清水直行が分析する好調ロッテの投手陣 「クローザー固定」が理想、キーマンは「7回を頑張っているピッチャー」
清水直行が語る好調ロッテ 中編
投手陣について
(佐々木朗希編:今季の佐々木は「異次元」 WBCで人間的に成長したと指摘も、指のマメは「苦労するかも」>>)
19勝14敗1分け(5月16日時点。成績は以下同)でリーグ2位のロッテ。シーズンはまだ序盤だが、開幕前の厳しい下馬評を覆す躍進を見せている。
その主な要因と考えられるのは、先発をはじめ安定感を見せている投手陣。元ロッテのエース・清水直行氏に、前編の佐々木朗希に続いてロッテのピッチャー陣について聞いた。
レッドソックスからロッテに復帰した澤村
【絶対的なクローザーはいない】
――ロッテが好調な要因は、やはりピッチャー陣の活躍が大きい?
清水直行(以下:清水) それは間違いないです。佐々木朗希は特別なので先に(前編で)話しましたが、先発ピッチャーで試合を壊してしまったことがあったのは、今のところ美馬学、森遼大朗くらいじゃないですかね。
(C.C.)メルセデスは(5月14日の)エスコンフィールドでの日本ハム戦で1勝目を挙げましたが、これまでも安定したピッチングは続けてくれていたので、チームとしての評価は高かったと思います。その試合は、エラーが続いた場面がありましたが、野手もよく守っていると思います(チーム失策数はリーグ最少タイの10個)。
リリーフ陣はいろいろとやりくりしていますが、ある程度固まってきたのかなと。ただ、澤村拓一や益田直也には少し不安がありますし、今のブルペンは「なんとか持ちこたえている」という感じです。決していい状態とは思いません。
――そう思われる理由は?
清水 8回、9回の安定感はそこまで高くないです。それでも、益田は昨シーズンに比べて真っ直ぐの軌道がよくなりました。一方で澤村に関しては、今のところはあまり計算できないという感覚です。
ただ、(ルイス・)ペルドモや西村天裕、坂本光士郎が頑張ってくれています。一番の問題は7回だったと思うんです。少し前であれば、東條大樹、佐々木千隼、国吉佑樹もいた7回を、なんとかペルドモたちがやってくれている。7回を投げるピッチャーが踏ん張っていることが、先発ピッチャーに勝ちがついている要因でもあります。
――リリーフ陣の起用法はどう見ていますか? 今シーズンはクローザーを固定せず、澤村投手と益田投手を臨機応変に起用しています。
清水 絶対的なクローザーがいないからだと思います。いれば9回を固定して、7回と8回は状況に合わせて、という形になるのかなと。ただ現状では、吉井理人監督にとって絶対的なクローザーは、澤村でもないし、益田でもないし、ペルドモもでもないということでしょう。吉井監督の信頼を勝ち得るところまでいってないから、現状はその形なんだと思います。
――最終回は投手を固定するのが理想ですか?
清水 そうですね。やはり、"試合を終わらせるピッチャー"は替えがききません。7、8回は相手チームの打順に合わせて、登板させる順番を変える選択肢がありますが、クローザーは全然違います。
――東妻勇輔投手はまだ2試合の登板ですが、最初のソフトバンク戦で好投し、次の西武戦では3者連続三振を奪うなど今後に期待ができるピッチングを見せています。
清水 しばらく一軍から離れてしまっているので、すごく危機感を抱きながらやっているなと。佐々木千隼や国吉らのほか、小野郁も計算できなくなってきた今、東妻には「割って入ってやろう」という意気込みを感じます。課題はボールが先行することなのですが、今季はストライク先行で勝負できるようになっていますね。
――先発ピッチャー陣についてお聞きしますが、以前から清水さんが「ロッテのエースにならなければいけない」と言われている種市篤暉投手はいかがですか?
