「円満離婚」は実在する? 「円満」の裏に潜む、夫婦それぞれの“本当の気持ち”
「夫婦円満」という言葉はありますが、「円満離婚」とは一体どういうことを意味する言葉なのでしょう。推測するに、泥沼のけんか別れや裁判に持ち込む愛憎劇ではなく、2人が納得いく形で、握手で別れるということでしょうか。
辞書などで「円満」という言葉を調べると、物事の様子や人柄などが、調和がとれて穏やかなこと。また、そのさま…と説明されています。果たして、調和が取れていて穏やかな離婚は存在するのでしょうか。「恋人・夫婦仲相談所」所長の筆者が聞いた実例とともに見ていきたいと思います。
離婚を決めてから夫との仲が深まった妻
「3年間、まともに口を利いていませんでした」
そう話すのは亜希子さん(38歳、仮名)。7年前に、会社の同僚だった聡さん(40歳、同)と結婚し、6歳の娘さんがいます。
「子どもが生まれてから、彼のことがどんどん嫌になってしまったんです。産後すぐから体を求めてくるくせに、育児は全くしない。不思議なくらい娘にも無関心。言われた家事は一応やりますが、それも言われない限りやらない。家族に気遣いがない冷たい態度にうんざりして、口を利くのも嫌になって。あいさつと、子どもの行事ごとの連絡のみになってしまいました。娘もそれほど懐いていません」
この状態で夫婦関係を続けるのは無理だと決断した亜希子さんは、「娘が小学校を卒業したら離婚したい」と聡さんに話します。
「小学校の間は親が関わる行事も多いですし、父親がいた方がいいと思うので小学校卒業までは夫婦でいて、娘の卒業と同時に夫婦関係も卒業したいと言いました。彼は、離婚したいほど自分のことが嫌になっていたのかと驚いていました。私が文句を言っている態度で分からなかったのかと、逆にその鈍感さにビックリしました」
離婚せずにどうにか結婚生活を続けたいと申し出た聡さんですが、亜希子さんの意志が固いことを感じ、離婚を受け入れます。そして、同じ職場の亜希子さんと離婚後も一緒に働くのはつらいからと、転職活動をスタートさせたそうです。
「離婚すると決まってから、かえって夫婦関係はよくなったと思います。お互いの離婚後の生活のために、保険をどうするか、養育費をどうするかなどの会話が増えました。ここに来て夫婦らしい話し合いが初めてできたんです。
6年後に円満に離婚するための準備期間の中で、もしかしたら『離婚しない』という選択をするかもしれませんが、今はいい形の離婚へ向けて、協力して準備をしています」
妻が離婚を突きつけたら…夫がまさかの反応
「養育費もしっかり確保しましたし、慰謝料ももらって言うことなしです。円満離婚って言っていいですかね」とほほ笑みながら報告してくださったのは洋子さん(43歳、仮名)。洋子さんはスマホで夫の英介さん(42歳、同)の不倫を知ってから、ひそかに離婚準備をスタートさせていました。
「もともと5年ほど仮面夫婦状態。離婚してもいいかなと思っていました。ただ、子どもが2人いて教育にお金がかかるので、離婚に踏み切れなかったんです。そこに来て彼の不倫を知ったので、ラッキーでした。渡りに船。こっそり離婚に強い弁護士に相談して、養育費や慰謝料を取るために不倫の証拠集めなど、準備を進めました。
私もずっと正社員で仕事をしているので、養育費を確保して慰謝料があれば、生活に困ることはありません。子どもたちの教育費も賄えるだろうと思いました。半年かけて証拠を固めて、全て準備をして、夫に離婚届と一緒に渡したんです。
そしたら、夫は不倫相手から結婚を迫られていたそうで、離婚を受け入れたんですよ。こちらは『ええ!? 何だそれ!』ですよ。ショックを与えようと思っていたので、かなり複雑な心境になりました。ただ、条件をほぼ受け入れてくれたので計画通りです」
「円満離婚」というワードから見えてきたものは、積極的に離婚に向けて動き、自分の意志で離婚を決めた女性たちの姿でした。自分が望むゴールを手に入れることができた、もしくはできそうな彼女たちはとても幸せそうで、「円満離婚と言ってよし」と話してくれました。
しかし、夫側が果たしてどう思っているのかは分かりません。「反省したのに許してもらえない」と恨んでいるかもしれないし、「これまでの結婚生活は何だったんだ」と切ない気持ちになっているかもしれません。「子どもと離れるのは俺か」という悔しい気持ちもあるでしょう。したたかな妻に「円満離婚」と言われて、傷つくかもしれません。
離婚劇は、どちらかが発端で始まりますが、片方だけが100%否があることは少ないと感じます。1例目の聡さんは、もっと早く妻からの指摘があれば態度を改めた可能性があったかもしれません。2例目の英介さんは、「仮面夫婦になった原因は妻にある」と大きな不満を持っていたかもしれません。もちろん浮気はダメですが、浮気に至るまで、なぜ妻と話し合いができなかったかは深掘りする必要があります。
事実にはさまざまな角度があり、個々の認識には違いがあるもの。彼女たちの夫に話を聞くことができればいいのですが。そしたら、もしかすると“円満”どころか、“泥沼”だという話になるかもしれないのです。円満離婚と泥沼離婚…捉え方は各夫婦によって全く違うと思います。
それぞれが思う真実が、それぞれの真実であるということは間違いないでしょう。「円満離婚するくらいなら結婚するな」という声も聞こえてきますが、そうはいかない不可思議なものが恋愛と結婚です。
厚生労働省の「人口動態統計」によれば、2021年の離婚件数は18万4384組。その全てが“泥沼愛憎劇”ではないということです。