アメリカでもっとも人気の高い右ハンドル車と言えるのが、歴代の日産「スカイラインGT-R」。こちらのBCNR33型は1995年から1998年にかけて販売されていたため、車齢25年を経過。輸入のハードルが下がり、注目されている(写真:平野 陽)

アメリカのカリフォルニア州で開催されている日本車の旧車愛好家イベント「Japanese Classic Car Show(以下JCCS)」。その会場で近年、目に見えて増えているのが軽自動車と右ハンドルの参加車両だ。アメリカで見つけた珍しい日本車たちを写真とともに紹介していこう。

ご存知のとおり、軽自動車は日本独自の規格であるため、一部モデルを除いて基本的にはアメリカには正規輸入されてこなかった。また、当然ながら右ハンドル車もアメリカでの生産や正規輸入は行われていないので、いずれもレアな存在である。

それらの車両のオーナーに話を聞いてみると、ほとんどの場合が専門の輸入業者を介して日本などから並行輸入したか、すでにアメリカに輸入されていた中古車を購入したという。では、なぜそこまでして軽自動車や右ハンドル車がほしいのかと聞くと、「他人が持っていないクルマを所有する優越感を味わいたいから」という答えが大半だった。

日本独自のクルマはアメリカで走れるのか?


R33型のひとつ前のモデルであるR32型スカイラインも大人気。GT-Rはかなり高額になるため、4ドアのGTEといったお値打ちモデルも輸入されている(写真:平野 陽)

そもそもアメリカで軽自動車や右ハンドル車を所有したり、公道を走ったりできるのだろうか。それには、そのクルマを「輸入できるかどうか」という問題と、その人が住んでいる州で「登録できるかどうか」という問題が存在し、結論としてはケース・バイ・ケースということになる。

まず輸入できるかどうかに関しては、JETRO(日本貿易振興機構)がまとめた下記リンクが有用だ。
参考:JETRO|中古車の現地輸入規制および留意点:米国向け輸出

要約すると以下のようなポイントが挙げられる。

1)右ハンドル車の輸入に特別の規制はない
2)排ガス基準に適合する必要があるが、例外もある
3)安全基準に適合する必要があるが、例外もある


「鉄仮面」の愛称でも知られる後期型のDR30型スカイライン2000ターボRS。JCCSでも見かけるのは稀な希少車だ(写真:平野 陽)

じつはハンドル位置に関しては、右であろうと左であろうと、なんだったら真ん中だろうと、それ自体に規制は存在しない。何はともあれアメリカ運輸省(DOT)の道路交通安全局(NHTSA)が定める連邦自動車安全基準(FMVSS)に適合していなければならない。


軽トラも意外とアメリカの旧車マニアに人気アリ。なかでもホンダの「アクティ」は、すでに生産を終了していることから、その希少性がマニア心をくすぐるようだ(写真:平野 陽)

だが、当のNHTSAが輸入不適合車を規定しているeligibility listには、「FMVSSに適合していない自動車の輸入は禁止されているが、それは少なくとも25年以上(製造年月日に基づく)経過した自動車には適用されない」と記されている。つまり製造から車齢25年をすぎたクルマは、輸入するうえでFMVSS適合を証明する必要がなくなるのである。

よく聞く「25年ルール」とは?


日本でしか手に入らない軽自動車の2シータースポーツも人気。ホンダの「ビート」をはじめ、JCCSではオートザム「AZ-1」やスズキ「カプチーノ」なども見られる。ちなみにこちらのビートは、オクラホマ州で登録された車両で、なんとイベント会場まで片道約1500マイル(約2415km)を自走してきたという強者だ(写真:平野 陽)

ちなみに、その一文こそが日米の中古車専門業者や輸出入業者の間で語られることの多い、いわゆる「25年ルール」の根拠にもなっている。一般的に「25年が経過すれば輸入解禁」と解釈されがちな25年ルールだが、正確には25年経っていないクルマでもFMVSSへの適合を証明するか、適合させるための改造ができれば輸入は可能である。ただし、そのハードルが極めて高く、実質的には実現が困難であるため、みな25年が経過してFMVSSの適合証明をする必要がなくなるのを、今か今かと待っているというわけだ。


リアエンジンを採用したスバル「サンバー」のワンボックスバン。こうした小型のワンボックスカーはアメリカでは極めて珍しいため、JCCSの会場でもよく目立つ(写真:平野 陽)

また、アメリカの環境保護庁(EPA)が基準を定める排ガス規制についても、諸条件を満たした車齢21年以上のクルマに関しては、輸入するための規制は免除されることになっている。