清水 トミー・ジョン手術を経て、今シーズンから先発ローテーションに復帰していますが、よく投げていると思います。いい部分でもあり課題でもあるのは、「三振に対してのこだわり」が強いことです。三振を獲りにいくので球数がどうしても増えてしまう。間近で佐々木朗希の奪三振も見ていますし、かなり刺激も受けているはずです。
彼はもともと完投能力があるピッチャーです。現在ローテーションに入っているので、徐々に「チームを勝たせる、長いイニングを投げる」という意識改革が進んでいけばいいなと。まだ成長段階ですし、彼のピッチングスタイルが完成したとは思っていません。先日マリンスタジアムで会いましたが、いい顔をしていましたし、責任感も増してきたような感じがしました。
――昨シーズンは勝ち星に恵まれなかった、小島和哉投手はどうですか?今シーズンは6試合に登板し3勝(1敗)。すでに昨シーズンの勝ち星に並びました。
清水 いいですね。開幕戦とその次の登板を見た時は、あんまり昨シーズンと変わらない印象でしたが、3回目の登板ぐらいから変わってきたなと。
――どんなところが変わってきた?
清水 個人的な考えなのですが、ピッチャーが苦しい時に最後どうするかといえば、「えいやっ」なんです。つまり、「打てるもんなら打ってみろ」という気持ちが大事だということ。これまでの小島には、それがあまり感じられなかった。苦しくなったら、最後はボール球で勝負していたからです。
開幕戦とその次の登板を見た時、「今年もそういうピッチングをまたするのか......」と見ていたのですが、3回目の登板あたりからけっこう攻めるようになって。ボールのスピンであったり、「これならファウルを取れる」「真っ直ぐで押し込める」といった感覚は以前より増しているはずです。
困ったら最後は「ストライクで勝負しちゃえ」という域に入ってきて、ちょっと臆病だったピッチングが克服されてきました。なので、これからが楽しみだなと。勝ち負けの数ではなく、"ピッチャーとしての成長"の階段を1段上がったと思います。
――ピッチングの組み立ての面ですが、昨シーズンよりツーシーム系のボールが増えているように感じます。
清水 右バッターに対しての外角の球が効いてますね。今まで右バッターに対してはチェンジアップと内角を突くスライダー、加えて外角のコントロールだったのですが、そこにツーシーム系のボールを加えることで右バッターに対しての苦手意識がなくなってきたんじゃないかと。相手もツーシーム系のボールがあることで狙いを絞りにくくなりますし、嫌でしょうね。
――今シーズンはここまで3試合に先発し、プロ初勝利を挙げた森遼大朗投手はいかがですか?
清水 森に必要なのは経験です。シーズンを通じて一軍で投げる経験や、相手チームの1巡目を抑えた後に2巡目をどう抑えていくか、連打を食らった時にどうやって間をとるか、どうすれば最少失点で切り抜けられるのか、といったことが必要なのですが、それは経験しないと身につきません。
投げる能力はあるので、経験を積んでそういったことができるようになれば、ピッチャーとして次のステージに行けると思います。僕の投球フォームに似ていると言われたりもしているようですが、僕はあまり似ているとは思いません(笑)。足を上げた時のグラブの高さや、そこからグラブを下ろしていく動作のちょっとした部分は似ているかもしれませんが。
――先発もリリーフも含めたピッチャー陣の今後のキーマンを挙げるとすれば?
清水 冒頭でも触れたように、佐々木朗希は特別なので置いといて、やはり7回を頑張って投げてくれているピッチャーたち。特にペルドモです。今は彼の頑張りがかなり効いているので、ここが崩れてしまうとけっこうしんどくなるでしょう。
(吉井監督&野手編:吉井理人監督の選手起用法バレンタインに「非常に似ている」 吉井スタイルの特徴>>)
【プロフィール】
清水直行(しみず・なおゆき)
1975年11月24日に京都府京都市に生まれ、兵庫県西宮市で育つ。社会人・東芝府中から、1999年のドラフトで逆指名によりロッテに入団。長く先発ローテーションの核として活躍した。日本代表としては2004年のアテネ五輪で銅メダルを獲得し、2006年の第1回WBC(ワールド・ベースボールクラシック)の優勝に貢献。2009年にトレードでDeNAに移籍し、2014年に現役を引退。通算成績は294試合登板105勝100敗。引退後はニュージーランドで野球連盟のGM補佐、ジュニア代表チームの監督を務めたほか、2019年には沖縄初のプロ球団「琉球ブルーオーシャンズ」の初代監督に就任した。