と好走したガイアフォース(牡4歳)です。フットワークの大きい走法から、スピード競馬のマイル戦には適性面で疑いを持っていたのですが、僕の予想を大きく裏切りました。

 1分31秒5という速い決着にも難なく対応し、上がり33秒2という末脚を繰り出して勝ち馬にクビ差に迫った内容は高く評価できます。これは、フロックと受け止めず、マイル適性が高かったと判断したいですね。


安田記念での勝ち負けが期待されるイルーシヴパンサー

 もう1頭は、イルーシヴパンサー(牡5歳)です。昨年の安田記念で1番人気に推されたように、東京コースの適性が高い馬。当時はスローの展開と後ろすぎる位置取りで脚を余す格好で8着に敗れましたが、経験を積んで「来年にはまた、チャンスがあるだろう」と思っていました。

 実際、今年の年明けにGIII京都金杯(1月5日/中京・芝1600m)を快勝。重賞2勝目を挙げて賞金加算に成功しました。そこで、ハンデ58kgを克服したこと、さらにいつもより前目のポジションで運べたことに成長を感じました。

 前走のGII中山記念(8着。2月26日/中山・芝1800m)でも、コーナー4つの慣れないレースながら、こちらも好位のインでこれまでにない立ち回りを披露。直線もインから抜け出す構えを見せました。最後は前が詰まってまったく追えない形でゴールとなりましたが、スペースさえあれば、勝ち負けに加わっていたと思います。

 この2戦の内容から、1年経っての成長は十分にうかがうことができました。今なら、安田記念でも上位に食い込める可能性は大いにあるでしょう。

 ガイアフォースとイルーシヴパンサー、どちらも面白い存在ですが、より人気がないであろうイルーシヴパンサーを今回の「ヒモ穴馬」に指名したいと思います。