ということで、車齢25年を経たクルマ、2023年を起点にすれば1998年式より古いクルマに話を絞れば、軽自動車であれ、右ハンドル車であれ、輸入自体のハードルは意外と高くない。




じつはトヨタがアメリカ向けにはじめて輸出した乗用車でもある「クラウン」。アメリカでは1958年から1972年まで販売されたが、それ以降は中断されていた。このたび、最新モデルが再上陸する運びとなったが、それまでの間に販売されていた5世代目から15世代目までのモデルは未知の存在。1987年デビューのS130型や教習車でおなじみのクラウン・コンフォートなどが参加していた(写真:平野 陽)

だが、先ほど述べたもう1つの問題である、住んでいる州で登録ができるかどうかは、輸入できるかどうかとは別問題。アメリカには日本のような車検制度はなく、登録上もハンドル位置は問われないのだが、ただひとつ、州ごとに定められた排ガス試験はクリアしなければならない。とくにJCCSの開催地でもあるカリフォルニア州は排ガス規制がきびしく、EPAが定める基準よりもきびしい基準が設けられている。


アメリカでも同型の左ハンドルモデルが販売されていたにもかかわらず、人気車の場合はあえて右ハンドル車を輸入するマニアも存在。ホンダの初代「NSX」はアメリカではアキュラブランドで展開されていたので、そちらを買うという選択肢もあったはずだが、オーナーとしてはフロントのバッジがアキュラの「A」ではなくホンダの「H」マークであることが誇りなのだろう(写真:平野 陽)

結論はケース・バイ・ケースと書いたのもそれが理由で、公道を走ることができるかどうかは、その個体が排ガス試験をクリアできるかどうかにかかっているのだ。軽自動車に関しては、州によって比較的簡単にパスできるようだが、スポーツカーはハードルが高く、エンジンをオーバーホールするなど、それなりに手間と費用をかける必要があるようだ。

コレクションや私有地のみでの走行という割り切りも


アメリカでも高い人気を誇る歴代のトヨタ「ランドクルーザー」だが、じつはタフユース向けの70系は販売されていなかった。こちらもそんなアメリカ人にとっては珍しい右ハンのランクル70。オーストラリアや南アフリカなど、日本以外の右ハンドル市場にも多く流通しているので、必ずしも日本から輸入した車両とは限らない(写真:平野 陽)

ただ、そもそも趣味性の高いモデルに関しては、あくまでコレクションと捉えているオーナーが多いのも事実。そういった人たちは、JCCSのようなイベントに参加するとき、またサーキットを走るときだけトレーラーで牽引すればいいので、登録する必要もないと割り切っているようだ。

また、軽トラなどは牧場経営者が広大な敷地内の移動に使ったり、猟銃を携えて狩猟を楽しむのに使ったりと、あまり日本人の発想にはない用途もある。それもまた私有地を移動するだけなので登録する必要もない。

そのように、日常的に乗れなかったとしてもほしくなる軽自動車や右ハンドル車。アメリカの旧車マニアにウケているのは、「それがそこにしかないから」と蒐集欲を激しく刺激するからにほかならない。


S13型の日産「シルビア」はアメリカでも「240SX」という車名で販売されていた。だが、両車はフェイスデザインとエンジンに違いがあり、240SXはリトラクタブルヘッドライトを採用。顔面だけコンバートすることも技術的に可能ではあるが、こちらのオーナーはどうしても日本仕様のシルビアがほしかった模様だ(写真:平野 陽)


2003年に8世代目モデルが正規輸入されるまでは、アメリカで販売されることのなかった三菱「ランサーエボリューション(通称ランエボ)」。熱狂的マニアたちがこうして右ハンドル車を輸入して走りを楽しんでいる。右が2世代目のランエボII、左が4世代目のランエボIV(写真:平野 陽)



ある意味、アメリカ人にとっての憧れの右ハンドル車を象徴する存在とも言えるトヨタの「センチュリー」。純和風に設えられた高級感が他では得られない満足感を与えてくれる(写真:平野 陽)


セド・グロの愛称でも親しまれた日産の「セドリック」と「グロリア」。こちらは6世代目のY30型セドリックワゴン。2.8Lの直6ディーゼルを搭載したモデルで、アリゾナ州のナンバーが付いていた(写真:平野 陽)



トヨタの「ハイエース」や「グランビア」、日産「ホーミー」といった箱型バンも一部の愛好家からの支持を集めている。ハイエースはニュージャージー州、グランビアはカリフォルニア州のナンバーを付け、ファミリーカーとしてバリバリ走っている雰囲気だった(写真:平野 陽)

(小林秀雄 : ライター)