重症化しやすい喉の病気を紹介。キスで感染するものもあります(写真:motortion/PIXTA)

「たかが、喉の痛み。すぐによくなるだろう」と放置していたら、あれよという間に悪化し、激痛や高熱で会社を休むはめになった……。実は、喉の痛みではこんな怖いことが起こりかねない。
扁桃炎が重症化して起こる「扁桃周囲炎」「扁桃周囲膿瘍(のうよう)」や、キスによる唾液感染で起こる「伝染性単核球症」などがその例だ。どのような病気なのか。藤田医科大学岡崎医療センター耳鼻咽喉科医師の櫻井一生さんに聞いた。

口を「あーん」と大きく開けて鏡を見ると、のどちんこ(口蓋垂:こうがいすい)の両脇にコブのようなものが見える。これが扁桃(扁桃腺)だ。

「正式には口蓋扁桃といって、喉にあるリンパ組織の1つです。ウイルスや細菌などが侵入しないよう防御する役割を担っています。この扁桃に細菌が感染して炎症が起こり、赤く腫れるものが扁桃炎です」と櫻井さん。

扁桃炎は激しい痛みが特徴

扁桃炎の痛みは咽頭炎に比べて強く、痛みにともなって熱も出やすいのが特徴。喉が痛いな、と思っていたら数日のうちに悪化し、激しい痛みを起こすケースが典型的だ。櫻井さんは、「進行すると炎症が扁桃から周囲の軟口蓋(なんこうがい)と呼ばれる部分へと広がっていきます。この状態が『扁桃周囲炎』です」と話す。

さらに進行すると、炎症部位に膿(うみ)が溜まってくる。鏡で扁桃を見たときに扁桃の周りが腫れていたら、その可能性がある。これが「扁桃周囲膿瘍」だ。

「扁桃炎は扁桃の左右両方で悪化することが多いのですが、扁桃周囲炎や扁桃周囲膿瘍はどちらか一方に見られることが多いです」(櫻井さん)

激しい痛みと腫れにより、「口が開けられない」「口ごもるような声しか出せない」「食事や水が喉を通りにくい」などの症状が起こってくる。

「糖尿病や免疫不全などの持病がある人では感染症が長引いたり、重症化しやすいといわれていますが、扁桃周囲膿瘍の患者さんにはこうした持病のない人も珍しくありません」と櫻井さん。患者には30〜40代の比較的若い人も多い。扁桃炎があるのに無理をして仕事をしたら、ひどくなって受診した、という患者さんのケースが典型的だという。

扁桃炎の原因は、主に溶連菌(主にA群溶血性レンサ球菌)いう細菌だ。飛沫や接触により感染する。ほかにも、健康な人の喉や鼻腔に普段から生息しているインフルエンザ菌や、肺炎球菌などの常在菌が原因になることもある。こうした菌が免疫力の低下や風邪などの感染をきっかけに活発になり、扁桃炎が引き起こされる。

いずれにしても、「普段、健康だから、大丈夫」「若いから、大丈夫」などと過信せず、ちょっとでも喉の症状が悪化したら診てもらったほうがよさそうだ。

治療だが、扁桃炎や扁桃周囲炎では抗菌薬をまずは使う。扁桃周囲膿瘍では針を刺したり、切開したりして膿を出す必要がある。櫻井さんによると、「痛みが強く食事ができない場合や発熱など全身状態が強い場合は、入院して点滴治療を受けながら、治療することになる」とのこと。繰り返すが、「たかが喉の痛み」とあなどれないのだ。

また、扁桃周囲膿瘍が進行すると喉の下に病巣が広がり、首に膿が溜まって腫れることもある。まれではあるが、さらにその下にある左右の肺の間の「縦隔(じゅうかく)」という空洞部分に感染が広がることも。

そうなると、呼吸困難を起こしたり、細菌が全身にまわって敗血症を発症したりする危険もある。敗血症とは心臓や肺などさまざまな臓器の機能不全が起こる状態で、水分や電解質などの輸液を投与しても血圧の低下が改善しないものを敗血症性ショックと呼ぶ。

櫻井さんは言う。

「首や縦隔に膿が溜まった場合は外側からメスを入れ、膿を出し洗浄して専用のチューブ(ドレーン)を挿入して治療します。ただし、若い人がここまで重症化することはまれで、高齢者が多いですね。高齢者は高熱が出にくく、知覚が全般的に低下していることもあって、喉の痛みも感じにくい。このため、病気の発見が遅れやすいということも一因だと思います」

ところで、扁桃炎や扁桃周囲膿瘍の再発を繰り返す人が一部にいる。

「扁桃炎や扁桃周囲膿瘍を繰り返す場合は、扁桃を摘出する手術が必要になることもあります。扁桃は免疫組織ではありますが、摘出しても免疫力低下などの問題はないとされています。とはいえ、このようにならないためにも、初期の扁桃炎の段階できちんと治療をしましょう。発症したらしっかり休息することも大事です」(櫻井さん)

