DeNAが昨年の2位に続き、今季も上位争いを繰り広げている。投手陣は東克樹、平良拳太郎が復活し、攻撃陣では宮粼敏郎が異次元のバッティングでチームを牽引。またサイ・ヤング賞投手のトレバー・バウアーを獲得するなど、優勝への機運は高まっている。12球団でもっとも優勝から遠ざかっているDeNAの優勝はあるのか。1998年に左腕エースとして日本一に貢献した野村弘樹氏に、今シーズンのベイスターズを分析してもらった。


4月30日の中日戦で1810日ぶりに完封勝利を挙げたDeNA・東克樹

【厚みのある先発投手陣】

── 開幕4連敗のスタートでしたが、そこから巻き返して一時は首位に立ちました。今シーズンのここまでの戦いをどう評価していますか。

野村 まず好調の一番の要因は、先発投手陣の充実です。近年、開幕時に先発ローテーション投手の頭数が揃うことがなかった。今季も結果的に今永昇太がWBCに出場した影響で初登板が4月21日の広島戦、大貫晋一も右肩の肉離れで初登板が4月22日の広島戦とずれ込みました。

 そんななか、最初は石田健大からロバート・ガゼルマン、笠原祥太郎、茺口遥大、平良拳太郎、東克樹で回し、開幕4連敗こそしましたが、そこから5連勝して巻き返しました。平良と東が出てきたのは大きかったですね。そこに実績のある今永と大貫が加わり、より厚みが増しました。

── 今年も本拠地では強い戦いを見せています。

野村 昨年、横浜スタジアムでは41勝30敗1分(勝率.577)と大きく勝ち越しましたが、今年も5月17日現在、12勝4敗。相変わらず横浜スタジアムでは圧倒的な勝率を誇っています。

── トレバー・バウアーをはじめ、そのほかの先発投手に関してはいかがですか。

野村 バウアーのピッチングは、イースタンをはじめ、一軍の試合でも見ました。一軍お披露目となった5月3日の広島戦は、7回を7安打9奪三振1失点で勝利を収めました。しかし、その後は大量失点で連続OK。正直、彼の投球が"本物"なのかどうかわかりません。1年半ほど実戦から遠ざかっていた影響なのか、すべての球が高いのです。ストレートに関しては、意識的に高めに投げて空振りやファウルを狙っているのでしょう。ただ、変化球が高めに浮くと打たれます。WBCでも証明しましたが、日本の打者はやはり優秀ですよ。

 ほかには、茺口が少々苦しんでいますが、東、石田、ガゼルマンらが試合をつくり、勝ち星を積み重ねています。とはいえ、シーズンを通しての軸はやはり今永になるでしょう。今永がどれだけ貯金をつくれるか。そこがポイントになると思います。

── リリーフ陣についてはどうですか。

野村 抑えの山粼康晃がここまで15試合(5月16日時点)に登板して0勝3敗9セーブ、防御率5.93というのが少し気になります。しかし、昨年3年ぶりに30セーブ以上を記録し、チームも2位に浮上しました。チームの浮沈のカギを握るのは山粼ですし、彼に頑張ってもらわないと困ります。山粼のほかには、右の入江大生、伊勢大夢、左のエドウィン・エスコバーは確立していて、左の石川達也も出てきた。中継ぎの層は厚いと思います。

【佐野恵太の1番起用は大ヒット】

── 打線は、首位打者経験のある宮粼敏郎選手をはじめ、佐野恵太選手、牧秀悟選手と好打者が揃っています。

野村 今季の打線のポイントは「1番・佐野」でしょう。この1、2年、クリーンアップを打っていた佐野を1番にした時は、正直「どうなのかな......」と疑問視していました。裏を返せば、1、2番の適任者がいなかった。そうした背景もあり、昨年最多安打のタイトルを獲り、3年連続3割の佐野を1番にしたのでしょう。これが見事にハマりました。

 佐野はツボにくれば軽々とスタンドインできる長打力もありますので、投手からすれば試合開始で佐野を迎えるのは嫌ですよね。もう少し盗塁ができればいいのですが......関根大気あたりが1番を打てるようになれば、もっと攻撃の幅が広がると思います。

── チーム打率はリーグトップと往年の"マシンガン打線"を彷彿とさせますが、攻撃陣で気になるところはありますか。

野村 外国人打者ですね。タイラー・オースティンは昨年秋にヒジの手術を受けて、まだ復帰していません。ネフタリ・ソトは2018年、19年と40本塁打以上をマークし、昨年も17本塁打を放っていますが、今季はボール球に手を出しているのが目立ちます。

【昨年2位で優勝に現実味】

── 長年、固定できていないショートとキャッチャーのポジション争いに関してはいかがですか。

野村 ショートは、中日から京田陽太が加入したのは大きいですね。そこに大和、森敬斗、柴田竜拓、ルーキーの林琢真と、激しい競争が繰り広げられています。ライバルがいるのはいいことだと思いますし、それぞれ個性がありますのでいろんな起用が考えられます。

 捕手は嶺井博希がソフトバンクに移籍しましたが、今季は戸柱恭孝、伊藤光、山本祐大の3人が先発投手によって交代でマスクをかぶっています。今の時代、併用のほうが配球などの傾向は出にくくなり、個人的にはいいと思います。ひとりの捕手で長いシーズンを乗りきるのは大変ですから。

── 地味ですが、昨年DeNAの失策数64はリーグ最少で、守備率.988はリーグトップタイです。

野村 センター・桑原将志の守備範囲は広いですが、それ以外の選手はうまいというより堅実です。日本一に輝いた98年は"マシンガン打線"が注目されましたが、じつは捕手と内野手4人がゴールデングラブ賞に輝くなど、守備もよかった。決して打つだけのチームではありませんでした。

── DeNAは1998年を最後に12球団でもっとも優勝から遠ざかっているチームです。

野村 毎年「目標は優勝だ」と言っていますが、正直なところ現実味はなかったと思います。それが昨年2位になったことで、実感がわいてきたんじゃないでしょうか。私たちもそうでした。91年から6年連続Bクラス。それが97年に2位になったことで、翌年の優勝につながりました。「オレたちだってやれるぞ!」と。当時のメンバーが、今はコーチになっているもの強みです。

 今後については、夏場以降にいくつかのヤマがあると思います。昨年は8月26日からのヤクルトとの3連戦で、強いはずの本拠地で3連敗を喫しました。今季は投で今永、打では佐野、牧が中心となってヤマを乗り越えていってほしいですね。今年、解説の仕事を始めて14年目になるのですが、順位予想で初めて1位をDeNAにしました。「今年やらなかったら、いつやるんだ!」という強い気持ちで臨んでほしいですね。