わが子が褒められたのに… 親の「謙遜」が子どもの自己肯定感を下げる“ワケ”
子育て本著者・講演家として活動する私は長年、幼児教室で講師をしていました。当時、保護者の送迎時には必ず、お子さんが成長したことを伝えるようにしていました。全ての保護者がそうとは限りませんが、私は半分以上の保護者が、わが子の行動に対してへりくだっていたと感じています。
「評価してもらってうれしい」はずなのに…
例えば、次のような「へりくだり」がよく聞かれました。
私「◯◯君はきちんと整理整頓ができていますね。素晴らしいです」
保護者「そうなんですか。家では散らかし放題なんですよ(笑)」
私「◯◯君は友達に優しくできますね」
保護者「えー、そうなんですか。家では兄弟げんかばっかりしているんですよ」
私「授業終了後、私のお手伝いをしてくれるんですよ」
保護者「えー、えー、えー、そうなんですか。家ではゲームばっかりして、お手伝いなんか全然してくれないんですよ(笑)」
せっかく子どもの前で褒めたのに、なぜかそれを否定する人がとても多かったです。保護者は、心の中では「わが子を評価してもらってうれしい」と感じているのだと思いますが、「親バカだと思われたくない」と思っているのか、子どもの前で素直に喜べない様子でした。
「そうなんですか。ありがとうございます。うれしいです」と言う人はほとんどいませんでした。そして、否定された子どもがとても悲しい顔をしていたのを覚えています。
教室には、アメリカで育ったという保護者がいましたが、その人だけは素直に「ありがとうございます。家でもよく手伝ってくれます」と答えていました。
日本には「謙遜の美徳」という文化が深く根付いており、謙譲語という言葉もあります。自分をおとしめること、へりくだることによって相手を敬う文化です。
他の家にお邪魔するときなど、「つまらないものですけど、お口に合いますでしょうか」と言って手土産を渡すことがあります。渡された手土産に「粗品」と書いてある場合もあります。でも、開けてみると有名な老舗のようかんで、「老舗に対して悪いじゃないか」と思います。そもそも字面通り捉えると、「つまらないものを持っていく」のは相手に失礼なことなのではないでしょうか。
また、「そのバッグ、すてきですね」と言われて、「いえいえ、安物なんですよ」と返したら、相手は「私に見る目がないってこと?」と感じているかもしれません。
日本の子どもは「自己肯定感が低い」?
自分を褒めてもらったとき、つい、うそをついてしまう人もいます。
「スレンダーですね」「何か秘訣(ひけつ)はあるんですか」と言われて、実はエステに通っているのに、「しっかり栄養を取って、睡眠を取っているだけですよ」。
「お肌がきれいですね。秘訣はあるんですか」と聞かれて、本当は美容皮膚科に行っているのに、「特に何もしていませんよ。そんなにきれいじゃないですよ」。
努力をしていることを隠したいのかもしれません。でも、相手は秘訣を聞きたいので、ちゃんと真実を伝えた方が正直な人だと思われますし、かえってよいことなのではないでしょうか。
相手の前で謙遜するとき、自分自身のことについてはいいのですが、わが子のことでへりくだるのはやめた方がよいと思います。どうしてかというと、まだ人生経験の短い子どもは、その文化が分からないからです。せっかく他人が褒めてくれたのに、一番褒めてほしい親から否定されたら悲しいですし、「本当に自分はダメな人間だ」と思ってしまいかねないからです。
ママ友の子に対して、「◯◯君は本当に落ち着きがないわね。だらしがないわよね」とは絶対に言いません。他人の子どもだからです。でも、自分の子どもだって、自分とは違う一人の人間です。もっと気持ちを大切にしてあげましょう。
日本、アメリカ、中国、韓国の高校生を対象に行われた「高校生の心と体の健康に関する意識調査」(国立青少年教育振興機構、2017年度)によると、「自己評価」について、「私は価値のある人間だと思う」と回答した割合は、日本が44.9%だったのに対し、アメリカが83.8%、中国が80.2%、韓国が83.7%となっており、日本の子どもの“自己肯定感の低さ”が浮き彫りとなっています。何だか悲しい結果ですね。謙遜の文化を子どもに使うのが、その一因かもしれません。
「自分自身には価値がある」「自分が好き」でいられることは、困難を切り開いていくための大きな力、財産になります。他人が評価してくれているのに、それを親が否定するなんて、もったいないことはしないようにした方がよいと思います。
皆さんはどうお感じになりますか。