10〜20代の発症が多い「キス病」

次は伝染性単核球症という病気だ。こちらも扁桃炎の一種だが、細菌ではなく、ヘルペスウイルスの1つであるEBウイルスが原因で起こる。

「キス病(kissing disease)」と呼ばれているのは、主に唾液によって感染する、つまりキスがきっかけになる病気だからだ。したがって、この病気は思春期から比較的若い10〜20代に発症しやすい。

実はこのEBウイルスは、成人までにほとんどの人が感染する身近なウイルス。乳幼児期のときに家族からのキスなどで感染してもほとんどは無症状だが、未感染の人が思春期以降、初めて感染すると、重い症状を引き起こす伝染性単核球症になりやすい。

EBウイルスの一部は感染後、喉や血液中で潜伏し、休眠状態に入る。そして、風邪や体調不良をきっかけにときどき目覚めて再活性化し、感染者の唾液の中に出てくる。この唾液を介して未感染の人が感染するわけだ。

自分が感染者かどうかは抗体を調べればわかるものの、実際に検査を受けている人は少ない。つまり、誰もが感染する可能性があり、ウイルス保有者として人にうつす可能性もあるわけだ。それだけに、発症が疑われたら、早めに医療機関を受診することが望まれる。

「高熱と喉の痛みから始まり、首のリンパ節が腫れるのが特徴。首の後ろを押さえたときに、ぽこっと腫れていたら要注意です。血液検査をすると異型リンパ球といって、通常とは形の異なるリンパ球が増えています」(櫻井さん)

異型リンパ球は病原体などの異物に反応することでできるが、伝染性単核球症の場合、最も顕著に表れるという。また、肝機能の悪化が見られることもある。

細菌と違い、ウイルスに対する治療薬はないため、痛みや炎症を抑える薬を使いながら、自然に回復するのを待つことになる。「ほとんどのケースは悪化することなく、2〜3週間程度で回復しますが、熱がひかない場合、肝機能がよくならない場合などでは、経過観察をしていく必要があります」と櫻井さん。

もちろん、治療中はウイルスが活発に唾液中に出てきているので、他者に感染させないよう注意すべきだろう。

なお、なかには伝染性単核球症の症状として、左上腹部にある脾臓が腫れる患者もいる。脾臓は血液豊富な臓器なので、衝撃を受けて破裂すると出血性ショック(出血により体から大量の血液が失われることで、全身の臓器障害が引き起こされる状態)を起こすため、腫れが治まるまで運動などを禁止する必要がある。

喉の痛みはウイルスや細菌に感染した兆候であり、悪化させないためには体を休めることが大事であることは間違いない。さらに、適切な処置を受けるために、内科や耳鼻咽喉科などを受診したほうがいい。

前回の記事(【喉の痛み・声がれ】注意したい咽頭の病気一覧)でも書いたように、鼻咽腔内視鏡や首のエコー検査が必要な場合は耳鼻咽喉科への受診が適切で、必要に応じてかかりつけの内科医に紹介してもらおう。

喉の感染症を予防する方法

では、さらに一歩進んで、できるだけ感染をしないための予防策はあるのだろうか。

櫻井さんはセルフケアとして、「こまめな水分補給」と「口腔ケア(口の中を清潔にすること)」が有効だとアドバイスする。

「喉が乾燥するとウイルスや細菌に感染しやすいため、普段から水やお茶などをこまめにとって、喉を潤すといいでしょう。会議などで長時間、話をしている中で、『声が出しづらい』『声が上ずっている』と感じたら、水分摂取のサインです」

のどあめも喉を潤す効果がある。砂糖の摂りすぎに注意しつつ、利用するといいだろう。うがいで喉を洗うこともいいそうだ。これは喉を潤すことが目的なので、うがい薬を使う必要はなく、水道水で十分だという。

口腔ケアについては、高齢者の死因になりやすい誤嚥性肺炎やインフルエンザの予防に有効であることは以前からいわれていた。


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口の中には虫歯菌や歯周病菌などを含む多数の細菌(悪玉菌)が棲みついている。口の中を清潔にすることでこうした細菌が減り、自浄作用などを促す善玉菌が優勢になることで、外から侵入する病原菌を防御する力が高まるといわれている。

口腔ケアの前提として、まず虫歯や歯周病など治すべき病気があったら、それを治療すること。そのうえで、日々の歯みがき、デンタルフロスといったセルフケアを励行する。男性は、“食後につまようじ”ではなく、歯みがきの習慣をつけることをお勧めしたい。

(取材・文/狩生聖子)

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藤田医科大学岡崎医療センター耳鼻咽喉科
櫻井一生医師

1979年名古屋保健衛生大学(現・藤田医科大学)医学部卒。同大耳鼻咽喉科入局。藤田学園保健衛生大学(現・藤田医科大学)医学部耳鼻咽喉科講師、助教授、臨床教授、特命教授などを経て2020年4月より、現職。日本耳鼻咽喉科学会耳鼻咽喉科専門医、日本気管食道科学会気管食道科専門医(咽喉系)など。

(東洋経済オンライン医療取材チーム : 記者・ライター)