今季の佐々木朗希は「異次元」 ロッテOB清水直行は「WBCで人間的に成長した」と指摘も、指のマメは「苦労するかも」
清水直行が語る好調ロッテ 前編
佐々木朗希について
昨シーズンにも増して圧倒的なピッチングを続けているロッテの佐々木朗希。マウンド上でもさらに風格が漂ってきたが、5月5日のソフトバンク戦はマメの影響もあって5回89球で降板し、次回登板も様子見となっている。
そんな今季の佐々木の状態や課題について、長らくロッテで活躍し、2018年、2019年にはロッテの投手コーチも務めた清水直行氏に語ってもらった。
ここまで3勝も、指のマメの状態が気になるロッテの佐々木
――ここまで佐々木投手は、5試合に登板して3勝0敗。防御率0.84、奪三振率14.06、被打率.124など圧倒的な数字を残していますね。
清水直行(以下:清水) 2つのことが自信につながっていると見ています。まずひとつは、昨シーズンにある程度やれた(9勝4敗)こと。もうひとつは、WBCで大事な試合(準決勝のメキシコ戦)で先発したこと。メンタル面もそうですし、いろいろな刺激をもらってピッチングを楽しむことも覚えたような気がしますし、立ち振る舞いからも自信がみなぎっているように見えます。
――投球フォームを含む、技術的な部分での違いは感じますか?
清水 特には変わっていないですね。ただ、今までやってきたことがしっかりと形になってきたことと、いい意味でコントロールをあまり気にしなくなったのかなと。おそらく昨シーズンまでは「しっかり投げなきゃいけない」と細かいコントロールを気にしていた部分があったと思いますが、大胆さが増している感じがします。
――昨シーズンはスライダーの割合は投球全体の約6%でしたが、今シーズンは約14%に増えています。スライダーはどう見ていますか?
清水 スライダーはヒジに一番負担がかかってくる球種ですから、これまでは球数を少なくしていたと思うんです。今は耐えられる体になってきたんでしょうし、そういった部分も含めてダルビッシュ有(パドレス)や大谷翔平(エンゼルス)など、日本代表のメンバーにコツを聞いたんだと思います。
ヒジに負担をかけないリリースの仕方、ボールの握り方......あと、ダルビッシュも大谷もトミー・ジョン手術(ヒジの側副靱帯再建手術)の経験があるので、ケガを防止するための投げ方、ケガをした後のピッチングの感覚も聞けたのかもしれません。
そうしたアドバイスを取り入れ、「この感じだったら投げても大丈夫なんだ」ということを自分の中で検証できたんじゃないですか。それでスライダーが増えていると思います。
――調整を早めたことや疲れなど、WBCに参加したことでのマイナスな影響は感じますか?
清水 それは感じませんね。ただ、これから5月、6月と湿度が高くなってくるとマメができやすくなります。(5月5日の)ソフトバンク戦はマメの影響で降板しましたが、そこは少し苦労するかもしれません。
現役時代、吉井理人監督も黒木和宏投手コーチも「マメはできなかった」と言っていましたが、僕はすごくできるほうなので、その時の苦労がわかるんです。登板間隔が空けば空くほどマメは薄くなっていくので、ある程度は硬い状態のほうがいいんですけど、ふやけることもある。
マメのでき方もいろいろで、すぐにパーンッと血豆みたいにできる人もいれば、固まった状態で、皮膚が違う皮膚を押す形でできる人もいたり......。みんなが一緒とは思いませんが、それは彼も「なぜ、できるんだろう」と勉強中だと思います。マリンスタジアムは海沿いなので、湿気がある風がたくさん入ってきますし、特に5月、6月はマメができやすいんじゃないかなと。
――今シーズン、特によかった登板を挙げるとすれば?
清水 すべての試合で安定していますよね。特に前回(5月5日のソフトバンク戦)は89球で5回12奪三振と、とんでもなくよかったですね。真っ直ぐ、フォーク、スライダーも思い通りに操れていましたし、異次元のピッチングでした。相当レベルの高いピッチングをしているので、本人が「今日はちょっとよくないな」という日が実感としてあったとしても、周囲にはわからないレベルだと思います。
――ピッチングの組み立てはいかがですか?
清水 組み立てはあまり変わっていません。どのチーム、どのバッターが相手でも、3球勝負、4球勝負ができていて、球数は6回を投げて80球程度を概ねクリアできています。そういう意味では、もう"佐々木朗希のピッチング"は確立されてきましたよね。
【人間的な部分でも成長】
――昨シーズンは松川虎生選手とバッテリーを組むことが多かったですが、今シーズンはその松川選手がファーム。2回目の登板以降は佐藤都志也選手と組んでいます。
清水 2人でうまくコミュニケーションをとってやっていますね。そういう意味でも佐々木は器用なんです。さらなる高みを目指していると思いますし、誰とバッテリーを組むかはチームの方針であって、彼はキャッチャーが誰であっても自分のピッチングに徹しているように見えます。
――マウンド上、ベンチでもそうですが、昨シーズンよりも喜怒哀楽が前面に出ているように感じます。
清水 そうですね。僕も2006年のWBCに出た時はそうでしたが、やはり日本代表に入ると、トッププレーヤーからの影響をかなり受けます。特に今回は大谷のような世界でもトップの選手がいたわけで、いい影響を受けたと思います。いろいろなことを学び、その中から自分に合いそうなものを取り入れていると思いますが、もしかしたら今まで自分で抑えていたものを「解放してもいいんだ」と思ったのかもしれません。
今までは「まだ若いから」と遠慮していたことを解放し始めていて、それがリラックスやチームメイトらとのコミュニケーションにつながっているんじゃないですかね。アスリート以外の人間的な部分での成長も感じます。
――現時点での課題を挙げるとすれば?
清水 先発ピッチャーとして成長していく上で求められることは、「シーズンで何試合投げられるのか?」ということ。それが、信頼にもつながるんです。ローテーションで1年間投げて規定投球回に到達すれば、多くのタイトルを手にできる力があると思います。まずはシーズンを投げきる体力ですね。
まだ21歳ですが、長い目で見ればピッチャーが旬を迎えるのは20代中盤から後半にかけての時期です。その頃に最大のパフォーマンスができるように、という意味も含めての課題ですね。
(他の投手編:「クローザー固定」が理想、キーマンは「7回を頑張っているピッチャー」>>)
【プロフィール】
清水直行(しみず・なおゆき)
1975年11月24日に京都府京都市に生まれ、兵庫県西宮市で育つ。社会人・東芝府中から、1999年のドラフトで逆指名によりロッテに入団。長く先発ローテーションの核として活躍した。日本代表としては2004年のアテネ五輪で銅メダルを獲得し、2006年の第1回WBC(ワールド・ベースボールクラシック)の優勝に貢献。2009年にトレードでDeNAに移籍し、2014年に現役を引退。通算成績は294試合登板105勝100敗。引退後はニュージーランドで野球連盟のGM補佐、ジュニア代表チームの監督を務めたほか、2019年には沖縄初のプロ球団「琉球ブルーオーシャンズ」の初代監督に就任した。