本作の目玉「大ドラフトモード」とは…?

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◆ 野球ゲームの移り変わりから見るプロ野球史〜第24回:ガチンコプロ野球

 あの夜、ボブ・サップ対曙の一戦は瞬間最高視聴率43.0%を記録した。

 2003年の大晦日。格闘技バブルはピークを迎え、TBS(K-1)、フジテレビ(PRIDE)、日本テレビ(猪木祭り)の民放3局がNHK紅白歌合戦に視聴率バトルを挑んだのだ。

 格闘技ブームで、“ガチンコ”という言葉も世の中に広まり(TOKIOが司会の同名バラエティ番組もあった)、03年8月7日にはPS2ソフトの『ガチンコプロ野球』(ナウプロダクション)も発売された。

 前年のゲームボーイアドバンス版に続く、シリーズ第2作目。パッケージで激推しされている「プロ野球ゲーム初のトゥーンシェイダー技術採用!」はちょっと何を言っているのかよく分からないが、デフォルメ化された可愛らしいキャラとは裏腹に「相手のクセやデータ、実況・解説のコメントを分析して戦う“新感覚ピッチング”&“バッティングシステム”」という、まさに本格派のガチンコすぎるプロ野球ゲームである。

 打者の得意ゾーン等の分析データ表示に加えて、「3球目も続けて内角勝負でしょう」的な実況解説を参考に球種やコースを読み合う「投打の駆け引き」で試合進行。アクション性に乏しいとか、1試合の時間がかかりすぎて野球ライトユーザーにはハードル高すぎとか問題はあれど、新感覚野球ゲームに挑戦した野心作だ。

◆ 「プロ野球RPG」とも言うべき異端のモード

 本作にはアドバンス版にはなかった「大ドラフトモード」を搭載。監督として日本全国を駆け巡り、OB含む670名以上の実名選手の中からお目当ての選手と交渉。500ターンという長丁場で選手を集め、ラストのドラフト会議で指名して自チームを作っていく。年俸交渉に成功しても、ドラフトで他球団に先に指名されたら入団させられない現実さながらの駆け引き要素も強い。

 選手たちは基本的に出身地に近い地域に戻っているので、マップ上で見つけたら話しかけ、好物や希望年俸を聞き出し、「京都にある、あのお土産が欲しいですね」なんて無茶ぶりに応えるため限られた資金の中でやりくりして、新幹線や飛行機、ときに節約のため徒歩で移動。現地のショップで宇治茶を買って戻り、必死に友好度を上げ、いざ年俸提示しても「他のチームとも交渉したい」なんつって秒殺されるリアル。いっそ裏金を積んで……じゃなくて、逆指名ドラフト時代のスカウトの苦労を追体験できてしまう。

 マップ上で他球団の監督と同じマスで重なるとバトルイベントが発生。すでに交渉済みの選手同士の各数値で勝負を決め、負けたら遠隔地に弾き飛ばされ交渉も中断。定期的に各地で開催されるOB会に能力値の高い往年の名選手たちが集結するので、行動ルートが被りやすく、アイテムも駆使してのゲーム進行となる。

 相手が地元に帰りたくなる「応援曲のCD」や、自分の移動可能範囲が倍になる「スポドリR」、仕掛けられたアイテムを投げ返す「自動追尾グローブ」まで。まさにベースボールクエスト、“プロ野球RPG”とも言える異端のモードに仕上がっている。

◆ 500ターンに及ぶ交渉後に幕を開ける「大ドラフト会議」

 個人的に大阪近鉄バファローズをベースに大ドラフトモードを始めたが、序盤にオリックスのレオン監督から、選手に悪印象を与える「うんちゃん帽」を投げつけられ、交渉は難航する。

 仕掛けられたアイテム効果がいつ解除されるかも分からない高難易度仕様に絶望しながらも、地道なスカウト活動を継続。北海道で開催されたOB会では、うんちゃん帽を被ったままホームランアーティスト田淵幸一と交渉に臨み、頭にウンコを乗せて殿堂入りプレーヤーと話すめちゃくちゃ失礼な状況にも関わらず、なんとか年俸提示までこじつけた。

 12球団の本拠地を訪ね、チームごとの指名リストメモをチェックして動向を確認しながらゲーム進行。原巨人にマネーゲームを挑み、高橋由伸に年俸2億円の破格の条件提示をして吉報を待った。

 ロード時間が長く、他球団同士のバトルまで表示されるテンポの悪さは気になったものの、ポジションが偏らないように注意しながら選手を探し出し、ライバル球団より好条件を提示してチーム編成していく作業は、野球好きにはたまらない。ハードな旅のオトモの秘書役に犬の“のら”を連れて行くと、ときに隠れている名選手を探してくれる遊び心も健在だ。

 そして、500ターンの長い交渉後に始まるメインイベントの「大ドラフト会議」は、コントローラーを握りしめながら妙に緊張して臨んだ。

 1巡目には、OB会で狙い撃ちした“平成の大エース”斎藤雅樹を単独指名。さらに史実では近鉄が7球団競合を引き当てるも、入団拒否された福留孝介の3位指名にも成功した。

 今度こそと言いつつ、当時の近鉄監督・佐々木恭介もOB枠で指名。浪速で「1番・福留」「2番・佐々木」の夢の師弟1・2番コンビ結成だ。5巡目でアレックス・ラミレスと阿部慎之助を迷ったが、ラミレスを選択。しかし、巨人が5位で阿部を単独指名して持っていかれてしまう。指名が重複したら、友好度と提示年俸の比較で交渉権が決まるが、いつの時代もマネーゲームと情報戦を制するものがドラフトを制するのである。

 CPUが謎の指名(西武1位・上田浩明とか)を繰り返したり、あっさり6巡目あたりで指名終了するのを横目に我がチームは25人を指名。ラミレス、田淵、カブレラ、オマリー、小久保裕紀らが並ぶ“新いてまえ打線”の大阪近鉄バファローズでペナントモードを戦うことになった。ライバルは隙あらば「うんちゃん帽」を投げつけてきた、中村紀洋や金本知憲を擁するオリックスだろうか。

◆ プレミア化は必至…?

 その斬新な独自路線から、一部で根強いマニア人気を誇り、発売から20年が経った今も時々現役で遊んでいるファンもいるのではないだろうか。

 なお、最近はこのPS2版『ガチンコプロ野球』は市場でほとんど出回っていない。当時大人気ソフトの『ウイニングイレブン7』と同日発売で、もともとの販売本数が少ないということもあるが、Amazonや駿河屋では品切れ中。ヤフオクでも1カ月ほど前にほぼ新品定価の6980円で見かけたきりだ(5月5日現在)。

 マジでレア化する5秒前。実店舗ならまだ1000円前後で販売されているケースもあるので、もし運良く見かけたら即買いがベストだろう。

 確かに本作は最近のゲームにはない理不尽さや面倒臭さも数多くあれど、それも含めてガチ仕様だ。

 最近の野球ゲームはどれも似ていて簡単すぎる……そんなあなたにこそオススメしたい、『ガチンコプロ野球』である。

文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)